押忍!カイゼン道場!No.5
デイリーポータルZの林編集長と閑談
「なんでそれやるの?と聞かれると僕らは消えていなくなります」
2018/02/26
デイリーポータルZの林雄司編集長が、電通国際情報サービス(ISID)の研究開発組織・オープンイノベーションラボ(イノラボ)のプロジェクトに対してグロースハッカーとして提案をしていくこの企画。今回はイノラボのチーフプロデューサー森田浩史さんと「オープンイノベーション」について語り合います。
オープンイノベーションって何?役に立つの?将来性は?などなど、前回から書記として合流した住正徳がお伝えします。
オープンイノベーションは乙女チックな夢なのか?
阿部:先日、林さんとの雑談中に、イノラボがやっている「オープンイノベーション」と林さんのデイリーポータルZがやっていることが実は近いのではと感じました。そこで、うちの森田と林さんでオープンイノベーションについて語り合っていただこうと。
森田:林さん、よろしくお願いします。
林:はい、僕なりにオープンイノベーションの資料をつくってきました。
森田:楽しみにしています。その前に、まずイノラボの成り立ちを簡単に説明しますね。
林:そういえばイノラボができた経緯って聞いたことがなかった。連載5回目なのにすみません(笑)。
森田:イノラボができたのは2011年です。その当時、新規ビジネスを会社としてどうやってつくるべきかという課題があったのですが、そういうときって普通は「新規事業開発室」のようなものをつくって、市場調査して、そこで出てきたキーワードを重点的にビジネス化させることを考えたりしますよね。
林:そういう話は僕の周りでもよく聞きますね。
森田:でも僕はシリコンバレーでベンチャーが次々とアイデアを形にするスピード感に立ち向かうには、従来型の新規事業開発室のようなアプローチではできないだろうと。シリコンバレーと同じようなスピード感で新しいことにチャレンジしたい、ってところから考えました。
林:なるほど。
森田:そこでまずは名前が大事だと。新しいことって、既に自分たちができる状態ならそれは新しくないわけで。ということは、外部の人たちとつながって新しい価値をつくる必要がある。そこで、「オープン」という言葉を意識しました。
林:よく分かります。開いていかないと新しいことって始まらないですよね。
森田:あとは、事業開発という言葉はやめてラボにしようと。ラボは事業開発の手前にあるもの。「儲かるか」ではなく「世の中に必要か」から始めたかったので。
林:いい話ですね。ラボになった瞬間、売り上げ責任がなくなるし!
森田:ですね(笑)。最終的には売り上げにつながらないといけないんですが、そこにこだわると既存の延長線上に戻されちゃうので。そんな流れで、「オープン」と「ラボ」があって、新しいことをやるなら「イノベーション?」のような感じで、オープンイノベーションラボってなりました。「オープンイノベーション」っていうのは造語のような感じ。実は結果的につながってできた言葉なんです。
林:今やオープンイノベーションって言葉がかなり普及していますよね。
森田:意外ですね。僕は提唱者でも何でもないのですが(笑)。
林:そんな話の流れで、僕の資料を見せるのは気が引けるのですが…。
林:オープンイノベーションって、ちょっと言葉だけが先行して夢みたいな話になっているところが若干あるなと。私にぴったりな人がどこかにいるって夢を見る乙女チックな感じで。
森田:ははははは!確かにそういう空気はあるかも。
林:そう思っていたのですが、ふと、デイリーポータルZもオープンイノベーションなのではないかと思って。今、ライターが40人ほどいて、それ以外に物をつくってくれるスタッフが何人かいます。これだけのメンバーがそろえば、結構なんでもできます。
森田:まさにオープンなイノベーションじゃないですか。外部の人たちとつながって新しい価値をつくっている。僕は新しいことを生み出すには二つ必要だと思っています。一つは今まで組んだことのないような人たちと組むこと。もう一つは新しい技術シーズを見つけてくること。イノベーションは技術シーズから始まるというのはよくある話なのですが、振り返ってみると誰かとつながってから「何かやろう」と後追い的に考えるほうが面白い取り組みが多い気がします。
林:はい。なので、オープンイノベーションは乙女チックな夢じゃなかった!と考えを改めました(笑)。
ブレストに必要なものは、ズバリ甘栗
林:オープンイノベーションは、人を集めて盛り上げることが鍵だと思っています。
林:盛り上げるのは割と簡単というか、デイリーポータルZは10年以上やっているので、ライターを集めてブレストするときのノウハウがあります。
森田:この「甘栗を食べる」というのは何ですか?
林:デザイン思考の際、お菓子は必須じゃないですか。でも、あれってすごい量を食べちゃいませんか?
阿部:確かに。お菓子に夢中になっちゃいますね。
林:そう!お菓子だとおなかいっぱいになってしまう。その点、甘栗はほどよく面倒くさいので。
森田:そうか!むく作業があるから!
林:カニほど夢中にならない作業で、若干食べにくいものがいいという結論に至りました。要は間が持たないから手を動かしていたいっていう。
森田:チョコレートも包んであるものが良いですよね。開ける作業があって。
林:以前、その流れで若い編集部員が生ハム買ってきてパンに挟んでくださいって(笑)。それはさすがにダメでした。
阿部:それはもう食事ですもんね!
林:あと、今日一番お伝えしたいポイントが「検索しない」です。みんなで話しているとすぐに検索する人がいるじゃないですか。ザビエルの首元にあるやつって面白いよねって話が出たとして、それはザビエルを深掘りする企画をやりたいわけではなくて、そこから話を広げたいだけなのに、検索して「アレは、なんとかですね!」って答えを出す博士君みたいな人がいる。そうやって正解を言われてしまうと話の腰を折りますよね。全くイノベーションじゃない。
森田:正解を探しているわけではないですからね、会話の中で。
林:あとは、人集めが大事だなって思っていて。5種類考えてきました。
林:いきなり捨て案っぽくてすみません。会いに行くのがてっとり早いのですが、漠然と行くと警戒される。何しに来たのかな?何かの売り込みかな?って。あとは、飲み会という手もありますよね?
阿部:泥酔しているじゃないですか!
林:ええ。飲み会で盛り上がるのって、場を共有しているから面白いって場合が多くて。その面白さをコンテンツにしてネットで伝えようとしても、「場」が外れてしまっているので面白くない。
阿部:飲み会、減らしているって言っていましたよね?
林:最近は純粋な飲み!にしています。仕事じゃなくて酒と向かい合うような。
オープンイノベーションはある意味「出会い系」のようなもの?
林:人集めのためには「発注する」という手もありますが、それだと主従関係が生まれてしまいますよね。おかしなものが納品される可能性もあるし。
森田:オープンイノベーションって、ある意味「出会い系」みたいなところがあるじゃないですか。大企業が発注して、この日までに納品しなさい、みたいな関係性からオープンイノベーションは生まれない。
林:確かに、見ず知らずの相手とお互い探り合うあたり、出会い系的ですね。でも実際は、会いに行って名刺交換をするだけか、それともいきなりアイデアソン、ハッカソンみたいなものに参加するか。選択肢が少ない。その中間が欲しいなって思います。アイデアソンで知らない人とチームを組むのとかすごいストレスじゃないですか。
森田:本当にそう思います。ベンチャーと大企業をマッチングしますって趣旨のマッチングイベントに行くと、だいたい名刺交換の長い列があったりして。
林:結局、名刺交換している。
森田:イノラボは納得感って言葉をよく使うんですが、一緒にやりたいと思える納得感のあるストーリーが欲しいですね。そしてその前にはベースとなる信頼感が必要です。林さんと出会った例でいうと、阿部さんが紹介する人はだいたいこういう人っていうのが僕の中にはあって。
林:間に立つ人の信頼感ってありますよね。逆にあの人が紹介する人は怪しいとか(笑)。
森田:間に誰がいるか。誰と共通の友達なのかは、大事ですね。むしろそこでしか見てないかもしれません。一方で逆の視点で考えると、エッジが効いている人ほど僕たちのことを必要としていなかったりします。そういう人から一緒にやりたいって思ってもらうにはどうするのか。好かれるにはどんな服を着ればいいかな?みたいな。
林:良い相手にアプローチしてもらうためのプロフィールをアピールする。まさに出会い系的ですよね。
人を集めるための場作りも大事
林:場所をつくるのも人集めの方法だなと思っていて。
林:実はデイリーポータルZもヒカリエにコワーキングスペースをつくったことがあります。そのときの感想が「掃除が大変だ!」ってことで(笑)。
森田:ここ(※イノラボのスタジオ)もね、掃除が大変で。
林:結局、半年で撤収しました。常駐しているのはライターなので、そこで黙々と原稿を書くしかなくて。人に見せることもなかったなって(笑)。このスペースはどういう経緯で?
森田:オープンイノベーションラボって言葉にしてから、いろいろな人とつながるためにはこういう空間がないとダメだと思いまして。キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」をイメージしてつくりました。
林:よく会社に話を通したなと。その説明資料を見てみたい(笑)。このスタジオをつくるって相当なお金じゃないですか。
森田:僕の中では、やりたいことのまだ10%くらいですけど(笑)。
林:森田さんの社会人力がすごいなって。あとは例えばスナックとか、飲みの場をつくる手もあるとは思うのですが、それだと飲み過ぎて体がもたなかったり。
森田:うちも社内にコーヒー屋さんを入れたいって話がありましたが、誰がそんな免許持っているの?という話になって立ち消えました。
林:Googleも社内を見学すると、至る所にコーヒーがありますもんね。
オープンイノベーションはメディア的でイベントとの親和性が高い
林:人集めについては、軽いイベントをつくってそこに来た人と出会うのがいいかな、と最近は思っています。例えば「地味な仮装限定ハロウィン」っていうイベントをデイリーポータルZで3年やってます。普通のコスプレではなくて、地味なコスプレをしましょうという。タリーズの店員とか、カルディの店員とか。
阿部:無印の店員とか。
林:400人くらい集まって、地味に盛り上がっています。それ以外にも、ガッツポーズワークショップっていうのをやったり。
森田:ガッツポーズのワークショップですか?
林:ガッツポーズって誰でもできるようで、やってみるとうまくできない。だからガッツポーズの上手な人から習うっていう企画で。
森田:興味あるな(笑)。
林:コツは脇を締めることです。そして、拳を前に出す。
森田:なるほど。
林:ハイタッチも、手を合わせたら上に逃がすのがコツです。こういう感じで。
林:地味なハロウィンをやって思ったのが、割と参加のハードルが高くて優しくない。でも、その方が面白い人が集まることが分かりました。ハードルを上げることが最初の絞り込みになっているのかも。
森田:なるほど。優しくて楽しいだけのイベントだと人が集まらない?
林:そうなんです。デイリーポータルZが去年15周年だったので、宴会場を借りて半日以上ただ飲むだけのイベントをやったら、全然人が来なくて(笑)。テーマがないと人は集まらないなって。
阿部:ただ飲む会だと参加者同士が気まずかったりするのかな?
林:それもあるかもしれません。去年の暮れに、無人島に行くとしたら何を持って行くか?という企画で、冬の無人島に人を集めようとしたら1人しか来なくて。そこまでハードルを上げると来ないなって(笑)。
森田:ハードルの高さ設定が難しいですね。
林:来てもらうためには、事前に記事でこういうことをやりますよって見せることも大事だと思います。あとは3時間以内に終わること(笑)。そんなノウハウを使って、オープンイノベーション的に仲間を増やしたいなって思っています。
森田:デイリーポータルZはメディアだから、イベント自体もオープンイノベーションの出口になりますね。
林:それはあります。そのイベントの様子をまたメディアに持っていけますし。そういえば新聞社が夏に報じることがないので、高校野球の大会を始めたって話を聞いたことがあります。
森田:メディアとイベントはそういう関係性で成り立っていると。
阿部:しかも、それでスポンサーも集まる。
森田:イノラボもメディア的だとよくいわれるし、自分たちにもそういう意識はあります。ただ、会社からはイベントで終わっちゃったらダメだよっていわれていて。
一同:(笑)
森田:そこからさらに一歩踏み込まないと。
林:生み出したものを何かしらのプロダクトにするということですか?
森田:イノラボでは、もう少し漠然と「ディプロイ」といっています。「ディプロイ」っていうのはコンピューター用語でいうと実装するってことで。実装にはいろいろな形があって、当然お客様からお金をもらってシステムを実装する場合もあるし、その手前で仮説を社会実装するっていう場合もあります。
林:デイリーポータルZも最終的にはメディアを盛り上げて、そこでうまいことマネタイズするか、スポンサーにアピールしていきたいなって。結局、続くことが目的なので、そういう発想ですね。
森田:オープンイノベーションって非常にメディア的で、イベントとセットだったりしますね。
林:では、今後のおすすめイベント案をお伝えしておきますね。
なんでそれやるの?と聞くのは禁止
森田:デイリーポータルZってダイバーシティーというか、いろいろな人が集まっている感じですか?
林:どうだろう?いや、書いている人たちはみんな雰囲気が似ていますね。職業とか得意分野はバラバラですけど。
森田:能力的には多様性があるけど、価値観的にはつながっているというパターンですかね。イノラボもそうかもしれない。
林:デイリーポータルZの記事って、これは当たり前だけど実はこっちでもいいのでは?違うやり方があるのでは?という視点で書かれることが多いので、そういう意味で常識の拘束力がない人が多いと思います。
阿部:常識的なことばかり書かれても面白くないですもんね。
森田:よくオープンイノベーションには多様性が必要だっていいますが、その一方で、あまりに認識のギャップがあると短期間に何かをやることが難しいんですよね。
林:本当に多様過ぎると、話が通じないですもんね。なんでそれやるの?と聞かれたら困りますし。なんでそれやるの?をいわない程度の多様性ですかね。
森田:なんでそれやるの?と聞かれるパターン多いですよね。
林:多いです。でも、それを言われたら僕たち死んじゃいますよ。全否定ですから(笑)。ということはこのサイト要らなくなりますけど?っていう。
森田:林さんと去年のエイプリルフールにやったキネクトでエクセルを操作するっていうのも、僕の中では素敵な企画ですが、なんでこれやるの?と思う人もいるでしょうね。
林:それでもすごく面白いと思うし、それですごく笑ってくれる人もいるし。
森田:「ひょっとしたらこういう未来になっているかもしれないよね」っていう視点を大事にしたいですね。
林:当たり前が一つだと思うのは、人を苦しめる原因だなって思っていて。だから、なんでやるの?という人は、一つの正解をかたくなに信じているような空気を感じて怖い。
森田:そこはメディアとしてそういう立ち位置にあるという意味ですか?
林:それほど真面目に考えてなかったのですが、デイリーポータルZってそういうことだなと。やってみると意外にこれはこれでいいのでは?という。そういう意味で、オルタナティブなポータルサイトとうたっていたりします。
森田:オルタナティブっていうのは、イノラボでもよく出てくるキーワードですね。こんなふうに使ってみた、という。
阿部:ブロックチェーンとかもそうですよね。
森田:フィンテックって結構、オルタナティブに考えると面白いことが起きると思っているんですが、ブロックチェーンはまさにそうですね。
林:これからもオルタナティブな発想でオープンイノベーションしてWin-Winな関係を築いていきたいですね。なんだか何もいってない感もありますが(笑)。
森田:とりあえず、次回お会いする時は甘栗を用意しておきます(笑)。