TwitterテレビCMの目的と裏側:ジャヤンタ・ジェンキンス(Twitter)×阿部光史(電通)
2017/07/18
今年より、日米でTwitterのグローバルキャンペーンが行われています。その両方のクリエーティブを率いるのは 、これまでApple(Beats by Dr. Dre)やNikeなどのプロジェクトに携わり、現在はTwitter社のグローバルグループクリエーティブディレクターを務めるジャヤンタ・ジェンキンスさん。今回はカンヌにて、ジェンキンスさんと、日本のTwitterキャンペーンを担当する電通の阿部光史さんが、キャンペーンの目的やクリエーティブの裏側について話しました。
ツイートがリレーになっていく展開は、グローバルに展開できる共通の構造
――日本とアメリカ、それぞれのキャンペーンについて教えてください。
阿部:日本のキャンペーンでは、これまでTwitterを使ったことがない30~40代の人に向けて、Twitterの誤解を解くことをベースに作っていきました。その誤解とは、Twitterが個人間のコミュニケーションプラットフォームであったり、若い人中心のツールであるということ。「若い人が興味を持つことだけが語られているプラットフォームではないよ」ということです。そこで、30~40代の人の話題をトピックにしたクリエーティブを作っていきました。アメリカでのキャンペーンはいかがでしょうか?
ジェンキンス:アメリカのテレビCM では、デジタルネイティブ層に向けて戦略的にアプローチしていきました。Twitterの利用経験はあるけれど、最近あまり使っていない…そんな人に対して、Twitterが使いやすく便利なツールであることを見てもらいたい。そこで、実際に会話を生むトピックも、使いやすいと思わせるようなシーンを意識しながら、スポーツや音楽などのトピックを使っていきました。そこが、日本との違いでしょうね。
――それぞれのクリエーティブのポイントはどんなところにあるのでしょう?
阿部:ストーリーとツイートが絡み合いながら展開するスタイルのテレビCMは日本にはあまりなくて、どういうカタチに生み出すかは苦労したところです。そんな中、4月に届いたアメリカ版のコンテを中に、人とツイートがリレーしながら全体が輪になってつながっているような構造を発見し、「こういうことか!」と。それでようやく日本向けスクリプトが完成しました。
ジェンキンス:ツイートがリレーになっていく展開の仕方は、グローバルに展開できる共通の構造だと思います。ツイートが同時に出て会話を擬似的に表現した部分は、日本の作品の素晴らしいところ。特に、男女の役割に対してきちんと向き合っているのがいいですね。
阿部:リアリティーについてはこだわった部分があって、お父さん役の役者さんもお母さん役の役者さんも、実際に共働きでお子さんがいる方をキャスティングしています。ロケーションもリアルさを重視して、カッコいいコマーシャル的なものではないようにしました。また、撮影はデジタルではなくてフィルムで行っています。
ジェンキンス:あえてフィルムというアナログな感情を引き出すツールを使うことで、デジタルにはできないことがあるのだと感じました。昨年、アメリカで行ったTwitterの屋外広告もトラディショナルな方法を使っているのですが、4K動画では切り取れない、フィルムでしか表れない感情を大事にしている日本の作品とは、共通する部分があると思います。
Twitter創業者ジャック・ドーシー曰く「感情が動いた」
阿部:ジャヤンタさんから見て、今回の日米のキャンペーンは、それぞれが独立したものでなく一つのグローバルなキャンペーンに見えていますか?
ジェンキンス:日米それぞれ伝えなくてはいけないことがあるため、ニュアンスの違いはあるにしても、まさしくグローバルキャンペーンだと思っています。Twitter創業者のジャック・ドーシーに日米の作品を同時に見せたとき、彼は両方とも「気に入った」と言っていました。ジャックはあまり感情を表に出さない人ですが、「感情が動いた」と言ってくれたことは、このキャンペーンの支えになるエピソードでしょう。
阿部:日本ではグローバルで同時に動くキャンペーンはそれほど多くなく、同じ製品やサービスでもマーケットが違うとメッセージもアプローチもまったく違うのが普通です。僕はそれをブランディングにとって良くないことだと思っていたのですが、今回ジャヤンタさんとプロジェクトを進める中では、「同じグローバルブランドを一緒につくっている」という感覚が強くありました。
ジェンキンス:そういう意味では、今回とても仕事がしやすかったです。「お互いがどう感じたか」をすごく大事にして、ニュアンスを失わないように気をつけましたよね。共感性を大事にしながら、理論性も忘れないというバランスは大切です。そういうことが全部つながって、グローバルな考えのもとでプロジェクトができたんじゃないかと思います。
阿部:そう言っていただけるのは、すごくうれしいです。ありがとうございます!
――最後にTwitter社と電通の今後について聞かせてください。
ジェンキンス:今回の日本のクリエーティブは、キャスティングも音楽もストーリーも、すべてが完璧でした。Twitter社と電通の初めてのプロジェクトとしては、この上ないものだったと思います。未来についてはまだ何も決まっていませんが、可能性はあるでしょう。今回の日米の作品は、実際にTwitterの利用者を増やすことも大事ですが、ブランドをどう構築していくかをとても大切にしています。これからどうなっていくのかすごく楽しみですね。
阿部:僕は本当にTwitterが好きで、ジャヤンタさんの1カ月後(2007年5月) にアカウントを取っているぐらい、初期から使っているんです。Twitter社の信念の中に「Every voice has the power to shape the world 」という言葉があって、それは本当にそうだな、と。Twitterは、個人の力とか組織の力とか、そういった力の関係がフラットになる、一つの装置になっていると思います。そんな大きなブランドを、国を超えて一緒に表現できたことが嬉しいし、これからも日本担当としてTwitterというブランドが大きくなるお手伝いができれば光栄です。
対談を終えて(阿部光史)
この日のジェンキンスさんは、カンヌでのTwitterセミナーを終えた直後でした。そこで彼が観衆に送ったメッセージは「ブランドにはDiversity(多様性)やInclusion(社会的一体性)を実現するパワーがある」という力強いもので、会場のみならず世界中から高い評価を集めていました。
対談の後にはOOH部門グランプリ受賞の知らせも届き、今年のカンヌではTwitterブランドに追い風が吹いていたと思います。
ジェンキンス氏が日本のクリエーティブに求めたクオリティーは、それはとても高いものでした。彼自身が来日し、全撮影と仮編集に立ち会い、クリエーター同士がさまざまな意見を直接ぶつけ合いました。日米がほぼ同時に制作を進めたこともあり、お互いが表現のディテールを参考にするなどのシナジー効果も生まれました。
日本でのTwitterユーザー数は現在も伸びています。アイコニックで唯一無二なブランドがさらに強化されることを、これからもいろいろと仕掛けていきたいと思います。