新明解「戦略PR」No.5
メディア間での流通構造を知って、キャンペーンを最大化しよう!
2013/12/09
さて今回は、先日世間を騒がせた熊本県のゆるキャラ「くまモン」の「ほっぺ紛失事件」をPR視点でご紹介いたしましょう。実は私、この「ほっぺ紛失事件」に荷担している者でして、ちょっとそのPRの裏側をお見せします!
「くまモンのほっぺ紛失事件」の全貌
そもそも今回のほっぺ紛失事件は、熊本県が仕掛けた「赤いけん!ウマいけん!くまもと」キャンペーンに端を発します。実はこれ、熊本にたくさんある「赤いイメージ」の特産物を全国的に売り込むためのプロモーション。例えば全国生産高1位のトマトや、あのしっとりした赤色が印象的な馬肉など、赤色にまつわるたくさんの名物をくまモンの赤いほっぺとイメージ連想させることで、生活者の意識に残すという作戦です。
そう、すでにピンと来ている方もいらっしゃるかと思いますが「熊本の美味しい、赤い名物を食べすぎて、くまモンのほっぺが落ちてしまった」というストーリーを徐々に明らかにしていくことで、生活者の関心を継続して引きつける。それが「くまモンのほっぺ紛失事件」の全貌です。ここで少し、そのサプライズ・プロモーションの流れをおさらいしてみましょう。
ある朝目覚めたくまモンは、自慢のほっぺがないことに気付き「!?」と慌てます。それを知った熊本県知事が緊急事態宣言を発令し、すぐさま「くまモンほっぺ」の捜索が始まります。なんせ熊本県のPR部隊「くまもとサプライズ!くまモン隊」の隊長で、熊本県の営業部長なんですから、そりゃー立場的にはね、かなりの重責負ってますよ。なのにコレですモン。そりゃ自信もなくしますよね。Twitterでも「ショックまー!」なんて言ってました。当然のことながら、くまモン自身も必死で探し回りますが、一部では「ほっぺのない“くまモン”なんて、ただの“クマさん”だよね」などと言われて落ち込みます。
くまモンは、日々全国で引っぱりだこなもんですから、「きっと広い東京に落ちているに違いない」と、都心を中心に捜索を開始。まずは、東京のド真ん中、銀座数寄屋橋交差点すぐそばの銀座熊本館前で「ほっぺ、探してください!」のビラ配り。途中、赤信号や物産売り場のトマトなどをほっぺと勘違いし突進したりもします。その後はテレビに出演、渋谷の街頭ビジョンで捜索願い、東京ドームの観覧車から街を一望、それでも見つからずに最後は警察のお世話に、と必死の探索を続けます。警察ではなんと、同じキャラクターつながりで、ピーポくんとの共演(?)も果たしました。「落とし物しないようにね!」なんて説教されていただけですが…。
そして3日後、とうとうそのほっぺが見つかります。赤いほっぺは熊本県の畑や牧場に落ちてたよ、というオチ。いつも人騒がせなくまモンですが、今回は騒がせすぎたという反省と捜索の御礼に熊本県知事を交えての会見、そしてキャンペーンの告知へとつながります。
キャンペーン話題化のカギは「情報流通構造」
このように世間を騒がすサプライズ・プロモーションは、時に社会の反感を買うこともあります。びっくりし過ぎて怒っちゃう、みたいなことですね。しかし、そもそものくまモンの人柄(クマ柄?)や、逆に生活者が想定しやすいオチの設定によって「わかっていながらも、それを楽しんでくれる人」が非常に多かったことが、今回の成功要因だったといえるでしょう。このくまモン事件を連日伝えてくれたテレビ番組でも、アナウンサーが生真面目にこの騒動を伝えるのに対し、メーンキャスターが「なんでそんなのまじめに伝えてるの?(笑)」といったツッコミを入れる場面が繰り返され、メディア側も明るいネタとして楽しもうという姿勢が伝わってきました。
一方で生活者も独自にほっぺ探しをしてくれて、「こんなとこにあったよー!」と自作のキャラ弁当をブログにアップしたり、岩手県のゆるキャラ「そばっち」が赤いほっぺを付けて「これですか?」と野次馬的に登場したりと、いろんな人たちがネタとして遊んでくれたと思います。
さて、ここからが今回のキャンペーンの話題化のカギとなる「情報流通構造」の話。とかく、サプライズ・プロモーションは一発勝負の企画が多いと思います。サプライズをつくり出し、それをバイラルムービーなどでソーシャルメディアに投げ込み、あとは拡散するのを待つというもの。確かにこういうネタはソーシャルメディア上での拡散には適していますが、やはりマスメディアとの連動も考えていきたいところですよね。
そこで今回我々は、メディアからメディアへの情報拡散という情報流通構造を横目に見つつ、さらにマスメディアとソーシャルメディアを包括する情報発信のタイミングを設計していったわけです。通常なら「ほっぺ紛失」発表のタイミングで一気に各メディアに取材動員をかけ、取材・メディア露出の最大化を図るというのが定石かもしれません。ただし、このストーリーをきちんと伝えていくには、その単発的な情報発信ではあまりに単純過ぎるかなと。よって、せっかくのストーリーを生活者も巻き込む形で参加してもらい、楽しんでもらえるものとしたかったのです。よって、くまモンがほっぺを探す期間中、どうこのネタをうまく引き延ばしていくのか、がポイントとなりました。
私自身は、やはり最大の拡散メディアは今もテレビだと思っています。そこで、老若男女が触れる情報番組でいかに取り上げてもらえるかを考えるわけです。テレビにそのままアプローチする方法もありますが、これもネタとタイミング次第で、企画として扱われる確率は五分五分です。そこで可能性を高めるために、事前の話題づくりを仕掛けていくのです。それがネットを中心としたニュースであり、またそこから波及するYahoo!ニュースなどのポータルサイトでの取り扱い。どういうことかというと、「ヤフトピ」のようなポータルサイトに採用されたニュースは、テレビをはじめとするその他のメディアも注目しているわけです。
さらに最近注目されるソーシャルメディア上で拡散性の高いニュースプロバイダー、例えばロケットニュース24やガジェット通信などのミドルメディアもカギとなります。ミドルメディアでの露出は、SNS上での話題化を促進する上、各種のポータルサイトでのニュースの取り扱いの大きさにも影響を及ぼします。また、「まとめサイト」と呼ばれる一連の話題を時系列で解説してくれる場にもつながっていきます。これら周辺メディアが情報拡散することで「生活者が知りたい情報」としての背景が固められ、テレビが企画として取り上げうるネタへと進化するためです。
“スパイラルアップ”な状況をつくり出す
このように、これからは、マスメディア、ソーシャルメディアを融合させながら考えていくという思考が重要になってきます。そして、この結果としてのマスメディア露出が、今度はネット上で取り上げられ、さらに拡散するという“スパイラルアップ”な状況をつくり出すことができるのです。これこそがムーブメントつくりに欠かせない方法といえるでしょう。
今回のくまモンほっぺ紛失事件だけに絞っても、これに関するつぶやきは5日間(11月4日9時時点)で約32,800件となり、それらのフォロワーも換算すると約2900万人に情報が到達していることになりました。日本の人口1億3千万人弱という数字から換算すれば、TV視聴率20%相当とも言えるのではないでしょうか。
キャンペーンの動画は、全編で4分30秒と、ちょっとWEB動画にしては長いのですが、最初の1週間で20万人がアクセスし、最後まで見てもらうことができました。当初、この企画はバイラルムービー主体で考えられたプランでしたが、既存のマスメディアをうまく活用、融合していくことで期待以上の成果が得られたと思います。現在デジタル一辺倒でプランをされている方々も、「いいね!」を獲得するだけでなく、リアルに生活者の動きをつくり出すような、そんな方策を一緒に考えてみませんか?
(くまモンのほっぺがなくなった!? THE MOVIE
http://www.youtube.com/watch?v=GMJD6piRwUA)