押忍!カイゼン道場!No.4
デイリーポータルZの林編集長が提唱「これからは常にネット映えを考えないといけない」
2017/09/11
デイリーポータルZの林編集長が、電通国際情報サービス(ISID)の研究開発組織、オープンイノベーションラボ(イノラボ)のプロジェクトに対してグロースハッカー(※1)として提案をしていくこの企画。4回目となる今回は、約1年ぶりの更新となりました。当初は「月1回更新の全6回」を予定していました。「途中で終わったら、何かあったな…と考えてください」と1回目の冒頭で述べていますが、1年ぶりとはいえ4回目が更新されますので、何もなかったと考えてください。
そして、今回から書記係として合流した住正徳です。普段は、執筆、映像制作、デザイン、コメディアンなどいろいろなことをやっています。林さんとは古い付き合いです。林さんの提案は、ふざけているようで真面目だったり、真面目なようでふざけていたり、ただふざけているだけだったり、癖のある変化球が多いです。僕の役割は林さんの球種を見極めて皆さまにお伝えすることだと思っています。ですので、今回から所々に注釈を加える方式で、林さんのプレゼンの様子をレポートしたいと思います。
第4回のお題は「DigSports」というプロジェクトです。イノラボの野崎和久さんと阿部元貴さんに、林さんがグロースハックな提案をしていきます。
※1「グロースハッカー」:製品やサービスの成長を新たな手法で加速させる人たちのこと。今回のプレゼンの冒頭で「1年たったらグロースハックって聞かなくなりましたね」と林さんが言っていた。次回から、この企画からグロースハックという単語が消える可能性も。
参加への障壁をなくすために。ぬるぬる、言い訳、見えぬ化
林:終わってしまったかと思いました。
阿部:すいません、ナマハゲのプロジェクトにかまけておりまして。今回、林さんに提案をお願いしたい「DigSports」について、開発責任者の野崎から説明を。
野崎:DigSportsは、「子どものできるを発見しよう」というコンセプトから始まった企画です。基本的には文科省が推奨している運動テストをITで測ってみようというシステムで、光学センサーを用いてスポーツ動作を測定します。ITを導入することで、運動テストに詳しい人がいなくても自動で正確にテスト結果を測れるものを目指しました。
林:先日、僕も体験させていただきました。今、住さんがやっているところ(※2)も見たので、大体どういうものか分かりました。それを踏まえて1年ぶりにお話ししたいと思います。
林:この1年間、僕は顔がでかくなる箱(※3)を作って、それで海外に行ったり。プライベートではジョギングを始めたり。だんだん、分かりやすい方向に向かっていました。そして、今日の資料はオール手描きです。
阿部:なぜスライドを手描きに?
林:イラストが多くなったので、これ全部イラストのヘロヘロな線に合わせた方がいいかなって。それで、修正しにくい資料になっています(笑)。で、次のような三つに分けて考えました。
林:まずは最初のプロット。「参加したくなる」ための方法を三つ考えました。基本、僕は運動ができないという立場から考えてしまうのですが。
林:一つ目は、単純に身体的な面白さ、言語化できない面白さを増やそうということで。
林:例えば、床をぬるぬるにする(※4)とか。ほら、中華屋でぬるぬるのお店とかあるじゃないですか。あれ、面白いですよね。
阿部:面白いですけど。
林:あとはリストバンドと効果音。海外のメーカーフェアとか出ると、光っているものには必ず子どもが寄ってくるので。シャキーンとか音が出ればさらにキャッチーです。
阿部:光っているものに寄ってくるって、虫みたいに。
林:この前DigSportsを体験させてもらっている時に、「あ、いいスコアですね!」って言ってもらえるとうれしかったので、ああいうMCって大事だなと。「おっ、いいスコア!」とか、全然いいスコアじゃなかったんですけど、言ってくれている人の気遣いを感じられたり。そういう分かりやすい面白さを増すのが、現場では大切なのではと。
阿部:確かに。運動会でも放送入りますね。「赤組、速い!」とか。
林:僕が使っている筋トレアプリ(※5)も、筋トレに時間がかかると「自分を信じて!」とか言ってくれて。
野崎:なるほど、機械に言われてもうれしいんですね。
林:いや、機械に言われると少しイラっとするんですけど(笑)。
林:最近はスポーツを憎んでないのですが、かつてスポーツが苦手で憎かった者として、他の目的があるといいのでは? って思うんですよね。みんながみんな、ナイキランの数字をアップさせたい人じゃないと思うので。「俺の目的はうどんだから」みたいな。参加する人に言い訳を残すというか。
阿部:これはスポーツじゃなくて、ワインを作りたいからやっている!
林:そうそう。俺、ワイン好きだからさぁ、みたいな。そういうのが必要なのではと。あるじゃないですか、エッチな本を買いたいわけではない。
阿部:資料なんだ! みたいな。
野崎:あくまでも仕事の一部です、という。
林:そうすることで、かつての僕のような「スポーツ憎い層」を取り込めると考えました。
林:あとは、見えないようにする。完全にこれ僕のためですけど。今、個人ジムとかありますからね。やっぱり、あれは、恥ずかしいからなのではと。
阿部:なんですかね。プライバシーの問題ですかね。
林:ジムに行けない最大の理由って、みんなすごくムキムキ(※6)だから行けないという。あと、ジョギングしている人も、みんな妙に格好いいですよね?
阿部:そうですね。みんなオシャレなウエア着ていて。
林:アメリカで「いいな」と思ったのが、結構ぷよぷよした人たちがジョギングしている。
阿部:はいはい。
林:ああいう人の目を気にしない感はうらやましい。でも、ここは日本なので一蘭形式かなと。一応、「見えぬ化」って書いておきました。
野崎:はははは! 見える化ならぬ、見えぬ化ですね。
阿部:確かに、トレーニング中を見られる恥ずかしさはありますね。
林:そうなんですよね。一生懸命走ってるのに、ふざけてるように見られてしまう人とかいますもんね。
※2「住さんがやっているところ」:書記係の住も「DigSports」を体験。身長、垂直跳び、50メートル走、ソフトボール投げ、反復横跳びを測定された。運動テストを受けただけなのに翌日以降、筋肉痛に悩まされることに。
※3「顔がでかくなる箱」:ダンボール箱、フレネルレンズ、LEDライトを使用して林さんとテクノ手芸部よしだともふみ氏が開発した。国内、海外において数々のイベントに出展し、いずれも大好評を得ている。英訳はBigfacebox。
※4「床をぬるぬるにする」:どんなプロジェクトでも林さんは常にこの提案を盛り込んでくる。今回は運動テストのシステムなので床がぬるぬるだと正確な数値を測れないのでは? と常識的には考えてしまうが、林さん的には「身体的な面白さ」の方に重点を置いている。
※5「筋トレアプリ」:健康診断で数値が悪かった林さんは、薬を飲むか運動をするかの二択を迫られて、ジョギングや筋トレを始めた。最近はふくらはぎに違和感を覚え始め、少しトレーニングを休んでいるという。
※6「ムキムキ」:筋トレを始めて以来、「僕がすごくマッチョになったら面白いと思うんですよ」とよく言っている。ボディービルの大会に出るくらいムキムキになった林さんは確かに面白いし、ぜひ実現してもらいたい。
もう我々はネットに生きている
林:次に、実際に体験するという部分の話なんですけど。今、イベントに行くと必ずフォトスポットがあって、左上の写真はこの前行ってきた小規模な音楽フェス(※7)ですけど、こんな立派な看板があってみんなその前で写真撮るんですよね。日常でも、スノー的なアプリで顔を加工してインスタ映えを気にしていたり。みんな、もうネットに生きてるというか。
阿部:ネットに生きている?
林:実際に阿部さんに会う回数よりも、ネットを通じて阿部さんと接触する回数の方が多いじゃないですか。
阿部:それはそうですね。
林:ってことは、みんなネットの世界に生きてるんです。で、イベントを企画する時にそれがネットにどう映えるかっていうのを考えないといけない。「経験を売る」とかよく言いますけど、それプラス、ネット映えしないと。むしろ、ワークショップとか楽しくなくても、ネット映えすればいいじゃないかなっていう。
阿部:ワークショップは絵が地味ですもんね。みんな真剣な顔をしていて。
林:そうなんですよ。だから、このDigSportsもネット映えする必要があるのではないか、ってことで二つ考えました。
林:DigSportsにはベストショット機能というのがあるんですよね? 一番格好いい写真をキャプチャーしてくれる。
野崎:そうなんです。今、推してる機能なんですけど、いつも説明し忘れちゃうんです(笑)。
林:そのベストショット機能はネット映えするなとは思ったんですけど、さらにシェアしやすさが必要なのではと思いました。次の画面がベストショット機能で撮られた写真なんですけど。
阿部:結構飛んでますね(笑)。
林:ええ、それをさらに加工して、かっこいい背景(※8)と合わせるとすごくシェアしたくなる。こういう機能があるとネット映えするんじゃないかなと。
野崎:大気圏突破してますね。
阿部:飛びすぎだ!
林:画像の中に、♯付きでDigSportsとか入れるのもいいと思います。クロマキーでやれば、実現できそうですし。
野崎:クロマキーを使わなくても、キネクトだと切り抜きができるんですよ。
林:そうなんですか!すごいな。
野崎:カメラからの距離が分かるんで、被験者の距離と違うものは全部消しちゃうってことができます。
林:それならすぐにできますね!
野崎:技術的には、できます(※9)。
林:もう一つ、シェアしたくなる方法として「とにかく1位にしてくれる」という仕組みを考えました。
林:年齢と体格でジャンル分けがあったんですけど、なかなか1位になれないんで。1位になれるように(※10)、なるべく狭い、属性が全てn=1になるくらいの集合にして。
阿部:それだと絶対1位になれますね。
林:練馬区出身で学生時代ボブと呼ばれていた部門で1位とか。品川区在住で視力0.2でホッピー好きとか、こういうの良いなって思ったんですけど。
阿部:これはうれしいですよね。
野崎:1位になるまで自分で絞り込みができるといいかもですね。n=15人の部門でも1位になれた、みたいな。
林:なるほど。品川区では何百位で、視力0.2でギュッと絞り込まれて、母親の旧姓(※11)とかを条件に加えると1位になる。これで、みんなシェアしたくなるはず。自分語りが好きですからね。診断ものとか。
野崎:事前にものすごく細かいアンケートを取らないとですね(笑)。
林:ちょっとね、データを作るのが大変ですね…。フェルミ推定とかでできないですかね?
野崎:品川区在住かどうか、データがないと分からないですものね。
林:例えば視力0.2の人の割合ってデータがどこかにあって、ホッピー好きっていう割合のデータもあって。そしたら、品川区の母数で絞っていけますかね?
野崎:ホッピー好きの割合が区にひも付いていれば…。
林:そうか、そうすると僕が品川区の飲み屋でホッピーの空き瓶数えるみたいなことが必要なのかな。
野崎:ははははは! ホッピー好きな人は昭和の後半生まれとか、いろいろなもので推定して、42歳、視力0.2でホッピー好きなあなたは可能性として0.2%くらいなので1位じゃないか、みたいな。
林:適当でもいいんじゃないですか!検証しようがないですから。
阿部:適当だとしても、1位って出たらうれしいからシェアしたくなりますよね。
林:24時間以内に異議申し立てがなかったら1位ってことにしちゃっても。
野崎:そこで異議が出たら、もう一つ条件を加えて本当の1位に。
林:それはすごくハッピーな感じがしますね。
野崎:ジャンルの文章が長くなる感じがしますが(笑)。
林:ブロックチェーンみたいですね。だんだん長くなっていく。ま、はやりの言葉を言っただけですけど。弱い社会みたいでいいですよね。
野崎:ユーザー、全員1位なんですもんね。
林:「俺が1位」ってサービス名でどうでしょう。
野崎:ローンチしたくなってきましたね。開発は簡単そうですし。
※7「小規模な音楽フェス」:加賀温泉郷で開催された音楽フェス。TOKYO No.1 SOULSET、TOWA TEI、マキタスポーツら、多数のアーティストが参加。林さんはここにも「顔がでかくなる箱」を持ち込み、アーティストたちが大きくなった顔の写真をSNSで拡散させていた。
※8「かっこいい背景」:林さんがかっこいと思い選んだ背景は宇宙。衛星軌道に達したロケットのような写真になってしまったことを林さんは後悔していた。
※9「技術的には、できます」:「技術的にはできるけど実際にやるかどうかは別問題」というニュアンスが「技術的には」の後の句読点から感じ取られた。
※10「1位になれるように」:林さんは「俺このマンションの中で一番みかん食べている」などと言いながら、常に1位になれるジャンルを探しているという。
※11「母親の旧姓」:条件の絞り込みの話をしているうちに、パスワードを設定する際の「秘密の質問」の話になってしまった。
データを活用してロマンのある出会いに持ち込む
林:そして、たまっていったデータをどう活用するかっていう話ですが。そこのBtoBのようなアイデアを三つ考えてきました。
林:まず、データがあるってことは、測定数値を上げるためのデータも残っているということですよね? 例えば、こうやって足を上げたら数値が良くなる、というような。
野崎:そうですね。例えば器用さが低いのであれば、投げる動作を練習しましょう、っていうアドバイスの仕方になりますね。「こうやって足を上げて」のような細かいアドバイスというよりは、トレーニングの種類を診断するような形式です。
林:いずれにしても、そういうデータがあるわけなので、それをC向けにしたらいいんじゃないかなって。会場の隅で予想屋さんのように、ああいう感じで売る。買った情報を見てみたら、「腕を大きく振る」とか割と普通のことが書いてあったり。
阿部:ま、100円ならいいだろう、っていう?
林:そうですね。で、これをガチャガチャ(※11)に入れたら絶対子ども買いますよ。回すのがカタルシスなので。それに、今の子どもって課金慣れしていますから、「あ、課金か」って。クールに。
阿部:ガチャ、いいですね
野崎:…。
林:あと、最後の診断結果に「あなたにぴったりの競技は」って3種類出ますよね。野球とか、サッカーとか。そこにマイナースポーツの団体から出稿してもらって、お金もらっているスポーツ団体は[PR]ってつけて優先的に出すっていう、グルメサイトのように。
阿部:ネイティブアドですね。
林:そう。おすすめ順っていうのは、つまりお金もらっている順っていう。
野崎:5000円キャッシュバックって書いてある…。
林:ここから申し込むとキャッシュバック、みたいな。こういうリコメンド枠をつくる。
林:最後に、自分と同じ体力の人がどこか遠くにいるという、そういうロマンに走るという。あなたの体力は、なんと何とかさんと同じです。スリジャヤワルダナプラコッテ(※12)とか全然知らない街に、自分と同じ体力の人がいるんだっていうロマン。もし万が一、それが近くの人だった場合、追いかけっこがずっと続くんですよ。体力が同じだから、楽しい時間がずっと続く。へろへろになっても続く。
阿部:なぜなら体力が同じだから、同じタイミングで疲れるし。
林:そうそう。こういうエンドレスな幸せが手に入るという。同じ体力の人で競争するやつはあると思いますが、それが恋人同士だといいですよね。
野崎:いいですね。今度のイベントで初めて披露する機能として、自分のタイプが動物で(※13)出るんですよ。
林:おお!
野崎:なので、あなたと同じ象タイプの人はこの人だ、みたいにはできますね。
林:そうですね。象と象は相性がいいみたいな。
阿部:占いのように。
野崎:象とライオンは相性が悪い。基本は体格や特徴が大きい動物と大型の動物で、小型だとかわいいラッコとか、そういうのが出るようになっていますね。
林:ゴリラは?
野崎:ゴリラも入れていましたが、自分がゴリラって言われたら嫌だっていうメンバーがいたりしたんで。
阿部:すでにあだ名がゴリとか言われていたらかわいそうですもんね。
野崎:いじめにつながるからやめてくれっていう意見も。
阿部:最近はそういうところも難しいですからね。
野崎:なので16タイプつくるまですごく大変で、7回くらいは改定しました。
林:全部象の種類でいくのも面白かも。インド象、アフリカ象、ナウマン象。
野崎:それならけんかにはならないけど…。
阿部:違いが分かりづらい(笑)。
※11「ガチャガチャ」:林さんが手がけたプロジェクトの中に、「巨大いらないものガチャガチャ」というものがある。いらない物を巨大ガチャガチャに入れて交換し合うという企画だ。大阪でのイベントでは、4日間で2400回転された。
※12「スリジャヤワルダナプラコッテ」:スリランカの首都。名称の由来は、スリ(聖なる)・ジャヤワルダナ(第2代大統領名)・プラ(街)・コッテ(元々の街の名前)。
※13「自分のタイプが動物で」:16種類の動物のうち、唯一架空の動物「ドラゴン」が含まれているという。動物占いでも唯一架空の動物「ペガサス」が入っていて、どうしても既存の動物の特徴に合わない変わった人はペガサスにした、と動物占いの開発者から聞いたことがある。ちなみに林さんの動物占いはペガサスだ。
林さんからのご提案を受けて、先日のイベントではパネルを準備して、シェアしたくなるような場所を作りました。このシリーズでついに提案が採用されました。