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今回の 電通デザイントークは、映画「そうして私たちはプールに金魚を、」で 第33回「サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞した電通の長久允さんを迎えます。さらに、広告とコンテンツの境界を行き来しながら話題をつくってきた髙崎卓馬さんと、ウェブとリアルを縦横無尽に遊びながら、強いコンテンツを生み出している尾上永晃さんも登場。デジタルテクノロジーの進化で、世界中の誰もがコンテンツを制作できる時代に、広告のプロとしての自負や、心に響くコンテンツのつくり方について考えます。

※映画「そうして私たちはプールに金魚を、」はコチラでご覧いただけます。

電通デザイントーク「拝啓、コンテンツつくってますか!?(前編)」画像01
(左から)電通 長久允氏、尾上永晃氏、髙崎卓馬氏


 

「サンダンス映画祭」で評価された理由

髙崎:長久くんから「サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞したという知らせをもらって、すごくびっくりしました。映画に憧れたことのある人なら、誰でもサンダンスと聞くと震え上がるわけです。まさか自分の後輩がグランプリを取るとは、夢にも思ってもいなくて。

長久:実は、すごいんですよ(笑)。「サンダンス映画祭」は、インディーズ系の映画に特化した国際映画祭の中で最も規模が大きく、格式もあります。若手映画監督を発掘することで有名でデイミアン・チャゼル監督も短編映画「セッション」の受賞をきっかけに、長編映画として再構築した「セッション」をつくりヒットさせています。「ラ・ラ・ランド」でのブレークは、サンダンスから始まっていると言っても過言ではありません。

電通デザイントーク「拝啓、コンテンツつくってますか!?(前編)」画像02_長久

髙崎:今回の映画「そうして私たちはプールに金魚を、」は、どういう経緯で企画したんですか。

長久:もともと僕は、映画の専門学校を卒業しているんです。今はCMプランナーとして広告をつくっているので、なかなか映画を撮る機会はありませんでした。しかし、「MOON CINEMA PROJECT」という、ウェブ投票で1位になった企画に出資するコンペを見つけて挑戦したところ、おかげさまで1位になれて映画がつくれました。

髙崎:僕も投票しました。「そうして私たちはプールに金魚を、」は実際に埼玉県の狭山市で起きた事件をモチーフに映像化したんですよね。

長久:はい、2012年の夏祭りの夜に4人の女子中学生が「金魚すくい」の金魚400匹を盗んで、自分たちが通う学校のプールに放ったという事件です。

髙崎:そういうローカルなモチーフがグローバルな場で評価されたポイントはどこにあると思いますか?

長久:自分では、日本の女子学生の考え方や、祭りのエキゾチックな雰囲気が評価されるんじゃないかと期待していました。ただ実際は、映画のテーマがグローバルな課題に通じていて、それを新しい映像表現で描いたことが評価されました。僕は狭山市という、すごく限定的な地域の物語として描いたつもりだったので、グローバルなテーマと言われたことにびっくりしました。

髙崎:あの子たちのいる世界は、特殊なものではなくて、誰しもが持つ感情を描いていたからなんでしょうね。

長久:狭山市は1時間もあれば、東京に行くことができる地域。そこで暮らす大半の人は都会に住むことなく、一生を終えます。主人公の少女たちも、狭山市で一生を終えていくことに対して「嫌だ」「脱出したい」とは言うけれど、それはできないだろうと諦めています。それが、なぜグローバルかというと、世界の多くの人たちも狭山市と同じように大都市近郊で暮らしながら、閉鎖された環境に鬱積した思いを持って人生を送っている人が多いそうです。

髙崎:事件を知って、テーマを発見した感じですか。

長久:いえ、事件を知ったことがきっかけではありませんでした。もともと僕が“諦念”して生きていたんです。例えば、すごくストレスを感じても、逆にそれはそれで面白いかなと認識している。いわば“諦めのポジティブ”みたいな性格だったんです。

髙崎:テーマとは自分の中にすでにあるもので一つの事件がそれに輪郭を与えてくれたんですね。

映画とテレビCM制作はどう違う?

長久:「そうして私たちはプールに金魚を、」は、アメリカ人から「すごくリアルだ」と言われました。それはたぶん、セリフのリアルさというよりも、例えば主人公の兄がアダルトビデオについて語るシーンなど、ストーリー展開に不要なシーンを描いているからだと思います。なぜなら、人生における“リアル”とは、そういうノイズだと考えるからです。

尾上:すみません。普通に聞き入ってました。このままだと無言で終わってしまいそうなので質問させてください(笑)。映画を見ていて、グラタンを“ぐちゃぐちゃ”と音を立てて食べるシーンなど、ノイズはすごく気になりました。ああいうシーンはテレビCMでは描けないですからね。

長久:テレビCMは理屈で構成されますからね。でも、人間には理由は明示できなくても“グッと”きてしまうことがあります。そういうシーンを意識的に埋め込んでいます。

髙崎:長久くんのCMにはメジャーなものへの反骨をよく感じてるんですが、この映画にはそういうものを実はあまり感じなくて。テーマへ極限まで純粋になろうとしているように見えます。その違いはどこに?

長久:なんでしょうかね。テレビCMは商品を売るためのものなので、いくらエモーショナルな映像であっても、帰着点は商品です。一方で、映画は思想を投げ掛ける場で、ゴールを明快に提示しなくてもいい。その違いかもしれません。

髙崎:広告って商品を出せば、どんなにシュールでも、どんなに出来が悪いシナリオでも着地してしまう。そこに甘えたらいけないという覚悟を最初に持たないと、どうしても表現として幼稚になりがちで。お約束ごとをどう破るかではなくつくれる場がその違いを生んでいるのかもしれないですね。

電通デザイントーク「拝啓、コンテンツつくってますか!?(前編)」画像03_髙崎

長久:その点で尾上くんは、自分の視点や温度感でコンテンツを生み出すことが、本当にうまいと思います。

髙崎:尾上くんたちの世代の仕事はとても面白くて。納品しても、つくり直したり、成長させたりしている。クライアントとの会話が納品後も続いている感じがする。

尾上:はい、コール&レスポンスで成り立つものが多いですね。みんなの輪の中に入っていくといいますか。

個人の情念で広告を成立させる

長久:尾上くんは、昔マンガを描いていたけど、今も描きたいという気持ちはないの?

尾上:マンガを描いていたのは、仕事が途中で消滅したりして世の中に全然出なかった、暗黒の時期です。たまっていた鬱憤をマンガで発散していたんです。でも今は、仕事を出せるようになってきたので、描きたい欲が減退してしまってますね。たまに描きたいテーマが出てきますが。漫画を扱ったコンテンツで言いますと、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(こち亀)がものすごく好きで、その40周年&終了キャンペーンをやらせていただきました。その中の一つが、低予算型テーマパーク「亀やしき」です。これは花やしきをジャックして、味のない焼きそばを3000円で販売したり、競馬中継が流れるメリーゴーラウンドをつくったりして、最後は「両さんが逃げたので終わりです」という張り紙をしました。

この仕事では、テーマパークの焼きそばの値段の高さや、メリーゴーラウンドのきなくささなど、以前から感じていたことをコンテンツとして表現できたかなと。両さんが本当にいたらこうするだろう、っていうのをひたすら考えました。

電通デザイントーク「拝啓、コンテンツつくってますか!?(前編)」画像04_尾上

長久:個人的な情念がかなり入っているのに、きちんと広告として成立している。

尾上:ウェブ上には無限にコンテンツがあります。そういう中で勝つためには、他のコンテンツでは実現できないようなレベルの情念を出すことが大事だと思っています。

日清食品のカップ麺「日清のどん兵衛」のキャンペーン「どんばれシリーズ」が打ち切られたときも、打ち切りマンガ「どんばれ~どん兵衛物語~」をマンガ「魁!!男塾」で知られる宮下あきら先生に描いてもらいました。ネームは自分で描いて何度も描き直しました。漫画家さんは本当にすごいと思います。最後は、打ち切りマンガのお約束で、全キャラクターを登場させて「どん兵衛のこれからにご期待ください。第1部完」としてもらいました。

長久:そこですよね(笑)。

尾上:そうですね(笑)。予定のない第2部をにおわせて、終わることが重要でした。自分が過去にマンガを読んでいたときに溜めた「連載打ち切りイメージ」を広告と掛け合わせたら、何ができるかなと企画したんです。

こんなふうに自分が好きなものを取り出して、広告を制作しています。僕の場合はマンガが多いですが、髙崎さんは今の自分が何で形成されていると思いますか。

髙崎:僕は完全に10代に出会った音楽と小説と映画と漫画。経験を重ねていくたびにその原点に引き寄せられていく感覚があります。あらがいようのないもの、として。

自分の好きなものをつくっているのではないけれど、自分の嫌いなものは絶対につくれないですから。

長久:確かに昔と比べて、個人の「好き」という感情に価値を見いだす機運をすごく感じます。

髙崎:メディアが激変してコンテンツがあふれ出したおかげで世界中にいる「好きなひと」を見つけやすくなった。好き嫌いはより大事な感覚になっていく気がします。

※後編に続く
こちらアドタイでも対談を読めます!
企画プロデュース:電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム 金原亜紀

 

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著者

長久 允

長久 允

電通

1984年生まれ、東京都出身。2017年、監督作品「そうして私たちはプールに金魚を、」がサンダンス国際映画祭で日本人初短編部門グランプリを受賞。受賞歴にTCC新人賞、OCC最高新人賞、カンヌライオンズヤングライオンFILM部門メダリスト他。代表作に長編映画「WE ARE LITTLE ZOMBIES」、「デスデイズ」、WOWOWオリジナルドラマ「FM999」、GUCCIによる短編映画「Kaguya By Gucci」、羊文学「FOOL」MV など。脚本家、舞台の演出家としても活動している。最新作はWOWOWオリジナルドラマ「オレは死んじまったゼ!」(柳楽優弥主演)が現在放送中。

高崎 卓馬

高崎 卓馬

1993年電通に入社。2010、13年に続く3度目のクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞をはじめ、国内外での受賞多数。著書に「表現の技術」(中央公文庫)、小説「オートリバース」(中央公論新社)、絵本「まっくろ」(講談社)など。J-WAVE「BITS&BOBS TOKYO」でMCを担当。共同脚本・プロデュースで参加した映画「PERFECT DAYS」は、2023年のカンヌ国際映画祭で、役所広司さんが最優秀男優賞を受賞。2025年3月、電通を退社。

尾上 永晃

尾上 永晃

株式会社 電通

なんでもありで臨機応変なコミュニケーション設計を得意としている。最近の主な仕事は「もしも東京の真ん中に、山があったら。」「みんなでピノゲー」「カップニャードル」「藤原竜也CookDo」「#667通のラブレター」「サンクチュアリ:ジャイアント猿桜像」など。ACC BC部門審査委員長や「コピー年鑑2022」編集長も務め、そのストレスの影響からか痛風発作が頻発。体質改善に挑みながら8時間寝ている。

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