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インサイトメモNo.56

六つの因子で“理想”の動画広告メディアを探し出す

2017/04/21

かつて“動画による広告”は、地上波テレビを中心とした放送メディアに乗せるCMが主流でした。しかし時代は移り、昨今の生活者は、コンテンツも利用目的も異なるさまざまなメディア上で動画広告に接触しています。

「YouTube」などの動画共有サービス

「GYAO!」や民放公式テレビポータル「TVer」などの動画配信サービス

「Facebook」や「Twitter」といったSNS

新聞や雑誌のデジタル版、キュレーションサイトなどのテキスト系ネットメディア

さらには電車内のビジョン

これらメディアの持つ性質の違いは、広告効果(=ユーザーの態度変容)にどのような影響を与えるのでしょうか?

「生活者がメディアの利用時に受ける印象や、メディアに期待する体験の違い(利用特性)が、広告による態度変容効果に影響を与えているのではないか?」

電通総研はこの仮説を基に、全国男女15歳~59歳を対象としたウェブ調査「動画広告メディアにおける利用特性と態度変容分析」を実施しました。

 

仮説 [1]同じ動画広告でも… [2]載せるメディアの利用特性の違いによって… [3]ユーザーに起こしやすい態度変容(=広告効果)が異なるのでは?
仮説
仮説

本稿では調査結果の一部を紹介しつつ、調査によって抽出された六つの因子を用いて“理想”のメディアを推測する方法を提案します。

 

■調査「動画広告メディアにおける利用特性と態度変容分析」

(詳細な調査条件は記事の末尾に掲載)

●利用メディアの候補 メディアは7カテゴリー30種類、利用時の印象は23項目を設定。できるだけメディア多様化の現状に対応するよう考慮しました。

●態度変容項目 態度変容は4カテゴリー10項目を設定。昨今のキャンペーンの傾向を踏まえ、「BUZZ拡散」や「FAN化」といった“購買とは直接関係のない態度変容”も加えています。

●調査内容 調査対象者には「メディア利用経験の有無」「利用時の印象」、次いで「そのメディアでの広告接触で起きた態度変容」を質問し(図1参照)、その回答結果を基に「因子分析(※)」と呼ばれる手法で解析を行いました。

※因子分析とは多変量解析手法のひとつで、「複数の質問項目の回答結果から、その背景にある共通要素を抽出する」手法です。この共通要素は「因子」と呼ばれ、この因子を通じて複雑に見える事象の背後にある構造を明らかにしていきます。

 

図1 因子分析のための質問項目

<メディア利用経験の有無>
 
<そのメディアの利用時の印象>
<そのメディアでの広告接触で起きた態度変容>
 

抽出された六つの「メディア利用特性因子」

調査結果に対する因子分析の結果、六つの興味深い因子が抽出されました(図2参照)。

これらの因子は、メディア利用時にユーザーの態度変容に影響を与えるものと考えられます。以後「メディア利用特性因子」と呼称します。

図2 六つの「メディア利用特性因子」

図2 六つの「メディア利用特性因子」

「世の中・状況性」「習慣性」といった、いかにもテレビ視聴をほうふつさせるなじみ深い因子がある一方で、ネット動画配信/共有サービスにより強化されたと思われる「コントロール可能性」という因子も抽出されました。「交流性」はSNSと関係が深そうです。「解放・没頭性」「セレンディピティー性」といった、昔からメディアに求められてきた利用特性も出てきました。

現在、生活者がメディア利用時に受け取っている印象は、大きくこの六つの因子に集約されるのではないでしょうか。

 

六つの因子がユーザーにもたらす態度変容効果

六つのメディア利用特性因子と、態度変容効果との関係を見てみましょう(図3参照)。

表中の数値は「各態度変容効果に各因子がもたらす影響の度合い」です。赤がプラスの影響、青はマイナスの影響を示します。

図3 メディア利用特性因子は態度変容をどのぐらい押し上げ(下げ)るか

図3 メディア利用特性因子は態度変容をどのぐらい押し上げ(下げ)るか

✓「世の中・状況性」因子はポジティブな認知に効く
「世の中・状況性」は、認知関心系の態度変容全般に対してプラスの効果が見られる因子です。

この因子の特徴である「世情を把握したい」という情報への欲求により、広告も「一つの情報」として前向きに捉えられることが多いのではないでしょうか。結果、記憶だけではなく、好意や興味といった態度変容に好影響を与えていると考えられます。

この因子が強いメディアは、「商品へのポジティブな認知効果」を期待できる広告メディアといえるでしょう。

✓「交流性」因子はオールマイティー
「交流性」は、記憶とBUZZ拡散以外の全ての態度変容にプラスに寄与します。

この因子は、利用者間のコミュニティー感覚が特徴です。流通する情報も、ある意味「仲間内の話題」的に捉えられており、たとえ広告であっても“自分ゴト化”されやすいのではないでしょうか。その結果、広い範囲の態度変容にプラスの影響を与えていると推測されます。

この因子が強いメディアは、「さまざまな課題に対応できるオールマイティーな素質」を持った広告メディアといえます。

✓「コントロール可能性」「習慣性」因子は記憶効果に限定?
この二つの因子は、記憶以外のほぼ全ての態度変容に対してマイナスの影響を与えます。

「コントロール可能性」はメディア接触時の“目的意識”の高さを示します。このようなメディア利用では、たとえ広告を記憶してもらえたとしても、意図しない広告表示に対して嫌悪感を与える効果があると考えられます。
「習慣性」は逆に視聴の目的意識の低さを示します。単に接触しているだけでは、表示される広告からの気付きにつながりにくいと考えられます。

この二つの因子が強いメディアは、記憶効果に限定したメディアとしての利用を考えるか、マイナス効果を補う何らかの対応が必要であると考えます。

✓「解放・没頭性」因子は顧客とのつながりを深める
「解放・没頭性」は、特にBUZZ拡散系とFAN化系の態度変容でプラスの影響を与えます。

コンテンツに“没頭”している状況では、気に入った広告はある意味お気に入りのコンテンツと同様に消費され、誰かに共有したい(BUZZ拡散)という欲求につながりやすいようです。また、“解放”された気持ちには、心の琴線に触れるFAN化を促進する効果があると考えられます。

この因子が強いメディアは、広告の話題化、顧客とのエンゲージメント強化など、今日的なマーケティング課題の解決に適した広告メディアといえましょう。

✓「セレンディピティー性」因子は販促に効く
「セレンディピティー性」は購入検討系の態度変容にプラスの効果があるのが特徴です。ちなみにセレンディピティーとは「すてきな偶然の出会い」「予想外の素晴らしい発見」を指す言葉です。

生活者が、「自分にとっての新たな発見への期待」を持ちながらメディアに接触している場合、広告情報も「自分自身の潜在的な購入検討のツボに合致しているのか?」というモードで捉えられていると考えられます。

この因子の強いメディアでは、広告は一種の“天啓”であり、販促支援に優れた広告メディアといえます。

複数の因子の組み合わせでメディアの特性を読み解く

六つのメディア利用特性因子は、ユーザーの態度変容にプラスの影響を与えることもあれば、マイナスの影響を与えることもあります。また、得意とする態度変容も異なり、一長一短があることも分かりました。

では、どのメディアがどの因子を持っているのでしょうか(図4参照)。

図4 プラットフォームイメージのメディア別平均因子得点

図4 メディア別平均因子得点

メディアによって因子の強さ(弱さ)に特徴があることが、この表からは見て取れます。

例えば、下記のようなことが分かります。

「世の中・状況性」はテレビ(リアルタイム視聴)Twitterニュース系メディアで強い
「コントロール可能性」はテレビ(録画再生視聴)動画共有サービスで強い
「交流性」はSNSで強い
「習慣性」はテレビ(リアルタイム視聴)Twitterで強い
「解放・没頭性」はテレビ(録画再生視聴)動画共有サービスで強い
「セレンディピティー性」はテレビ(リアルタイム視聴)MERYで強い

※MERYは2016年12月7日以降全記事非公開(2017年4月21日現在)。

 

因子の強さ(弱さ)に特徴があるということは、メディアによって得意とする態度変容が異なることを意味します。動画広告を出稿するメディアの選定に当たっては、各メディアの因子の特性に応じた役割設定が重要といえそうです。

「メディア利用特性因子」を使って、もう少し踏み込んだ考察をしてみましょう。ここでは特定の因子の組み合わせから、マーケティング課題に応じた“理想”の広告メディアを推測する分析をご紹介いたします。

これにより、各メディアのマーケティング上の役割を考える上での視点を提示できると考えています。

 

“理想”の広告メディア①「ワンストップ販促支援メディア」

「世の中・状況性」「セレンディピティー性」両方が強いメディアがあるとすると、それは認知から購買までの一連の態度変容を押し上げる効果がある「ワンストップ販促支援メディア」としての役割が期待できます。

最寄り品の広告宣伝には“理想”の広告メディアといえるのではないでしょうか。

この二つの因子を縦軸と横軸に置いたグラフが図5です。

図5 「世の中・状況性」「セレンディピティー性」因子の各メディアにおける相関関係

図5 「世の中・状況性」「セレンディピティー性」因子の各メディアにおける相関関係

第1象限(グラフの右上)にあるメディアは、「世の中・状況性」「セレンディピティー性」両方が強いことを意味します。

「テレビ(リアルタイム視聴)」「Twitter」「C CHANNEL」「MERY」「雑誌のデジタル版」「NewsPicks」といったメディアが並び、これらは「ワンストップ販促支援メディア」としての素質を持っているといえます。

また、この二つの因子は正の相関(相関係数0.62)を持っており、無理なく共存可能です。両因子の相乗効果で、広告に接触した人を「認知関心」から「購入検討」へスムーズに態度変容させる力を持っていると思われます。

 

理想の広告メディア②「認知系オールマイティー広告メディア」

「世の中・状況性」「交流性」を併せ持つメディアがもし存在するならば、認知検討に軸足を置きつつ、BUZZ拡散以外の全ての態度変容にプラスの効果が期待できます。いわば「認知系オールマイティー広告メディア」としての性質が備わっているといえます。

どんな広告主の課題にも広く対応できる“理想”の広告メディアではないでしょうか。

二つの因子を併せ持つメディアについては、図6をご参照ください。

図6 「世の中・状況性」「交流性」因子の各メディアにおける相関関係

理想の広告メディア②「認知系オールマイティー広告メディア」

こちらも第1象限を見てみましょう。どうやら「認知系オールマイティー広告メディア」の素質を持っているのは、「Twitter」「テレビ(リアルタイム視聴)」といった限られたメディアしかないようです。

また、両因子は弱い負の相関(相関係数-0.25)を持っていることから、「交流性」「世の中・状況性」を共に高めるメディアサービスを実現することは比較的難しいと考えられます。両因子を併せ持つTwitterとテレビ(リアルタイム視聴)は、代替が難しい希少な広告メディアといえるでしょう。

 

同じ要領で目的に応じた“理想”の広告メディアを探し出す

このように「メディア利用特性因子」を組み合わせて分析することで、広告の目的に応じた“理想”の動画広告メディアを推測できます。

今回は2例にとどめましたが、他の組み合わせもいろいろ考えられそうです。

例えば「世の中・状況性」「解放・没頭性」を併せ持つメディアがもしあるならば、認知関心系の態度変容全般と、BUZZ拡散系、FAN化系の態度変容にプラスの効果が見込めます。広告露出で認知を得るだけにとどまらず、さらに拡散させてアーンドメディア獲得を狙っていく「価値拡散広告メディア」としての活用が期待できます。果たしてそれはどのようなメディアなのでしょうか?図4から探してみてください。

本調査の結果、メディアの利用時の印象と態度変容効果の関係性が明らかになり、一口に動画広告メディアといっても、さまざまな特性を持つことが見えてきました。

動画広告のさらなるマーケティング利活用のためには、リーチの視点だけではなく、各メディアの利用特性の差によって生じる態度変容効果への影響を見極めた上で、そのメディアに期待するマーケティング上の役割を判断していくべきではないでしょうか。


調査「動画広告メディアにおける利用特性と態度変容分析」概要
●調査期間:2016年10月
●調査方法:ウェブ調査
●調査対象者:全国男女15歳(高校生以上)~59歳
本調査で対象とするメディアのうち、最低7個以上を「週1回くらい」以上利用している人を対象とした。
●サンプル数:本調査回収サンプル数3000サンプル、分析対象サンプル2301サンプル(ワンパターン回答を除外)

【問い合わせ先】
電通 電通総研 メディアイノベーション研究部
小椋尚太
infomedia@dentsu.co.jp