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思いつきアイデアは、“意図”が切れたタコのようなものだ

新明解「戦略PR」 №47

  • 井口 理

2017/04/24

思いつきアイデアは、“意図”が切れたタコのようなものだ

新年度から1カ月、職場環境が大きく変わった方々もいると思いますが、皆さまいかがお過ごしですか?まずは新しい環境に慣れるということで3カ月くらいは必要ですよね。3カ月たてば世は7月、梅雨の終わりを示す雑節(ざっせつ)である「半夏生(はんげしょう)」の季節となります。半夏生と言えば「タコ」。関西では、この季節に疲労回復効果のあるタウリンたっぷりの「タコ」を食らうという風習があるそうです。健康維持にも努めたいところですね。さて、居酒屋で一年中「タコブツ」を食べている私ではありますが、今回は「タコ」つながりでお話を展開していきましょう。

思いつきアイデアは、“意図”が切れたタコのようなものだ

アイデアのタコツボ化-若手PRパーソンの行動で見えてきたこと

先日、6月が本番となるカンヌライオンズの若手コンペティション「ヤングカンヌ」の国内代表選考の事前審査を担当させていただきました。フィルムやプリント、メディア部門など、その他カテゴリーと比較してもPR部門は多数の応募があり、その数152組。うーん、PR部門への関心が高いってのは本当にうれしいことですねぇ。もちろん自身のライバルにもなり得る方々なので、うかうかしていられませんが。

そんな中、少し気になることもありました。それはアイデア一辺倒なエントリーが、かなりの比率であったということ。そして同じようなアイデアのエントリーが集中してしまうという「アイデアのタコツボ化」が発生していたことです。カンヌライオンズというと、出自が広告賞ということで、「アイデア」メインで評価されると思われるかもしれませんが、こと「PR部門」については、入り口である「戦略」と、最終的な「成果」に評価としても重きをおき、それを実現するための「施策」「アイデア」が続きます。その比率は毎年変わらず「戦略30%」「施策20%」「アイデア20%」「成果30%」という設定。その他の主要部門と比較しても、やはりPR部門は「入り口と出口」を大切にする、少しばかり異色な部門だと言えるかもしれません。とはいえ、この異色性がPRパーソンの審査時のこだわりでもあるのです。

思いつきや偶然で成功した事例は、PR部門では「再現性がない」として一蹴されます。また現状を分析して「導き出された戦略」が見いだせないと、同じく一気にその評価は下がります。すなわち評価基準にもあるように、前段の「戦略構築」こそがPRパーソンが真に評価されるべきスキル・ノウハウとされているのです。そしてそれに続くのが「施策」や、それをさらにパワーアップするための「アイデア」であり、それらが成功裏に終了すれば得られる「成果」は、むしろ必然だよねということ。しかし、今回の審査を経て、多くのペアがその「戦略構築」をないがしろにし、アイデア特化でエントリーしてきた印象を強く感じてしまったのです。これは私には残念で仕方ありませんでした。

カンヌの審査基準も「アイデア」から戦略にシフト

先日のPRWeekによれば、カンヌライオンズは昨年から半年かけてPRカテゴリーにおける評価基準の再定義を行ったとのことです。昨年の受賞エントリーの大半が、“ある種「地道」に見えるが真のPR活動として評価すべきもの”よりも、いわゆるクリエーティブエージェンシー主導の「見栄えの良い」ものに集中してしまったことが、この議論の発端のようです。

もちろん、内容がしっかりしていれば問題はないのですが、いくら留意したとしても「見え方、見せ方」に審査自体がどうしても引っぱられてしまうということを懸念したのでしょう。実際、エントリービデオの良しあしで各エントリーの印象が大きく変わってしまうことが多いのも事実なんです。そしてそれらの議論を経て発表されたPRカテゴリーの新評価基準は以下のようになりました。

「主にアーンドメディアを活用する戦術、あるいはパブリック・ダイアログに影響を与えるチャネルを用いて、サードパーティーとの信頼や関係を巧みに構築し、最終的にパーセプションを変え、行動変容を起こしたクリエーティブな活動、またターゲット層における組織やブランドのレピュテーションやビジネスを保護し、強化するものを表彰する」

クリエーティブという言葉は包含されていますが、それは活動全般にかかる修飾語であり、「その活動そのものが全体として新たな視点を持った、工夫あふれるものであったか?」を問われるように理解できます。活動の見せ方や、個別施策のアイデアということではないんですね。そして「施策」としてのアーンドメディアの活用や生活者同士の会話機会の創出、サードパーティーの活用などを通じた「成果」として意識変化や態度変容(行動変容)、最終的にブランドレピュテーションやビジネスの強化を獲得したものを評価するというPR本来の役割が、あえてキーワードとして盛り込まれたことに、ベーシックな活動も評価対象にしていくという姿勢が見えてきます。そして、あえてここに言葉として「戦略」と入っていないことで、“一貫する「戦略」が根底にあることが前提よ”と強く宣言されたのだと私は理解しました。

アワードの評価基準を知り、通常業務に生かすことが大切

話をヤングカンヌの審査に戻しますが、多くのエントリーが見栄えの良さそうなアイデア(PR的には一枚絵といいましょうか…)から考え始め、まず最初にメイン施策を決定、その後にそのアイデア前後を、時として無理矢理に埋めているようなものが多いと今回強く感じてしまったんです。「この施策がこのターゲットの意識変化、態度変容に必要、有効」と、そもそもの分析から導き出されていないため、全体としてのつながりや一貫性が非常に希薄なものが多く見られました。そしてその「戦略」部分は、ほぼオリエンシートに書いた課題とゴールが転記されているだけ。思考プロセスを欠いた企画となっており、読んでいても共感が生まれませんし、納得感も得られません。実際、アイデア部分を決め打ちしてきたであろうエントリーは直感的に分かります。結果として候補からは即排除という形を取ることとなりました。

そしてまさに「アイデアのタコツボ化」。今回、実に20近くの応募企画において、アイデアが重複するという状況となってしまったのです。またこのアイデアは、カンヌライオンズ本体でも過去に数多くエントリーされており、既視感はさらに強まりました。実はわれわれは応募者におけるロジカルな思考能力と、「施策」や「アイデア」を通じての一貫性を、アイデア力とは別に強い目線で見るようにしていました。そしてそこに応えてくれるエントリーは、今年は極端に減ってしまったように思いました。PR部門に関心を抱いてくれた方々が多かったことはうれしい半面、「とりあえずの運試し」的に参加された方も多かったのではないかと不安も感じてしまいました。PR部門のアワードだからこその「評価基準」を、もっともっと意識して企画してもらいたかったというのが審査員の本音と言っても過言ではないでしょう。

そんなこんなでまとめます。序章で「タコ」の話をしましたが、締めも「タコ」のお話ということで。空に舞う「タコ」がいくら立派で目を引くものであっても、コントロール感なくどこに着地するのかさえわからなければタコを上げる意味やおもしろさはありません。自身が「タコ糸」を引いて、いかに上空の“風”環境に注意を払いながら、タコを「意図」通りにコントロールしていけるかが、タコあげの意味でありおもしろさではないでしょうか。これはリアルなPR活動の実施においても最重要なはずです。「強力なアイデアも、コントロールできてこそ」のもの。すなわち戦略という糸でつながっていてこそ、見栄えのいいタコも意味を成すということ。これは強く肝に銘じておきたいものですね。ま、みなさんには耳タコかもしれませんが…。