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新明解「戦略PR」No.48

【朗報】広告換算という呪縛から逃れたいあなたに ~PRのKPIで一歩踏み出す勇気~

2017/05/29

さて年度の始まりから約2カ月、新たな部署に移られたり、新たな目標にトライしたりという状況が続く中、特にPRの関係者から漏れ聞こえてくるのが恒例のKPI問題ではないでしょうか。以前私のコラムで書かせていただいた「広告換算なんかしてたらダメだかんね!!」(新明解「戦略PR」#21広告換算を求めた時点で、すでにおまえ(=PR)は死んでいる!(怒)をご参照ください)ってのが非常に皆さまのご好評を頂いたようで、実はそこからかなり時間を要してしまっていたのですが、ようやく私もこのネクストステップを皆さまにお伝えできる運びとなりましたので、本日ここにご紹介したいと思います。題して、「PRに新たなKPIを! 広告換算はダメ、ゼッタイ!」です。それじゃ、張り切っていってみよ!

広告換算という呪縛から逃れたいあなたに

広告換算に物申す! 「バルセロナ原則」って知ってますか?

はてさて、「バルセロナ原則」ってなんぞや?とお思いの方も多いかも知れませんが、こちらは33カ国のPR業界が合意しかも、2015年には「2.0」に進化してっから関係者の皆さんはきちんと覚えておいてね!(ん?なんか聞いたフレーズやね…)詳しくは下記をご参照ください。

バルセロナ原則2.0「7つの原則」
1. ゴールの設定と効果測定はコミュニケーションとPRにとって重要である。
2. アウトプットだけの測定よりも、むしろコミュニケーションのアウトカムを測定することが推奨される。
3. 組織のパフォーマンスへの効果は測定可能であり、可能な限り測定すべきである。
4. 量と質の双方を測定・評価すべきである。
5. 広告換算値はコミュニケーションの価値ではない。
6. ソーシャルメディアは他のメディアチャネルとともに測定可能であり、測定すべきである。
7. 測定および評価は、透明性があり、一貫性があり、有効なものであるべきである。

実は第1弾として発表されたバージョン1.0から2.0で変わったところは、広報・PRという領域から「コミュニケーション」という広いくくりにこれを適用したというところではないでしょうか。PRが、より上位概念で広告を含めたあらゆるコミュニケーション施策を束ねつつ、やっていかねばならないステージに来ているのだなぁということを実感しますね。また個人的に気になるのは、ソーシャルメディアの効果測定もきちんとしようね!って部分で、さらにその存在の台頭から、より真剣味を増した物言いになったのではないか、ということ。

「マジこんだけソーシャルメディアが台頭してきて影響力あんのに、これきちんと成果指標に盛り込まないとダメっしょ!」と突き付けられている気がするのです。確かに直近のわれわれの温度感ではここは避けて通れないところですよね。うんうん、まさにね、あんさんの言う通りでゲスよ。そんなこたー分かっとる。でもこれ、どう一緒に評価すればええんかのう。広告換算でも、他のマスメディアと一緒にしようとするとちょいとクセが強いんじゃぁ。さらにソーシャルメディアはお金で買えるもんじゃないけんね、こっちも悩みどころじゃ。そもそも広告換算ダメじゃって言われとるし。

はいはい、そうですね。大方のご意見はこんなところに集約されるのではないでしょうか。われわれももちろんそれで悩んできたんです。でも、なにせもろもろ 「これが原則である」って宣言されちゃってるんで、まずはなんとかそこに寄せていく方策を見つけないとね、ということで。まずはマスメディアとソーシャルメディアをいかに同じ土俵に乗せるか、ということで情報の到達度を示す「リーチ」を基準として双方がもたらす情報接触者数を算出します。

ただし、ソーシャルメディアは1次接触のみならず、その後のシェア実行率が高かったり、またその反応、すなわち具体的な動き(態度変容)にも大きく影響するなどもあり、それらの価値に対してそれぞれすこしばかり係数を採用してみるのです。誤解しそうな数値に「インプレション数」がありますが、これはウェブ広告の表示回数を表す数値。ユーザーが実際にサイトを訪問してはいるものの、実際に見ているかどうかというのは分かりません。しかし「リーチ」では、ソーシャルメディアユーザーが実際に「いいね!」やシェアなどのリアクションをしていますので、情報接触についてはその中身の理解にまで踏み込んでできていると判断できます。

もちろん、マスメディアにおける情報リーチというものが「インプレッション数」と同様と考える向きもありましょう。しかし、ネットサーフィンなどからの表面的な情報接触と、チャンネルを合わせる、新聞・雑誌を購入する、という事前の行動を考えれば、やはり情報に対して能動的に接しているものと考えてもいいのではないでしょうか。もちろんこれらが完全正解ではないですし、さまざまな考え方があると思いますが、昨今のソーシャルメディアの急速な影響力の高まりを考えたときに、このような暫定対応であれ活用していく意味は大きいと思うのです。

「悪法もまた法なり」。しかし、広告換算への決別は始まっている

実際のところ、広告換算で活動の成果報告をしている担当の方々は、いつか新しいKPIを!と待ち望みつつ、いまだ画期的な基準が生まれない中、疑問を持ちつつも広告換算を継続せざるを得ない状況にあるのかもしれません。ただし、その魂の叫びが徐々に大きくなりつつあります。今年の年初に発売された専門誌『広報会議』が発表したアンケート結果にもその傾向がにじみ出ています。効果測定の方法や手法について問われた広報担当者の回答では、マスメディアへの露出状況、ネットメディアへの露出状況、広告換算がトップ3となりました。しかし、定性的にはその実態がそぐわない、といった不満の声も上がっているのです。

そしてバルセロナ原則よろしく、具体的な売り上げへのひも付きなど、実際の活動におけるアウトカム(成果)を重視する傾向も強まっているようです。(アンケート結果の詳細は、『広報会議』2月号をご参照!)

広報力の高い企業では、第三者からのリアクションを意識し始めている

また当社の「企業広報戦略研究所」が行った「広報力調査」においては、その成果として「該当製品・サービスの売上」だけでなく、「自社HPのアクセス数」「各種企業ランキング調査での順位」「SNSでの反響」「メディアの問い合わせ(数、内容)」などへの影響も見ていきたいという回答が、前回調査時点から急伸しているのです。数年前からカンヌライオンズのPR部門でも言われ続けている「Real Results」「Meaningful Results」などの具体的成果を意識したPR活動という意識の浸透は、かなり進んでいることがここから読み解けるかもしれません。

最終的には「レピュテーションをどう向上させたか」が重要

さて、ここまでPRや広告といった、おのおのの情報発信における成果指標について語ってきましたが、改善されつつあるとはいえ、一方で懸念されるのは「このPR施策の効果はあったのか?」といった単発施策の捉え方にとどまってしまわないか、ということ。

ここで再度立ち返りたいのが、本当はなにを最終のゴールとして目指すべきなのかということであり、またこれもバルセロナ原則の冒頭に盛り込まれている「ゴール設定と効果測定が重要」というスタート地点につながるものでもあるわけです。年に数回実施する大掛かりなキャンペーンがあったとして、それを個々の単体施策の評価で終えてしまっていいのでしょうか? また、それらを異なるチームが個々の成果指標で独自に評価してしまっていいのでしょうか? やはり企業としては、目線の合った同一チームでこれらを包括的、継続的に評価しつつ、そのPDCAを経て次につながる広報戦略策定や、年度や中期計画で目指した企業レピュテーションの向上へさらにまい進していかねばならないはずです。

しかし、その一瞬の露出評価の最大化に目が行きがちで、「中長期の積み重ねによって生まれるエンゲージメント」といった視座からの評価がおろそかになっているのが現状です。このように短期的に成果を無理やりにでも出さねばならないという立場に担当者を追い込むと、活動が近視眼的に傾倒してしまいがちです。これを適正な目で見ることができるのが経営層であり、またその判断基準として各活動の「企業レピュテーションへの貢献度」が必要なのです。

現在われわれは、すでにそのような俯瞰的な、そして経営の判断材料ともなるべきPRを含む各種コミュニケーション活動の効果測定へと大きくかじを切っていかねばならないのかもしれません。えっ?それにはどこを目指せばいいのかって?

ちなみに私の今の一推しはこちら! チェケラッチョ!
http://www.dentsu-pr.co.jp/servicemenu/survey/reputation-matrix.html

※「バルセロナ原則」とは

2010年6月にスペインのバルセロナで開催された「効果測定に関する欧州サミット」(2nd European Summit on Measurement)において、メディアやコミュニケーションの調査・評価に関する国際機関で英国に本部のあるAMEC(International Association for Measurement and Evaluation of Communication)と、米国の非営利広報研究機関であるIPR(The Institute for Public Relations)が発表した「効果測定の原則に関するバルセロナ原則」(Barcelona Declaration of Measurement Principles)のこと。

国際的なPRの業界アワードでも、審査過程でこの「バルセロナ原則」をベースにして成果を評価するなどされている。また、2015年9月には内容が更新され、「バルセロナ原則2.0」として発表された。