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ラッパーvsコピーライターNo.1

太華×尾上永晃:フリースタイルのケミストリーが生む熱狂

2017/05/17

「高校生ラップ選手権」「フリースタイルダンジョン」が脚光を浴び、MCバトルがエンターテインメントのメインストリームに躍り出た昨今。ラッパーたちが即興で繰り出す言葉の数々とコールアンドレスポンスは、多くの人を魅了しています。SNS時代のコピーライターもまた、インターネット上でのコールアンドレスポンスを行っています。そんな両者が同じステージで言葉を交えたら、何が起こるのでしょうか? 

連載初回は、現在のMCバトルのルールを作ったヒューマンビートボクサーの太華さんと、電通の尾上さんが対談します。

太華さん(右)と尾上さん太華さん(左)と尾上さん

 

 

 

 

“好き”の濃いコンテンツが人を引き寄せる

尾上:今日の対談のお題は“言葉”なんですが、僕、コピーライターとしては邪道でして…。

太華:そうなんですか?

尾上:一般的なコピーライターは、誰かに師事して経験を積むのですが、僕はその経験がほぼありません。とにかく話題になったり、効果的ならば何でもありって感じで、企画・映像・イベント・コピーと手段を問わずキャンペーン設計をメインでやってきました。最近は、日清食品「どん兵衛」や「こち亀」の40周年&終了キャンペーンのプランニングなど、割と好きなことばかりやらせてもらっています。

太華:「どん兵衛」でMCバトル風のPVを作っていますよね。ヒップホップは聴かれますか?

尾上:はい。海外の音源は昔から聴いていましたが、日本の音源をしっかり聴くようになったのは「フリースタイルダンジョン」からです。太華さん属するMC漢さんのMSCが特に好きですね。それで、ちょうどその頃が「どん兵衛」が毎年実施する「東西食べ比べ」キャンペーンのタイミングで。どん兵衛は東西で出汁が違うんですが、この時期はその両方が量販店に並ぶので、バトルであおれないかと。それに、アメリカのヒップホップでは悲劇になっている西海岸と東海岸の抗争を、日本で食べ物っていうテーマでやるのは平和的で良いかなとも思いました。

太華:MCバトルが市民権を得たことで、ラッパーがCMに起用されることも増えましたね。あのPVはカッコよかったですよ。

尾上:ありがとうございます(涙)!フリースタイルラップの世界にガツンとやられていたんで、形だけまねて、その文化を消費することはしたくなかったんです。それで、海外と日本のシーンを勉強して、トラックや映像も広告の人じゃなくて全部ヒップホップ畑の方と作りました。自分自身が実感を持って好きになれないと、共感を得るものはできないかなと思って。

太華:ラップにヒップホップ愛は不可欠です。

尾上:今の時代は、皆の好きなものが細分化されてますね。その分、人は仕掛けている側の“好き”が強いものに引き寄せられるのでは? とよく思います。こち亀のキャンペーンも、僕はこち亀が好きすぎて下町に住んでいるくらいなんで、どこまでも頑張れました。それで、僕がフリースタイルのMCバトルにやられた理由も、骨の髄からラップ好きな人同士がぶつかり合うエネルギーの強烈さにある気がして。

太華:MCバトルはヒットしましたね。僕は司会として「UMB(※)」に携わり、現場でバトルのフォーマット作りをしてきました。従来は先攻が終わったらいったんDJを止めて後攻にパスしていましたが、止めずに8小節のビートをつなぎながら、途切れなく攻守交代するスタイルに変えたんです。結果、より面白いケミストリーが生まれるようになったと思います。

※UMB:観客の歓声が勝敗をジャッジするスタイルがヒットした「ULTIMATE MC BATTLE」の略称。

太華さん太華さん

尾上:それは大発明ですね…。太華さんは、ラップもされていたんですか?

太華:はい、以前はほんの少し。大阪時代にSHINGO☆西成と曲を書いたり。

尾上:ラッパーさんは、どうやってリリックを作るのでしょう?

太華:ライミング、いわゆる韻を踏むことを重視するラップのリリックは、やはりある程度自分自身の脳内でフリースタイルをしないと出てこないと思います。表立ってフリースタイルをしないラッパーも、脳内フリースタイルをさらに練って作る派が多いんじゃないかな。使える韻の収集は、皆当たり前のようにしているはず。コピーライターさんは、どうやってコピーを作るんですか?

尾上:僕はコピーライターっていうよりか、企画実行職なんで僭越ですが…。強いて言えば、名作といわれるコピーを何十年分も見て、「これは何でいいんだろう?」と考えて構造分解してみたり、スマホのニュースを毎日みたりする中で、こういう空気の中でこういう人がこういうことを言ったらウケるんじゃないかとか、そんなことを考えています。

言葉は、場にグルーブを生みだす楽器のひとつ

尾上:太華さんのアルバム「顔面着地」、聴かせていただきました。太華さんのビートボックスには、なんというかアナログっぽさが強く出ていますね。

太華:僕は元々ヒップホップDJなんです。その後ラップも始めましたが、口ひとつでブラックミュージックのビートを演奏するビートボックスに魅了されてしまって。だから、ビートボックスでも昔から黒人が持っているグルーブ感を意識しています。音と音の間にタメを作ることで、ビートをグルーブさせる。これはラップのスキルにも言えることです。

尾上:グルーブさせるラップのスキルといいますと…。

太華:ラップのグルーブをつかさどるのは、ライミングしている部分です。言葉が持っているフロウを使って、言葉をスイングさせる。ラッパーは、言葉を打楽器のようにも、鍵盤楽器のようにも操れるのが理想。韻は、母音を整えて、字面を数えて踏むのが基本なんでしょうけど、それだけでは気持ちいいフロウは生まれづらい。例えば、「アンパンマン」を「エンペンメン」と発音しても通じますよね? また、通じるように、前後に伏線をはる。積極的に言葉をいじって、それこそ文法を破壊しても、観客を快楽に巻き込めればいい。

尾上:なるほど。ライミングの目的は、その場にいる人たちを熱狂させることなんですね。広告の目的も、触れた人が多かれ少なかれ熱狂して商品が売れたり好かれたりすることなんで、似ているのかもしれません。手法は映像でもイベントでもいいんですが、最近はその中で言葉の占める割合が増えてきていますね。

太華:尾上さんの仕事は、渋谷駅のどん兵衛専門店「どんばれ屋」が閉店した時の「お湯入れるだけでよかったから楽だったのに…」しかり、広告コピーっぽくないですよね。世の中をなめてる感じが(笑)。

尾上:いや、そんなことは…(笑)。ネット上だと、こじゃれたコピーって伝わらないんですよ。面白いことを発信している人がいっぱいいる広大なインターネットの中で、こじゃれたことを言っても埋もれてしまう。SNSが普及して、全員が発信者になった今、いかに同じ目線でサイファー(※)のように対話するかを意識しています。

※サイファー:複数のラッパーが輪になって即興でラップし合うこと。

尾上さん尾上さん

太華:僕も渋谷駅で「どんばれ屋」の前を通るたびに「これ、わざわざ店を構えてすることか?」と突っ込んでましたからね(笑)。

尾上:ですよね(笑)。なので、そういうメッセージが「リアル」なのかなと。「リアル」じゃないとやっぱり伝わらないんです。ラッパーさんも身近な「リアル」をリリックにする人が増えましたよね。地方の話とか、洗濯物干すのもヒップホップって言ったりとか。

太華:今のラッパーのリリックは大げさじゃなく、斜に構えている感じですね。

尾上:MSCのようにアンダーグラウンドな「リアル」をテーマにしている方々は別として(笑)、日本で普通に暮らしていると、「リアル」なテーマがどんどん身近になっていくのかも。逆に、最近の海外の広告の「リアル」は難民対策とか、ハードなものが増えています。

太華:ラップにも、痛いところをスキルとユーモアでエンターテインメントに変える力があると思います。トピックは自分自身の人生や、生活の中にこそあるんです。

SNS世代に刺さる機敏なコミュニケーション

太華:広告は熟慮して作るものだと思っていたんですが、尾上さんのやり方は即興的ですね。

尾上:全部がそうでは無いんですが、お題をもらってその場で5秒で出たものの方が、練り込んで作ったものより喜ばれるケースも多いです。チームメンバーとの打ち合わせも、資料を持ち寄って何時間も向き合うより、メッセンジャーで即興的にアイデアを投げ合う方が、アイデアのかけ算になっていって俄然良くなったりします。ラップのライムパスじゃないですけど。

太華:それ、僕のMCバトルの理想形です。即興的な影響のし合い方で、グルーブにたどり着いてほしい。今はスマホを使って作詞をするラッパーが多いので、メールのやりとりでリリックを共作したら面白いんじゃないかと考えていたところです。

尾上:面白そうですね! 僕もよくスマホを使います。閃いたアイデアをショートメールで自分に送ると、プッシュが来た瞬間に面白いか面白くないか客観的に判断できる。話題ってスマホ上で広がるんで、その方がユーザー目線と言いますか。

太華:瞬発的なやりとりから、何かが生まれるのが面白い。僕は今、MCバトルをタッグマッチにしたり、1小節ずつのライムパスにしたりしたい。まずチーム内で8小節間のライムパスを生じさせ、それに対戦チームもライムパスで応戦する。ケミストリーとケミストリーが掛け合わさると、とんでもない現象が起きるんです。実験として2013年から「AsONE RAP TAG MATCH」というバトルを開催していますが、初回チャンピオンを取ったサイプレス上野は、タッグマッチによって自分自身の脳が開花するのを体感したようです。

太華さん太華さん

尾上:確かに、先日のフリースタイルダンジョンでパンチラインフェチズが、1バースごとに入れ替わってるのを観て興奮しました! バトルの形式が変わったことでコミュニケーションが速まり、より音楽としてのグルーブ感が高まったということですね。フォーマットを変えると、出てくるものも変わる。携帯メールでやりとりして歌詞を作るとか、太華さんはフォーマットの発明を意識されているんですね。

太華:MCバトルは真剣勝負ですが、フリースタイルは遊びの延長。遊びの要素がないと絶対楽しくない。

尾上:そうですね。クライアントとのやりとりにも、決まったフォーマットがあって。お題をもらって、プレゼンを経て修正の繰り返し。でも決ったやり方を踏襲していると、同じようなものができがちだったりします。なら、直接高速でやりとりをして、一緒に作り上げていく方がいいかもとか。先方の担当者も巻き込まないと実現できませんが、近いことをやったクライアントはその効果を実感してくれていましたね。

太華:それこそ遊び的ですよね。

相手と反応し合って起こるケミストリーが輪を広げる

太華:今日の対談は、まさにフリースタイルですよね。

尾上:確かに、ずっと何を話そうか考えながら太華さんの言葉を聞いています(笑)。

太華:あの、「10分どん兵衛」っていうのは、何だったんですか? 僕も速攻乗りました。

尾上:どん兵衛を10分置く食べ方がネットでジワジワと話題になっていて、気になって調べてみたら発信源がマキタスポーツさんのラジオ番組で。その中でマキタさんが「日清の人は当然知っているはずだ」って発言してたんです。それで僕が日清の担当者に尋ねてみたら、「いえ、知りませんでした」と。

太華:それで、日清さんの謝罪を促す企画を作ったんですか?

尾上:友達同士のコミュニケーションなら、知らなかったことは認めて「ゴメン」って謝るじゃないですか。なので、謝罪しましょう、と。あとは、マキタさんが日清の方と話したいってラジオで言っていたので、対談をくっつけた企画にしてみました。謝罪が話題になってもしょうがなくて、10分どん兵衛いいよねって会話が話題にならないと売れないので。

太華:当たり前のことをやったんですね。

尾上:MCバトルでも、相手の言葉にちゃんと反応しないと、「あいつネタくせーぞ!」としらけてしまう。SNSでも、誰かが声を上げた時点でそこに文脈が発生してしまうんです。

尾上さん尾上さん

太華:この企画の件で、マキタさんがディスられたりはしなかったんですか?

尾上:なかったんですよ。まったく嘘が無かったので。

太華:理想的ですね。フリースタイルラップでも、文脈を整えておくのは大切です。

尾上:あの時の文脈をここで引用して落とすのがカッコいい、というストーリー性がMCバトルにはありますよね。

太華:ロジックだけでは、フリースタイラーのスキルはここまで進化しなかった。ロジックを超える感情のパワーを引き出すために、MCバトルというフォーマットを用意した感じですかね。感情がスキルを加速させます。MCバトルが増えてあちこちにケミストリーが起き、シーンの文脈が形成されてゆく。だからMCバトルは受けているんだと思います。

尾上:感情がスキルを加速させるってカッコいいですね…。広告キャンペーンは、主に1クール約3カ月単位というフォーマットなんですが、でもそれってオーディエンス側の都合ではない。SNSでワイワイしている声を聞きながら、柔軟に展開した方が自然です。感情はクール制で動きませんから。僕、人類の反射神経がすごく速まっていると思うんです。ここまで全員が何かを発信して、反応してっていう状態は、人類の有史以来ないこと。だから、企業だってこれまでのフォーマットなんて無視して、反応があったら、それに乗ってアンサーを返す。一緒にワイワイしながら仲よくなっていく。という方がケミストリーが起きるんじゃないかなと。

太華:めっちゃいいですね。MCバトルのシーンは、そうやって大きくなりました。炎上すると大変ですが。愛ゆえに思いもありますから。

尾上:賛否あるのが健全で、否の人も基本好きですもんね。広告も文脈を無視すると炎上しがちですが、いい反応をすると「コイツ、面白いな」と一気にファンになってくれる。

太華:MCバトルも勝敗に偏らず、最終的には敵味方関係なく、オーディエンスも審査員も笑い合いたい。ちゃんと文脈があって、一つ一つの大会を楽しい祭にしたいですよね。

尾上:で、だんだん輪が広がっていくと。いや、MCバトルはほんとスゴい発明ですね。僕もそうやって新しいフォーマットを生み出して、大きなうねりを作り出していきたい…。

太華:尾上さんなら、速攻でリリックも編めそうですよ。

尾上:いやいや、とても無理です…。MCバトルを見ていると、無性にラップしたくなることはありますけど(笑)。

プロデュース:加我 俊介
題字:青木 謙吾