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商店街ポスター展のやり方で、歴史ある百貨店のポスターを作ってみた。

2017/06/02

大丸創業300周年を迎えた大丸松坂屋百貨店は、スタッフ100人のポスターを、各地域のクリエーターと共に作成しました。このポスターを手掛けたのが「商店街ポスター展」の仕掛け人・日下慶太さんです。「大丸・松坂屋 輝く100人のポスター」が、どのように作られたのか、日下さんが語りました。

大丸・松坂屋の担当者が「商店街ポスター展」のファンで…

ある日、会社の見知らぬ営業から電話がかかってきた。大丸・松坂屋の担当者が君と話をしたがっている。東京に来れる日はないかと。大丸は服を買ったぐらいしか、松坂屋では名古屋店にあるひつまぶしを食べたぐらいしか関係を持ったことがない。いざ、話を聞きに行ってみると、大丸が創業300周年を迎えるので従業員300人のポスターを作りたいとの相談だった。大丸・松坂屋の担当の秀島麻友子さんが「商店街ポスター展」のファンで、300周年を機に今しかないと思って声を掛けてくれたのである。大丸という老舗企業の300周年を背負う、この上なく光栄なことはない。

しかし、300人という数は厳しいものがあった。さまざまな協議を重ねた結果、100人に落ち着きプロジェクトは動き始めた。まずは全国の大丸・松坂屋から100人が選出された。いわゆる婦人服や紳士靴、外商などの百貨店らしい人から、電話交換室から警備員、さらには、本社の法務など裏方のスタッフも多数選出され、個性あふれるプロの100人が揃った。

あとはポスターを制作するだけだ。しかし、ハードルが二つあった。一つは、大丸・松坂屋のお店はそれぞれの地域に根付いているため、それぞれの地域のクリエイターにポスターを作って欲しい、というクライアントからのオーダーだ。札幌、東京、静岡、名古屋、京都、大阪、神戸など大丸・松坂屋は各地に点在している。関西だけならなんとかなるものの、他のエリアは任せざるを得ない。全国の電通グループを行脚し、各社を回ってお願いをしていった。結局、電通本社、電通中部支社、電通北海道、電通東日本静岡支社が協力してくれることになった。

二つ目は、作業プロセスについての問題。商店街ポスター展は、クリエーターに表現を全て任せることをルールとしている。最初に取材をして、あとは納品だけ。案を確認するためのプレゼンはない。途中の意思確認などのプロセスは一切省いているのである。だからこそ表現の強さがあった。しかし、今回は大丸・松坂屋のポスターである。大丸は300年、松坂屋は400年以上の歴史がある。果たしてそれが許されるのかどうか。ここがキーポイントとなった。通常の作業のように何度も確認作業を重ねると、表現が丸いものになってしまう恐れがある。何より、商店街ポスター展の根幹を損ねてしまう。クライアントも商店街ポスター展の良さを理解している半面、完全にフリーハンドで制作を任すことにはためらいがあった。結局、サムネール(手書きのラフ)まではきちんと確認をする。

京都のお客さんは、目がこえたはります。ラフ

それ以降は任せるということになった。サムネールはすぐにOKが出た場合もあれば、何度もやり直したケースもあった。しかし、サムネールが決まってしまってからは、ほとんど修正はなかった。クリエーターおのおのが最後までブラッシュアップに集中でき、非常に良いものができた。

300年をフィールドワークし、エスノグラフィー的手法で作られたポスター

完成したポスターは各店で贈呈された。立派な贈呈式が準備され、各店の店長などの出席の中、ポスターはクリエーター自ら手渡した。「自分のポスターを作られることなんてもう一生ないから感動してます」「ポスターに恥じぬように仕事を頑張ります」「もっとシワ消しといてほしかった(笑)」など、喜んでいただけた。

クリエーター自らがポスターを手渡しました。
クリエーター自らがポスターを手渡しました。
(左から)電通関西支社の瀧上、大丸梅田店の内堀さん、電通関西支社の松下

贈呈式に立ち会いあらためて気付いたのだが、ポスターとなったスタッフの方々は大丸・松坂屋のオールスターなのである。どこの企業でも100人を代表で選び出すとなると、それ相応の人が選ばれることだろう。そんな個性あふれる優秀な人々をポスターにできたことはラッキーだったのかもしれない。

それではできたポスターを見てみよう。

京都のお客さんは、目がこえたはります。
バウムクーヘンに人生を捧げた女
私は大丸の地下アイドル
アンブレラマスターがあらわれた!
一斤入魂。
わたしもいろいろせおってます
いつも、見てるよ。
母は売場娘は厨房
難しいご依頼ほど燃えるんです。
大人の装飾男子
女心、勉強中。
1年前はイタリア語講師、いまは靴屋でございます。
気持ちで、つつみます。
包丁を手にすると豹変し寡黙になります。
植物目線で、45年
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プロなのに結婚指輪を無くすヘマ。
ここ一番のときは、手書きがおすすめです。
美しくなろうとすることが、美しいのです。
契約書で、会社を守る。
ウラカタ

大丸梅田店の贈呈式で梅田店の小山真人店長が「ブランドは各個人が作る。今回のプロジェクトはまさにそれを如実に表現した」と語った。300年の歴史を持つ企業がこれを言うのは重みがある。

百貨店はブランドが勝負である。ブランド管理というものは本社が決定し、それを各支社、各店舗に拡散、浸透させるのが普通である。しかし、このプロジェクトは各地域で働く各個人の積み重ねからブランドを形作った。普通のブランディングが演繹であるとすると、これは帰納である。トップダウンではない。ボトムアップである。そんなやり方で大丸創業300周年を飾った大丸松坂屋百貨店である。

企画書のやりとりの往復で延々とブランドを論じるよりは、ブランドはよく分からないが、一度ポスターを思うままに作ってしまう、何か動画を作ってしまう、コンテンツを作ってしまう。その集合からブランドを見つめ直すというのはいかがだろう。ある頭脳明晰なF先輩は「ポスター展はエスノクリエーティブだね」と評した。文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法のことを「エスノグラフィー」と言い、近頃はマーケティングでも有効な調査手法として注目されている。ぼくたちは300年をフィールドワークし、エスノグラフィー的手法でもってポスターというものをクリエーティブしたのだった。

ウェブサイトではすべての作品が見られる。人気投票も行っているので見てほしい。また、大丸心斎橋店では2017年末まで100枚すべてが掲出されている。実物もぜひ見ていただきたい。