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デジタル・ディスラプション時代の意思決定「未来に先回りする思考法」

DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ №66

  • 五島 淳

2017/05/19

デジタル・ディスラプション時代の意思決定「未来に先回りする思考法」

テクノロジーは敵か味方か

ビッグデータ、AI(人工知能)、ブロックチェーンにIoT…昨今、さまざまなテクノロジーによる破壊的なイノベーション=デジタル・ディスラプションに関する話題が急激に増えています。

有名なものだと、Googleが開発したAlphaGoが、人間のプロ棋士へ勝利したというニュース。「AIなどのテクノロジーの進化が、人間の仕事を全て奪ってしまう!」といった、人々にとっての脅威感の表れのような世論も存在します。

テクノロジーがもたらす未来は、ターミネーターやマトリックスの世界さながらのディストピアなのでしょうか…。そんなSFめいた議論も個人的には非常に興味深いのですが、それはいったんさておき…。

個人的な実感としては、人の仕事を奪うというより、むしろテクノロジーによって「事業を効率化、高度化、および創造する仕事」が、急激に増えています。

そのような状況下において、1年先さえ見通せないテクノロジー進歩のあまりの速さを前に、「何をどうやって目の前の意思決定をすればいいの?」といった悩みも、事業の現場では増えていっているように思います。

今回は、メタップスでFinTech事業や、その他にも宇宙開発事業などを手掛ける佐藤航陽氏著『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を参考図書に、この不確実な時代の戦い方についてのヒントを探っていくことにします。

デジタル・ディスラプション時代の意思決定「未来に先回りする思考法」

99.9%の人が未来を見誤るという法則

“実際に空を飛ぶ機械が、数学者と機械工の協力と不断の努力によって発明されるまでには、百万年から一千万年かかるだろう。”-1903年、ニューヨーク・タイムズ(ライト兄弟初飛行の数週間前に掲載)  (P.3)

当時、エリートとして名高いニューヨーク・タイムズの記者が書いたこの記事は、多くの人が思った以上に早いスピードで未来はやって来ることを実証しています。

ちなみに、ライト兄弟初飛行後、じゃあ宇宙船はどうなんだという話が世間では当然話題に上がるわけですが…そんなものは夢のまた夢だと多くの人が同じことを言ったそうです。とても面白いもので、本書では99.9%の人間は未来への進歩のスピードを見誤る、と定義しています。

では、残り0.1%…AppleやGoogle、Amazonのような、テクノロジーによって急速な革新をもたらしてきたディスラプターたちはいったいどのようにして、未来を見据えてきたのでしょうか。

0.1%であるためには、テクノロジーを原理原則から理解する

今や多くの人がパソコンやスマートフォンを使っています。単純に使いこなすだけでなく、アプリなどの最新のトレンド動向について詳しく語ることができるビジネスマンも非常に多いのではないでしょうか。

しかしながら、パソコンやスマートフォン、アプリそのものが実際に、電子回路を含めて一体どういった仕組みで動いているか、「原理原則」を精緻詳細に語れるという人は非常に少ないように思います。本書によると、ここが0.1%と99.9%を分かつ、一つの「壁」と定義されています。そして、開発を全行程含め理解し実行できる、といった人はなおさら希少です。

現代のあらゆるマーケットにおいて、テクノロジーを原理原則から理解し、実際に手を動かしてプロダクトを作れるかどうかということが、これからの必須スキルとなってくることが想定されます。

例えばですが、仮にテックカンパニーでない事業会社においても、デジタル化によるビジネスプロセスの刷新が迫られることは昨今、珍しくありません。むしろデジタルという概念自体、当たり前になりすぎて、いずれはなくなると個人的には捉えています。

マーケティングなどの効率化を行うテクノロジーへの投資の対価として、現在の事業やマーケティングの改善効果で3倍程度を目指すのか、100倍を目指すのか。同じような「マーケティング改善のためのテクノロジー」を導入するにしても、原理原則を理解していなければ、投資判断は難しいと思われます。

加えて「いつまでに」「どの程度」技術の革新が行われるのかも知る必要があります。現在のテクノロジーがもたらす価値によらない判断でなければ意味がないからです。目先の効率化にとらわれて、時代遅れになる可能性があるハズレを引かないためには、「技術を知っている」「技術を使ったことがある」だけでは不十分なのは、いうまでもありません。

今や、文系や理系といった学術的な出自の垣根にとらわれることなく、投資判断を行うビジネスサイドにおいてこそ、テクノロジーの理解が重要な時代となってきています。

自転車をどれだけ改造して整備しても、 宇宙に出ることは永遠にできません。
どれだけ早くペダルをこいでも、自転車は構造上空に浮くことは絶対にありません。
もし月に行きたいのであれば、まず今乗っている自転車から降りる必要があるのです。(P.208) 

 

0.1%であるためには、パターンを認識し世界が変化する原理原則を知る

経済、人の感情などを含めた複数の社会変化トリガー要素を把握していること=「世界が変化するパターン」を見抜くことも、二つ目の0.1%の条件であるといいます。

パターンを読み、世の中を、点ではなく線で捉えるために重要なポイントとして、「ロジカルシンキングを疑う」ということについて、本書では示唆されています。

構築できる「ロジック」は、その人がかき集められる情報の範囲に依存するという危うさをはらんでいます。さらにロジカルかどうかの判断は、その母集団の「リテラシー」に依存します。(P.220)

当然ながら、パターン抽出のためには、テクノロジーを活用し時にはビッグデータと呼ばれる膨大な情報をひもとくことも重要となってきます。

Facebookは2012年に社員13人、売り上げゼロの写真共有アプリ企業「Instagram」を10億ドルで買収しました。当時のInstagramのユーザー数は世界中に3000万人程度、投資アナリストからは非常に批判的なレビューが飛び交っていたといいますが、ご存じの通り2016年6月では5億人にまでに大成長を遂げています。

(参考:http://blog.instagram.com/post/146255204757/160621-news

世の中一般のロジカルシンキングの枠にはまらない、独自の意思決定は、技術理解による高いリテラシーと、独自のパターン認識(SNSにおいて写真がキラーコンテンツとなる兆し)を持ったFacebookにしかできなかった意思決定であると考えられます。

テクノロジー理解/パターン認識と、腹落ち感…その5分5分の決断を狙え

今や、大きな買収や事業投資だけでなく、半年先を見据えた現場のコスト予算配分(例えばマーケティング予算の配分や新たなソリューション導入)においてすら、デジタル化の波によって不確実性がますます増し、意思決定が難しくなっている実情があります。

事業組織内においては、どうしても階層ごとにリテラシーが統一されておらず、意思決定までのプロセスがスムーズに進まないといった事象が、この先多くの組織において蔓延していくことが予想されます。そして、特に大企業のケースにおいては、仮に投資を決断できた事業においても、一定期間で結果が出なかった場合は、同様のカテゴリーに対しては今後しばらく投資を行えない実績重視の風潮も根強いです。

リアルタイムの状況を見ると自分も含めて誰もがそうは思えないのだけれど、 原理を突き詰め ていくと必ずそうなるだろうという未来にこそ、 投資をする必要があります。(P.244)

結論として、感覚と原理の「5分5分」のラインを狙った意思決定モデルが有効なのではないかというのが、本書における示唆です。たとえテクノロジーを活用し、独自の変数を元にしたパターン認識ができたとして、最終的に意思決定を行うのは人間です。

現在、たとえテクノロジーへの理解が深く、世界変化のパターンを抽出できたとて、未来を完全に予測し、0/1で常に正しい事業判断を行うことは、組織の実情も含めて、現実的には不可能であると思われます。

一方で、そのような組織の中で「意思決定における方程式」を独自に作り上げ、持ち得るかどうかが、不確実性の高い時代を生き抜くために、未来へ先回りするための近道であるといえるのではないでしょうか。

電通モダンコミュニケーションラボ

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