loading...

ADWASIA2017リポートNo.6

Dentsu One Indonesia / Dwi Sapta Group
経済成長とデジタルの波が同時に押し寄せる、アジアで成功する秘訣とは

2017/07/25

昨年アジアに初上陸したマーケティング・コミュニケーションの祭典「Advertising Week」が、今年も東京で「アドバタイジングウィーク・アジア2017」として開催された。5月29日から6月1日の4日間、東京ミッドタウンには、ブランド、メディア、テクノロジーなど幅広いテーマを軸に世界から有数の経営者やCMOクラスのリーダーたちが集結。パートナー企業・団体数は昨年の50から64に増加し、約1万3000人が参加した。

最後のリポートは、アジアがテーマ。今年11月8-10日にインドネシアで「アドアジア2017・バリ大会」が開催される。アドアジアは、AFFA(アジア広告協会連盟)が隔年で主催するアジア最大の広告カンファレンスだ。これに先立ち、同国で展開する電通グループ傘下の二つのエージェンシーから、Dentsu One Indonesiaのジャヌー・アリジャントCEOと、Dwi Sapta Groupのマヤ・ワトノCEOが「GlobalizAsian」と銘打って、アジア広告市場の現状と可能性について講演。ユニークな文化や価値観にあふれ、かつミレニアル世代がひしめくアジア市場で成功を収めるための戦略を解説した。

世界のミレニアル世代の58%が在住、急成長するアジア

世界の人口の半分以上が在住し、中国と日本という世界第2・第3の経済大国を抱え、隣り合う国でさえ全く異なる文化や価値観が根付いているアジア。「Globalization」の流れがますます強まる中、その存在感は世界経済においてだけでなく、広告コミュニケーションの世界でも高まっている。Dentsu One Indonesia のジャヌー・アリジャントCEOと、Dwi Sapta Groupのマヤ・ワトノCEOは「GlobalizAsian」というキーワードを提示し、多様性のあるアジアの市場で生まれるイノベーションが、グローバルでの飛躍に大きな学びになると示唆する。11月に行われるアドアジア2017・バリ大会には14カ国が参加予定で、各国の事例を発表し共有する機会になる、とワトノ氏。

Dwi Sapta Groupのマヤ・ワトノCEO
Dwi Sapta Groupのマヤ・ワトノCEO

「アジア諸国が持つポテンシャルは計り知れない」とワトノ氏は強調する。まず2017年の経済成長に注目すると、欧米が前年比1%台なのに対し、ASEANでは4.8%、東南アジアにフォーカスすると6.0%もの拡大が見込まれている(※FocusEconomics Consensus Forecast)。引き続き、世界経済をアジアがけん引していくという見方が大半だ。広告費の伸長にも、アジアは貢献している。デジタル分野の成長も目覚ましく、人口の多さと経済発展が相まって、インターネットユーザーやソーシャルメディアのユーザーなどが軒並み二桁成長。アジアの総人口に対するモバイルユーザーの率も極めて高い。

また、先進国に比べて若年層が多く、世界のミレニアル世代の58%がアジアに在住している(※ UN World Population Prospects 2015; A.T. Kearney analysis)。さらに16年第4四半期の消費者景況感調査(Global Consumer Confidence)では、1位のインドを筆頭に、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどトップ10のうち8カ国をアジア諸国が占めた(※Nielsen Consumer Confidence Survey-Q4 2016)

言語や伝統の多様性に、テクノロジーが複雑さを加えている

ワトノ氏は、この勢いのあるアジア市場で勝ち残っていくための戦略を次の五つに集約する。

アジア市場で成功するためには、多様性を踏まえてローカルの視点で洞察することが重要だ
アジア市場で成功するためには、多様性を踏まえてローカルの視点で洞察することが重要だ

まず、アジアでは国ごとに何もかも異なると理解すること。元々、共通の言語や伝統がなく多様性に富んでいる上に、所得が向上しているためテクノロジーを取り入れるスピードが速いので、人々の態度や行動がさらに複雑化している。

「例えばジャカルタは渋滞がひどいので、今、渋滞を回避できるバイクタクシー『GO-JEK(ゴジェック)』が人気を集めています。専用アプリを使ってオンラインで予約でき、バイクに二人乗りして目的地まで行ってくれるのです。なので、数キロならすぐに着く感覚ですが、私が東京で移動する際は近い距離でもとても遠く感じます。つまり、各国の事情を踏まえないと、ブランドエクスペリエンスも変わってきてしまいます」とワトノ氏。

二つ目は、この多様性がクリエーティビティーのヒントになること。地理的な特徴や文化の違いが大きいからこそ、効果的なコミュニケーションを展開するには、よりクリエーティブになる必要がある。実際に各国で、先のバイクタクシーのように、ローカルの視点で人々のニーズを捉えたサービスが発展しているという。

三つ目は、どんなイノベーションもコストパフォーマンスが見合わなければいけないこと。所得が向上しているとはいえ、払う額に見合うサービスでなければ、いくらイノベーティブで自分にとって便利なサービスでも浸透しない。デジタルの世界では、発想の勝負とともに、価格競争も起こっているとワトノ氏。「皆、どれだけリーズナブルにサービスを受けられるかという点に敏感なので、それを踏まえた戦略が必要です」

四つ目は、消費者がデバイスやプラットフォームをまたいで分散化するのを管理すること。インドネシアの人々は今、テレビ、ノートパソコン、タブレット、そしてスマートフォンと四つのデバイスを併用していることも多いという。ワトノ氏は「ブランドコミュニケーションの成功例では、各コンタクトポイントを横断して一貫した体験を提供しています。使用するチャネル数より、メディア間のシナジーが重要になります」と解説する。

最後に五つ目は、ローカルとグローバルの視点を併せ持つことだ。「ローカルな洞察は重要ですが、ローカル対グローバルということではありません。特定のマーケットでの状況と問題を理解することは、グローバルスタンダードな解決策を導くことにもつながります」

“First time Buyer”となる中流階級の増加に注目

アジア市場で成功するための戦略に続き、Dentsu One Indonesia のジャヌー・アリジャントCEOが、文化人類学の観点から見たアジア市場の特徴と、キャンペーンシナリオの特徴を紹介した。

Dentsu One Indonesia のジャヌー・アリジャントCEO
Dentsu One Indonesia のジャヌー・アリジャントCEO

例えば、“First Time Buyer”の多さ。アジアには、自動車にしてもラグジュアリーブランドにしても「大きなマーケットが広がっている」とアリジャント氏。というのも、欧米諸国と違い、それを人生で初めて買うターゲット層が拡大しているからだ。所得を増やしている、新しい中流階級といえる人たちにリーチするためには、コンテンツを統合し、啓発を含めてその商品の価値に気付いてもらうダイレクトマーケティングと、アクティベーションに注力することがポイントになる。

不安定な情勢だからこそ捉えられる機会もある。「タイやインドネシアでは、政治経済の不安見られる。しかし、その不安定なコンテクストこそ成長の機会と捉えるブランドも多く、急成長を遂げているケースもある。特に小さくローカルなブランドは、より機敏に対応している」とアリジャント氏。キャンペーンシナリオとしては、より短いタームで、そのときどきの文脈をよく読んだコミュニケーションが求められる。

集団主義とSNSが密接、家族の影響も大きい

また、集団主義の傾向が強く、周囲との合意を大事にするのも特徴的だ。従ってマーケティングでは、地域社会や民族性に基づく市場の発展を把握し、直接接触を図ることが重要だという。その際は、地域のインフルエンサーの関与や、よくカスタマイズされたコンテンツの作成やコミュニティーに根差したCRMが有効だ。アリジャント氏は「こうした傾向の下では、SNSのムーブメントがどのブランドにとっても大切です」と語る。

多様な文化と伝統を抱きながら急速に経済成長する、そのタイミングにデジタルの波が押し寄せているのもアジアの大きな特徴のひとつ。アリジャント氏は、ハイブリッドというキーワードを掲げ、「市場もオーディエンスも複数の要素が混ぜ合わさっているのが現状」と解説する。テレビの影響力が大きい一方で、デジタルのコンタクトポイントも拡大している。そのため、これらを組み合わせた施策が欠かせない。

家族のつながりも、必ず意識しなければいけない点だ。同じアジアでも先進国である日本と違い、多くの国で家族の存在感がとても大きく、家族や友人の勧めは意思決定に強く影響する。従って、キャンペーンでは家族や友人とグループで楽しむようなビジュアルがよく使われる。

また、ワトノ氏の最後の話を受けて、アリジェント氏も「グローバルを見据えながらもローカルを強く尊重することが重要」と語る。「グローバルなトレンドとローカルな事柄は同時に受け入れられるので、ローカルコンテンツとグローバルブランドを融合させた“Fusion Brand”を開発すれば、オーディエンスのニーズを捉えられる可能性があります」

今回の講演では、11月のアドアジアで共有される内容のハイライトが紹介された形だ。アドアジアでの議論からどのような知見が導き出され、またそれらをどうグローバルに発展できるのか、期待が高まる。