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私が動物の保護活動に取り組む理由

2017/03/23

「Project Zero」と「Project Red」という二つの活動を柱に、動物の保護活動に取り組んでいる滝川クリステルさんに話を伺いました。

滝川クリステルさん

馬は走り、鳥は飛ぶ 自由な姿が当然だった

 

小さい頃から、動物が当たり前のようにそばにいる生活をしていました。フランスの田舎に住んでいたときは、いつも庭で馬が走っていたり、ウサギが跳ねていたり、鳥も籠の中で飼わないで、家の中を自由に飛んでいたり。

子どもながらに、普通は籠の中にいるのに、どうしてうちでは違うのだろうと思ったこともありましたが、私の母がフェアな形で動物に接する人で。彼らも私たちも同じように自由で、ストレスなく、幸せにという発想だったんですね。だからみんな長生きで、私が5歳のときに自分の貯金で買ったカメが、まだ元気に生きています。本当にカメは長生きなので、覚悟して迎えた方がいいと思いますが(笑)、その子たちもやっぱり自由に放していて、動物はこう飼うべきと思ったことがありませんでした。

私の中では、お互いが自然に共存している形が普通だったので、元々は「助けなければ」という危機感はなかったんです。でも、大人になってから動物たちの現状を知り、いろいろと調べていくうちに、自分は何も知らなかっただけなんだとガツンと頭をたたかれた思いがしました。

特に、生物多様性の意義や重要性を知ってから、環境保護や緑化などに比べて動物の存在が薄いことにすごく疑問を感じました。人間と動物と自然環境のバランスが大事なはずなのに、世界が動物にいかに支えられているかを考える機会はそれほど多くないですよね。動物の問題に目を向けなければ、生物多様性の保全にもつながらないと思ったんです。

私は彼らのおかげで豊かな子ども時代を過ごせたので、ちゃんと恩返しをしたいというところから、野生動物の保護やペットの殺処分問題に注目し、10年ほど前からその分野の情報発信をするようになりました。

立教女学院小学校で
立教女学院小学校で

2020年を見据えて 今スタートしよう

 

ただ、個人の活動には限界があります。いずれ何らかの団体を立ち上げようと思っていた中、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まって、今踏ん張らなければと、背中をぐっと押されました。日本人にこのような目標ができたことで、せめて2020年までには状況を少しでも良くしようと訴えやすくなりますし、自分にも目標をつくれます。縁あって一緒に進めていける仲間と出会えたこともあり、2014年5月に一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを設立しました。「ヴィ・アンサンブル」は、フランス語で「共に人生を歩む」「一緒の命」という意味です。

現在の活動の柱は「Project Zero」と「Project Red」の二つです。Project Zeroでは、日本で足元にある動物の問題としてペットの保護を取り上げ、具体的には2020年までにアニマルウェルフェア※1に則った犬猫の殺処分ゼロを目指しています。取材対応や講演を通して、年間8万頭以上の犬猫が殺処分されている※2現状を伝える一方、殺処分前の犬猫を保護するシェルターの支援に取り組んでいます。

また、「フォスターアカデミー」というセミナーを、もう20回ほど行っています。フォスターとは、保健所やシェルターにいる犬や猫を新しい飼い主が見つかるまで一時的に預かるボランティアのことです。フォスターが増えれば、保健所で処分される數も減り、シェルターに空きが出れば保健所からまた別の動物を引き取ることができます。それに、いきなり新しい飼い主になるのはちゅうちょする、という人とのつなぎ役にもなれます。まずはフォスターという制度を広めて、そういう意志がある方々同士のネットワークも生まれればと期待しています。

二つの活動の両輪で 企業の支援にも期待

 

Project Redは、絶滅の危機にひんする世界の野生生物のリスト「レッドリスト」にちなんで名付けた、野生動物の保護活動です。まずは日本の問題として、北海道の猛禽(もうきん)類、シマフクロウをはじめとする絶滅危惧種に注目しています。なぜ猛禽類かというと、生態ピラミッドの頂点や上位に位置する彼らは、その数が生態系の維持に大きな影響を与えることが多く、日本の森を守る上で重要な役割を担っているからなんです。

シマフクロウと
シマフクロウと

実際に北海道でレスキューに携わられている猛禽類医学研究所の代表・獣医師である齊藤慶輔先生と協力して、現場ですぐ治療ができるようドクターカーを提供したり、先生の活動を広めるお手伝いをしたりしています。私も何度も北海道に足を運びましたが、野生に返れない動物もたくさんいて、衝撃を受けました。とにかく広報をしている時間もない方々なので、私たちは命を直接助けている方を広報や啓発の点から支えたいと考えています。

ZeroとRedの二つを両輪で取り組む意義は、支援者を増やす点で、実は大きいんですね。野生動物の保護というとスケールも大きく、企業をはじめ法人にも目を向けてもらいやすいのですが、ペットの話は身近過ぎて、小さい問題にも見えてしまいます。でも両方とも同じ、“共存”に関する問題なので、Redの支援を入り口に、犬猫の問題も意識していただく流れをつくれればと思っています。

私も勉強し始めて知ったのですが、海外では例えばシェルター施設にしてもほとんどが民間のサポートなんです。清潔感があって、誰でも気分良く入れるシェルターも多いんですね。でも日本だと、個人の方々がボランティアや寄付を通じてぎりぎりのところで成り立たせていて、行き届いているとはいえません。シェルターの環境が良ければ、そこで過ごす子たちにとって良いのはもちろん、彼らを迎えたいという新しい飼い主さんを増やすことにもつながります。そうした部分を、ぜひ企業の方々にサポートいただけたらと願っています。


※1 快適性に配慮した生き物の飼育
※2 環境省 犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況(平成27年度)

www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html