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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.65

ゼロから学ぶブロックチェーン

2017/04/26

「インターネットの黎明期に感じたワクワクと同等かそれ以上の興奮」

ある起業家がこんなコメントをSNSに投稿したのは半年前のこと。それが「ブロックチェーン」です。どうやら今のうちに知っておいた方がよさそう。

ということで今回はドン・タプスコット氏が息子であるアレックス・タプスコット氏と親子で書き上げた、この分野の教科書ともいえる『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)をご紹介します。正直、いろんな本をここで紹介してきましたが今まででいちばんテンションをブチ上げられた一冊です。

ブロックチェーン・レボリューション

今までのインターネットは「複製の時代」だった

インターネットって便利ですよね。検索したり、メールしたり、シェアしたり。これ、著者に言わせれば「情報のインターネット」でした。例えば、僕が締め切りも守れず申し訳ない気持ちいっぱいで書いているこの原稿。メールに添付して送信すれば、あっという間に編集者のもとへ届きます。このとき、僕の手元にもデータは残ったままです。送った途端、僕のパソコンから奇麗サッパリ消えることはありません。

インターネットは、コピーのやりとりが大得意なんです。

でも、「価値のあるもの」がコピーされてしまうと大変です。たとえば僕が友達に、インターネットでお金を送るとします。1万円払っても、手元には1万円残ったまま。個人的には最高に幸せな状態ですが、経済を支える仕組みとしては最低です。これは「二重支払い問題」と呼ばれ、お金だけではなく、株券、債権、知的財産権、さらには映画や音楽、アート作品など、コピーされては困るものをどうインターネットで扱うべきか?と、長く学者の頭を悩ませてきました。

ブロックチェーンは「価値の交換」を可能にする

とはいえ、今のインターネットでも友達にお金を送ることはできます。それは仲立ちしてくれる第三者がいるからです。銀行や証券会社など、中央機関と呼ばれる存在です。中央機関がいてくれるおかげで助かる面も多いのですが、時には不便も生じます。たとえば地球の裏側に暮らす友人にお金を送るとき。いくつもの機関が仲立ちしてくれますが、手数料が必要になる。機関の中での手続きもあって、何日もかかってしまう。ブロックチェーンを使えば、こうした価値あるものを、中央機関に頼ることなく交換したり保管・管理したりできるのです。

ブロックチェーンの本質は何よりも、価値の(とくにお金の)交換にあるのだから。(P.12)

それで結局、未来はどう変わる?

なんでそんなことが可能なのか?…という難しい技術の話はちょっと後回しにして。
実際のところ、どんな未来がやってくるのか? その辺の(わくわくする)話を先にしましょう。
インターネットは調査と調整のコストを削減してくれました。
ブロックチェーンは契約、監視、施行のコストを削減します。
たとえば既にこんな変化が起き始めています。

①価値の交換がカンタンになる

お金のやりとりが、もっと自由になる

銀行やクレジットカード会社は、決済システムの構築と運用、さらに個人のID証明に大きなコストを払っています。その分、手数料として利用者や店舗の負担になっていました。しかもいろいろな企業が関わるため、データの受け渡しなどで買い物から決済まで数日かかることもしばしば。が、ブロックチェーンはシステムがこうした機能を担うため、ほとんど無料の手数料で当事者同士が決済できるようになるのです。

海外送金が安く、早く、簡単になる

モバイル送金サービスのアブラ社は、ブロックチェーンを使った国際送金ネットワークを開発。これまで1週間かかっていた送金が数分になり、手数料は7%だったものが2%にまで圧縮(実は、途上国に流入する資金でもっとも多いのは、政府援助でも投資でもなく、こうした個人による「仕送り」なのです)。

音楽などのコンテンツやシェアリングエコノミーに、フェアトレードが広がる

アーティストの新曲を買うとき。シェアリングサービスでタクシーを呼んだり、部屋を借りたとき。基本的にはプラットフォームになる企業が存在しますよね。ブロックチェーンはここを自動化してくれるので、直接買えたり、つながれたりします。プラットフォームが規約を突然変えて、利益が下がる…なんて悩みもなくなります。

②みんなで同じ台帳を使えば、効率化が進む

貿易の取引が標準化され、スムーズになる

たとえばNTTデータは、複数の組織が関わる領域でブロックチェーンを使った効率化を推進しようとしています。たとえば貿易。国から企業、個人事業主までがメール、電話、紙、ファクスなどバラバラのやり方で情報をリレーしている。ここにブロックチェーンを導入し、必要な情報を同時共有する実証実験に既に成功しています。

③過去の情報も改ざんできない形で保管できるので、システムが信用を保証してくれる

生産プロセスから取引履歴までが、一元管理できる

イギリスでレアンヌ・ケンプ氏が起業したのは、ブロックチェーンでダイヤモンドを管理するスタートアップ「Everledger」。今でも取引には品質証明書の原本が不可欠。どの国へ渡ろうとも品質証明書の原本が付けてあって、その都度、担当者が直筆のサインをする。ここに、鑑定書をデジタル化し、さらにダイヤをスキャンしてそれぞれに固有のIDを与え、すべての情報をブロックチェーンに格納しているのです。

あいまいな土地の所有権が、明確になる

ホンジュラスでは、政府の高官が勝手に捏造した書類で土地を奪ってしまう…なんてことが頻繁に起きていました。そこでホンジュラスではブロックチェーンを使って民間と行政が一体となって土地を管理する仕組みを構築中です。

お父さんのためのブロックチェーン仕組み講座

では、ブロックチェーンが魔法のように思えてきたところで、すこし仕組みの話を。

P2Pネットワークというパソコン同士がつながる技術に、クレバーな暗号技術の組み合わせなんです。たとえばお金や音楽、土地の所有権などあらゆるデジタル資産は、最高レベルの暗号によって守られている台帳に置かれます。どこか一箇所のサーバーにあるわけではありません。世界中の何百万台というコンピューターに分散している台帳です。で、ブロックチェーンを使った取引が行われると、そのコンピューターすべてに取引情報が送られます。

「ちょっと待て。みんなで管理って、悪いやつが紛れ込んだらどうするんだ」

この問題を解決するのが、「プルーフ・オブ・ワーク」という仕組みです。簡単にいうと、数の多少ではなく、時間もコストもかかる作業をやってくれた人たちにだけ管理権を与える、という仕組みです。このがんばる人たちをマイナー(採掘者)と呼びます。

マイナーは10分間に世界で行われた取引情報を、ひとつの「ブロック」にギュギュッとまとめ上げます。このマイナーがすごいんです。合わせればGoogle全社の10倍から100倍の処理能力を持つともいわれるモンスタースペック集団です。ブロックを作ったら、マイナーたちはちょっと時間のかかる暗号解読競争を始めます。

これが超だるい解読なんです。どれくらいだるいかというと、10の20乗回も計算しなきゃいけない(兆とか京のさらに上、垓〈がい〉です。コントでしか聞いたことない)。

こいつをいちばん最初に解くと、報酬として電子通貨が与えられるのです。だからみんな頑張ります。暗号を解き終わった他のマイナーたちと答え合わせして、間違ってないことが分かると、ブロックは晴れて正式にシステムに認められます。このブロックは、コンテナのようにいろんなところに置かれるのではなく、前のブロックたちとひとつにつなげられて管理されます。そう、チェーンのように。だからブロックチェーンなのです。

ハッキングしてお金の取引情報を改ざんしようとしても、チェーンをさかのぼってすべてのブロックを書き換えなければなりません。さっきの暗号解読競争でも、世界中にいるマイナー全員に勝たなければなりません。現実問題、かなり無茶な話です。だからブロックチェーンは安全なのです。システムが中央機関の役割を自動化してくれている、ともいえます。

将来映画にでもなりそうな謎多き誕生秘話

2008年、世界が金融危機に揺れた年。「サトシ・ナカモト」と署名された、あるひとつの論文が世に出ました。そこに書かれていたのは、まったく新しいデジタル通貨の仕組み。この論文が発端となって、近年盛り上がるビットコイン時代へと話は続くわけですが…実は論文のすごさはそれだけではありません。デジタル通貨を支えるテクノロジーである、ブロックチェーンこそ大発明だったのです。実はこのサトシ・ナカモト、何者なのか謎に包まれているのです。個人なのかグループなのかさえいまだ明らかになっていません(いつか謎が明かされて、映画化希望です!)。

この本は、未来を取り上げているのではなく、未来のために今動いている人を取り上げています

144人。

なんの数字かといいますと、この本の最後に書かれている取材対象者たちの数です。国も年齢も立場も違う方々への綿密な取材をベースに、この本には本当にたくさんの事例やプロジェクト、アイデアがちりばめられています。ブロックチェーンは技術という枠を超え、理念です。みんなこの理念にのっとって、新しいビジネスをスタートしている。未来を思い描きながらチャレンジしている人たちの言葉はどれも胸を打ちます。激動の時代のド真ん中にいるのだと思い知らせてくれる一冊です。

なお、最後によりブロックチェーンを理解するためのリンクを二つご紹介。

一つ目は、著者であるドン・タプスコット氏によるプレゼンテーションがTEDで公開されています。映像付きなので、とにかく分かりやすい。あっという間の18分間です。

TED ブロックチェーン
二つ目は雑誌のご紹介。今回は入手しやすいよう書籍をご紹介しましたが、2016年10月に発売された雑誌『WIRED』の「ブロックチェーンは世界を変える」特集号はボリューム満点。Kindleで購入可能ですので、入門編としてもどうぞ。

http://wired.jp/magazine/vol_25/

 

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