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デジタル広告の“価値毀損”を防げ!No.1

デジタル広告の新常識「ビューアビリティ」「アドフラウド」「ブランドセーフティ」

2017/04/14

今や世界的に問題となっている、デジタル広告の“価値毀損”。日本ではまだ聞き慣れない言葉かもしれないが、実際に起こっている事態は深刻で、一刻も早い対策が求められる。

本連載では広告価値毀損問題の基礎知識を紹介していく。第1回となる今回は、アドテクノロジー領域を主に手掛け、電通PMPを立ち上げるなどの取り組みを行ってきた電通の村山亮太氏に、広告価値毀損を構成する三つの課題「ビューアビリティ」「アドフラウド」「ブランドセーフティ」について語ってもらった。

デジタル広告の価値毀損問題と三つの課題

先日、電通は以下のリリースを配信しました。


電通、ウェブ広告の価値毀損測定で世界最大手のインテグラル・アド・サイエンス社から日本初のパートナーに認定
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2017/0314-009192.html

 

しかし、「ウェブ広告の価値毀損測定」とはいったいなんのことでしょうか?

多くの方にとっては聞き慣れない言葉であっても、デジタル広告に関わる人間にとって非常に重要な問題なので、順を追って紹介していきたいと思います。

広告価値毀損の話題は、ほとんどが下記の問題についての議論になります。

●「ビューアビリティ」(Viewability)
広告がユーザーに本当に見られているのか?
●「アドフラウド」(Ad fraud)
広告が“人”ではなく“ボット”(=BOT、インターネット上の操作を自動で行うプログラム)によって閲覧やクリックがされていないか?
●「ブランドセーフティ」(Brand safety)
広告が不適切なサイト上に表示されていないか?

今回は、デジタル広告を侵食するこの「3課題」について解説します。

欧米で始まった広告毀損問題が日本にも波及

2017年1月、世界的なインタラクティブ広告業界団体IABのカンファレンスで、米P&Gの最高ブランド責任者マーク・プリチャード氏が「広告価値毀損」に関するスピーチを行いました。現状のデジタル広告の問題点を鋭く指摘し、解決を呼びかけたこのスピーチは、欧米のマーケティング業界で大きな話題となりました。

また、前述の3課題のうち、「ブランドセーフティ」の問題が大きくクローズアップされる出来事が2017年の3月にありました。世界的な広告会社アバスが「ブランド毀損リスクの高さ」を理由に、GoogleやYouTubeへの広告出稿をイギリスでは全面的に取りやめたのです。

ネット上にはヘイトコンテンツをはじめとする、広告配信先としては“不適切”なコンテンツが多数存在します。クライアントのポリシーに著しく反するようなコンテンツ上に広告が表示されてしまうことは、時にクライアントのブランド価値を大きく毀損しかねません。

現在のデジタル広告の多くは“運用型”で、「自社の広告がどんなコンテンツ上にどのように表示されているか」を把握することが難しく、そこに広告価値毀損が発生する余地があります。

このYouTubeのケースでは、実際にヘイトスピーチの動画など“不適切なコンテンツ”への広告表示が問題となりました。アバスのみならず、大手エージェンシーやクライアントが次々とYouTubeへの出稿を取りやめると表明し、広告価値毀損という問題が一段と広く認知されるきっかけとなったといえます。

広告価値毀損の問題で特筆すべきは、これらの影響がほとんど時差なく、日本にも波及しつつあることです。

従来、欧米のアドテクノロジーのトレンドやその問題点などは、2年から3年遅れて日本に浸透するケースがほとんどでした。例えばRTB(リアルタイムビディング)が一般的になるにも時間を要しましたし、DMP(データマネジメント・プラットフォーム)、3PAS(第三者配信)、PMP(プライベート・マーケットプレイス=優良広告枠限定の自動取引システム)などに至っては、いまだに日本に浸透しているとはいい難いです。

しかし、広告価値毀損の問題は例外的に、ほぼリアルタイムで日本にも大きな影響を及ぼしつつあります。これは情報化社会による情報の均質化が進んだからというよりも、問題の深刻さを示していると考えるのが妥当でしょう。

課題①「ビューアビリティ」 広告が実際に閲覧可能な状態で、表示されているか
 

配信インプレッション全体のうち、「ビューアブルインプレッション」(実際にユーザーがその広告を閲覧できる状態にあったインプレッション)の占める比率をビューアビリティ(Viewability)といいます。

ウェブメディアの広告枠は、そのページを開いた瞬間に見えるファーストビューではなく、画面を下部までスクロールしないと見られないような掲載枠が多くなっています。現実問題として、多くのユーザーは、スクロールしてその掲載枠が画面に出現する前に、そのページ自体を離脱してしまいます。

ビューアビリティー(ViewableなバナーとViewableでないバナー)
 

このとき、その枠の広告は実際のモニター上には現れてすらいないわけですが、広告自体はページが読み込まれたタイミングで“掲載”されています。そのため、クライアントは「画面に全く表示されていない」これらの広告にも課金させられているわけです。

ビューアビリティとは、このような問題をクリアし、適切にユーザーに表示された広告配信のパーセンテージのことです。

どんな広告表示がビューアブルインプレッションであるかについては、IABがより詳細な基準を提唱しています。

右の定義は広く認知され、現在業界のスタンダードになっています。

【IABの提唱するビューアブルインプレッション】 「広告の50%以上が1秒間以上(動画の場合は2秒以上)表示されたインプレッション」
課題②「アドフラウド」 広告が“機械”ではなく“人”に対して、表示されているか
 

アドフラウド(Ad fraud)とはいわゆるボットによる広告表示のことです。不当に広告表示回数などを水増しするためなどになされた、“人”ではなく、“機械”による広告閲覧や広告クリックです。

特に、マネタイズのために作られた質の低いサイトなどでは、意図的にボットがまかれているケースも多くあります。

「ボットは広告閲覧(インプレッション)するタイプのものしかない」と勘違いされることが多いですが、クリックにおいてもボットのリスクは低くありません。クリック率(CTR)が高い広告枠は高値で取引される傾向があり、それを知った悪意のあるメディアが“クリックボット”を使ってクリック率を高水準に保っているのです。

ボットは主に2タイプに分類されます。

Googleボットのように、マネタイズのためではなく、あくまでもサービスの充実に寄与するために利用されている悪意のないボットは「GIVT」(General acted Invalid Traffic)と呼ばれます。一方、もっぱらマネタイズなどの不正のために利用されている悪意のあるボットは「SIVT」(Sophisticated acted Invalid Traffic)と呼ばれます。

・GIVT(General acted Invalid Traffic): 悪意のない(=収益目的ではない)ボット  ・SIVT(Sophisticated acted Invalid Traffic): 悪意のある(=収益目的の)ボット
 課題③「ブランドセーフティ」 広告が適切なサイトやコンテンツに、表示されているか
 

ポルノコンテンツや反社会的活動関連など、そこに広告を掲載することでクライアントのブランドイメージを大きく毀損してしまう可能性があるサイトやページがあります。そうしたページへの広告掲載をいかになくすかが、ブランドセーフティ(Brand safety)の考え方です。

前述のアバスによるYouTubeなどへの広告出稿取りやめは、まさにブランドセーフティの問題でした。アバスのクライアントの広告が、テロリストなどの反社会的コンテンツと共に掲載されていることを、アバス自身が調査によって確認したのです。

 

クリック至上主義と広告“表示”の軽視が生んだ3課題

広告価値毀損の3課題には共通点があります。これらが全て広告“表示”に関わる問題だということです。

「ビューアビリティ」 広告が実際に閲覧可能な状態で、表示されているか 「アドフラウド」 広告が“機械”ではなく“人”に対して、表示されているか 「ブランドセーフティ」 広告が適切なサイトやコンテンツに、表示されているか
 

つまり広告価値毀損の問題とは、過度に“クリック”に重きを置き、広告“表示”に注意を払ってこなかった今までのデジタル広告へのアンチテーゼでもあるのです。

今までのデジタル広告、特に運用型広告は、“クリック以降”にその成果指標を置いてきました。クリック以降の指標、すなわち「どれだけ1クリック(CPC)が安いか」「どれだけ1コンバージョン(CPA)が安いか」に対する追求は、投資対効果という観点から、それまでになかった合理性をクライアントに提供しました。

そして、その合理性ゆえ市場は急速に拡大しました。

運用型広告を掲載するメディア(媒体社)も、クライアントの需要を満たし収益性を高めるため、サイトの至るところにバナーを張り巡らせました。結果、ページのローディング時間は遅くなり、ユーザビリティーは悪化していきました。

CPCやCPAの追求はけっして悪ではなく、むしろ合理的な側面が多いです。ただ、“クリック以降”の指標ばかりを過度に重要視してしまうと、1クリックされるまでになされている約1000回(CTRが0.1%の場合)の“広告表示”をどうしても軽視してしまうことになります。

広告の価値毀損の3課題は、全てこの1000回の広告表示を軽視してきたことに由来するといってもいいでしょう。

 

デジタル広告の透明性と健全化にコミットするために

広告価値毀損の問題に対しては、しっかりとした対策が必要です。

まず第一歩として、“クリック以降”だけでなく、“広告表示”の状況を確認することです。そのための、つまり広告価値毀損測定の仕組みを「アドベリフィケーション」(Ad Verification)といいます。

・従来のデジタル広告→クリック&コンバージョン至上主義 ↓ ・これからのデジタル広告→広告“表示”による価値毀損問題を重視するように

本コラムの冒頭で紹介したリリースは、このアドベリフィケーション分野で世界最大手であるインテグラル・アド・サイエンス社(IAS社)が電通をパートナー認定したという発表でした。このパートナー認定の持つ意義についても、今後お話しできればと思います。

次回以降も、アドベリフィケーションの重要性と、デジタル広告の透明性・健全化のための電通の取り組みについてお伝えしていきます。