コミュニケーション・ショーケースNo.4
東京メトロ×サントリーBOSS「働くって、いいもんだ。THE LAST TRAIN」
2017/08/25
東京メトロとサントリーBOSSがコラボして、
ウェブとOOHを連動させた重層的なキャンペーンとは
これは、広告なのだろうか。ドキュメンタリーなのだろうか。
この3月、東京メトロと“働く人の相棒コーヒー”として親しまれているサントリー「BOSS」が協力して実施した「働くって、いいもんだ。THE LAST TRAIN」。ある駅長の定年退職に合わせて労をねぎらうサプライズ企画である。
半年前から準備を開始。企画を検討する中で、「もうこの人以外はない」と、駅員から推薦があったのが東京メトロ秋葉原駅の石山駅長だったそうな。
企画決定後、メンバーがスケジュールを調整してこっそりビデオメッセージを撮影。指定した時刻に素材を出し分けられる、東京メトロの駅デジタルサイネージでリハーサルも入念に行われた。
当日、終電後の深夜、秋葉原駅に皆が集まり、退職サプライズ企画が決行された。サプライズ直前、同僚たちがそれぞれの位置に隠れる。
駅長はサイネージに突然現れた同僚からのメッセージにくぎ付けに。仕掛け人の同僚たちが姿を現すと、終電後の駅に大きな拍手が響いた。花束を渡され、笑顔で涙ぐむ駅長。
サプライズを仕掛けられた石山駅長はこう話す。
「深夜、大勢の皆さまから祝福され思いもよらぬ花束やプレゼントをたくさん頂きどうしたらよいのか戸惑いました。釣り合う言葉が見つからなかったです。感無量。感謝、感謝でした。このようなサプライズは人生初めてです。今までの会社人生で最高の時でした」
その一部始終はカメラに収められ、3月27日から特設サイトで公開。銀座・上野・溜池山王などの駅構内デジタルサイネージでも、ウェブムービーのダイジェスト版が4月2日まで上映された。
単なるドキュメンタリーでは、ない。だがしかし、単なる広告でも、もちろんない。
そこにリアルがあるから、なんだ広告か、コンテンツか、と一言で片付けられずに人は見入ってしまうのだろう。企画あるいはコンテンツとしても、またメディアとしても重層的な構造を持つことで、簡単にスルーできない引っ掛かりを獲得し、また新しい可能性を感じさせるキャンペーンといえるだろう。
電通3CRP局
歓崎浩司
幸せな「いたずら」
広告にはさまざまな人たちの「企み」が詰まっています。その「企み」にたまたま出合う人も、なんとなく触れた人も、「驚き」と「気付き」をお土産に持って帰ってもらいたい。だから自分が関わる「企み」は、「幸せな『いたずら』」にしたいな、と思っています。
今回の「THE LAST TRAIN」では、特に「幸せな『いたずら』」が実現できたと思います。施策の内容は、「働く」を支える東京メトロとサントリーのBOSSが手を組み、春に退職する東京メトロの駅長さんに、終電後の駅でサイネージを使ったサプライズ。心のどこかで、自分の父親のことを思っていました。「俺は一生公務員だ」と、強い意思を持って、郵政民営化になる前に早期退職をした元郵便局員の父親。「働くことに向き合う」とは、「自分自身の行きざまと向き合うこと」なのだなぁと思ったのですが、上京している私は、そんな父親の最後の働く日に、一緒にいることができませんでした。
今回の施策で、全くの他人の駅長さんの最後の「働く」に立ち会わせていただきましたが、本当に緊張しました。リアルに行うサプライズ、うまくいくかな? 人の人生のかけがえのない瞬間に嫌な思いをさせたらどうしよう…。ドキドキしていました。でも実際にサプライズを行い、駅長さんの笑顔と、頰を伝う涙、関係者の皆さんからの「これはいいね」という声をモニター越しに見聞きして、本当に「やってよかった!」と思いました。
この企画にGOを出して頂いた、東京メトロとサントリーはもちろん、難しいプロジェクトを一緒に進めてくれたスタッフの皆さんがいたからこそ、味わえた最高の瞬間。駅長さんの言葉をお借りすると「やっぱりチームだよね」です。「働く」ことに真摯(しんし)に向き合う今日この頃。今できることを、一つずつ全力で取り組んでいこうと決めました。いつか私にもくる「退職という日」に心から「働くって、いいもんだ。」と思えるように。