Dentsu Design TalkNo.98
拝啓、コンテンツつくってますか!?(後編)
2017/08/19
今回の 電通デザイントークは、映画「そうして私たちはプールに金魚を、」で 第33回「サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞した電通の長久允さんを迎えます。さらに、広告とコンテンツの境界を行き来しながら話題をつくってきた髙崎卓馬さんと、ウェブとリアルを縦横無尽に遊びながら、強いコンテンツを生み出している尾上永晃さんも登場。デジタルテクノロジーの進化で、世界中の誰もがコンテンツを制作できる時代に、広告のプロとしての自負や、心に響くコンテンツのつくり方について考えます。
※映画「そうして私たちはプールに金魚を、」はコチラでご覧いただけます。
CMの方法論で映画をつくる
髙崎:低予算で映画をつくると、演技がどうにも素人な人が紛れていたりするものだと思うんですが、この映画のキャストはみんな自然ですごいですね。
長久:僕は、演技の「不自然さ」が気になる原因って、音の間だと思っていて、だからそれは演者ではなく監督の責任が大きいと感じています。ビデオコンテをつくって、僕がセリフを読んだスピード感を守ってもらい音の設計を崩さずに仕上げていきました。ビデオコンテもそうですが、テレビCMの制作方法を取り入れています。一般的な映画では、そういうつくり方はしないかもしれません。
髙崎:2時間の長編でも同じ方法論でつくる?
長久:そうですね。賞をとって一番うれしかったのは、この物語運びや設計で次回作を撮っていいという保証ができたことです。だから、挑戦してみます。
髙崎:つくるときにスクリーンのサイズ感とスマートフォンのサイズ感とって意識したりしました?
長久:両方、意識しました。スマートフォンで見ても耐えられるスピード感や、スクリーンまでの距離感などですね。
髙崎:僕最近、自分の仕事が昔に比べて、引き絵が少なくなっていることに気が付いたんです。特に若い監督とつくったものが。自分の映像環境にスマホのサイズが自然に入り込んできているから、そういう変化の影響がいつの間にか起きているかもしれない。
尾上:スマートフォンだと距離感が大事だから、顔のアップを多用するとYouTuberの人から聞いたことがあります。映画だと圧迫感がすごいのであんまりやらないですよね。それにユーザーがどこで離脱したのか、どういう評価をしたのか、反応を把握しやすいです。こういった視点から映画のつくり方がどう変わっていくのかに興味があります。スマートフォンから得られる情報を参考にして、映画をつくるようになれば違う世界が見えてくるかもしれません。
広告会社もコンテンツに投資する時代
長久: 髙崎さんは「ショートショートフィルムフェスティバル」で審査員をされていましたね。
髙崎:僕がやらせてもらったのは「ブランデッドショート」という新部門だったんですが、映画監督たちと映像を審査するというのはとても刺激的でした。オリジナリティーがいかに大切か、をとても深く考えました。
あと印象的だったのはセレモニーで登壇した大林宣彦監督の壮絶なスピーチ。黒沢明監督からの遺言がある、と。映画という素晴らしい道具を使って、次の世代が何をなすべきかという話で鳥肌がたちました。
長久:僕も映像を見て、すごく感動しました。
髙崎:僕らの仕事はあくまで広告で、物を売るためのものだけど、同時にやっぱり世界の一部ではあると思うんです。うつむいているひとがいたら、見えなくなりかけてる大切なものに光を当てたり。そういう仕事だと思うんですね。だからそこに関してジャンルの違いという意識がないんです。
長久くんの「諦念」のように僕には言語化されたものはまだないけれど、そういう芯のようなものはあります。そういう自分の背骨で物をつくっていかないと本物の表現にはなっていかないのかもしれないですね。
長久:今回、僕が海外に行って感じたのは、広告会社はコンテンツメーカーとして高いレベルを持つ人が集まっているということです。コンテンツをつくるための投資をすれば、広告とは別の新しい稼ぎ方の軸がもう一本できると思ったんです。
髙崎:映像ビジネスはまだ未開拓な感じがしたんですね。
長久:広告会社の人材は、人を引き付けるための方法を延々と考える修業を積んでいるはずです。だから、映画業界の人が感性でつくるよりも意識的に、見る人の共感を狙っていけるんじゃないでしょうか。
髙崎:優秀な人はどんな職種でもみんな「流れ」をつくろうとしていますね。そういうスキルはシナリオの構築にも似たものがあるかもしれないですね。
長久:何を世の中に投じたいかですよね。僕の場合は、思想的なことを投げ掛けたいから、実は広告ではないのかな、と感じることもあります。
髙崎:2017年のカンヌライオンズはずいぶん思想的というか問題提起なものが多かった気がします。これから長久くん的なスタンスが求められるんじゃないですか。
長久:でも、広告の場合は投げ掛けた先には、「だから、この商品のことを良く思ってね」という目的があります。その感じが、やや違和感があるんです。
尾上:すみません、また聞き入ってました。コトバの山本高史さんが著書で「広告は基本的に善意から成り立つ」と書かれていまして、それが面白いなと。例えば、ペットボトルの水も創業者の思いまで立ち返れば、おいしい水で人の渇きを癒やしたいという純粋な思いから生まれたのかもしれない。そこまでたどれば、長久さんが感じる違和感もなくなるんじゃないですか。とか言ってみたりして。
髙崎:やる気のない仲間を説得してる図になってる(笑)。
長久:そうですね、人の心を動かしてビジネスにしていくことをやってみたいと思っています。高崎さんも、尾上くんも既存のフレームを壊そうとチャレンジしているので、一緒に新しいビジネスを開発していければと思います。今日は、ありがとうございました。
<了>
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