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オープンイノベーションに必要なブランド開発No.1

事業会社のオープン・イノベーションをBXクリエイターの力で加速させる (前編)

2024/01/15

近年、スタートアップの成長支援や連携を通じて新たな価値創出を目指すオープンイノベーションが、さまざまな企業で推進されています。しかし、創業まもないスタートアップや、限られたリソースの中でプロダクト開発に注力してきたスタートアップの場合、ブランドのコアとなるステートメントが言語化しきれていないケースや、ブランド同士の関係性、エンドユーザーへの見せ方などが整理されていないケースもあります。

そのような課題を解決するのが、従来の経営視点のコンサルティングだけでなく、クリエイティブ視点で戦略を描く「クリエイティブ・コンサルティング」です。

今回は、日本固有種のサーモン(サクラマス)種苗の研究開発・生産・販売を行っている宮崎大学発スタートアップであるSmoltと、同社への出資とサポートを通じて新たな価値創造を目指すサザビーリーグの取り組みに、電通がクリエイティブ・コンサルティングを提供した事例を2回にわたって紹介。

Smoltとサザビーリーグが連携した背景にある思いとは?そして、クリエイティブ・コンサルティングによるブランド開発とは何なのか?

サザビーリーグ社長室CVC担当の植村剛直氏、Smolt代表取締役CEOの上野賢氏、電通BXCCクリエイティブディレクターの中川真仁氏に話を聞きました。

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(右から)サザビーリーグ 社長室 CVC担当 植村剛直氏/Smolt 代表取締役CEO 上野賢氏/電通 BXCC クリエイティブディレクター 中川真仁氏

株式会社Smolt

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天然では希少な存在となってしまったサクラマスというサーモンを自社で培った独自技術により、淡水と海水を経験する過程で環境への耐性など優れた個体を代々選抜し、優れたサクラマスの家系の開発に取り組んでいる。天然のサクラマスは変化に厳しい環境に適応する過程で魚体を大きく、銀色に変化させ、艷やかで美しい姿へと成長することになぞらえて、Smoltはそんなサクラマスの挑戦的な生き方を体現し、水産業の革新に挑む。

 
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オンラインストアで購入できる、本桜鱒(お刺身用)とつきみいくら  
 

半歩先のライフスタイル提案を実現すべく、100年先の食の未来をつくるスタートアップに出資

──最初に自己紹介をお願いします。

上野:Smolt代表取締役CEOの上野です。当社は2019年4月に創業した、宮崎大学発のスタートアップです。世界でも希少な循環型養殖技術を使い、日本固有種のサーモンである桜鱒の商品をお客さまにお届けするD2Cブランド事業、環境耐性の強い家系を開発し、水産業をサポートする種苗事業に取り組んでいます。

植村:サザビーリーグでCVC担当/プロジェクトマネージャーを務めている植村です。当社は50年にわたってファッションや飲食のブランドを運営している事業会社です。具体的にはロンハーマンやエストネーションなどのアパレルブランド、アフタヌーンティー・リビング、フライング・タイガーなどのライフスタイルブランド、シェイク・シャックやキハチなどの飲食ブランドを国内に展開しています。2022年4月よりスタートアップや起業家に出資を伴った事業連携を行うCVC活動を開始し、2022年9月に第1号案件としてSmoltに出資しています。

中川:電通BXCCでクリエイティブディレクターを務めている中川です。仕事の半分が広告クリエイティブ、もう半分がスタートアップや中小企業のコミュニケーション支援、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定などを通して事業を成長させるお手伝いをしています。

──今回のプロジェクトの始まりのところからお伺いしたいのですが、そもそもSmoltが資金調達を実施した経緯を教えてください。

上野:当社は創業時から「100年先もおいしい魚を楽しめる世界を実現する」というビジョンを掲げ、1〜2年かけて桜鱒の育成技術の開発に注力してきました。ようやく自社の商品が完成し販売をスタートできたタイミングで、次のステップとしてさらなる商品開発やマーケティング、販路拡大を進めたいと考えていました。ちょうどその時、サザビーリーグがCVC活動を始めるという情報をキャッチしまして。実は当社の役員が植村さんと知り合いだったので、その役員を通じてご相談したのが最初のきっかけです。

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※上野氏はオンラインでインタビューに参加

植村:私がSNSでCVC活動を始めることを投稿すると、その役員の方からすぐに連絡がありました。早かったですよね。そこから上野さんたちとコミュニケーションを重ね、数カ月後には出資が決まりました。

──出資の決め手となったポイントを教えてください。

植村:何よりもまず、社会的意義の大きい活動をされているということ。日本固有のサーモンを育て、日本人が育んできた独自の文化を後世に残すという取り組みは、食料自給率が低い日本の食産業にとって重要です。さらに将来的に起こりうるタンパク質不足に対して、世界のタンパク質の需要を支えるという観点でも非常に意義のある活動だと思いました。

さらに、Smoltが開発した「本桜鱒」に大きな可能性を感じたこともポイントです。実際に宮崎で本桜鱒を食べてみたら、すごくおいしかった。こんなにおいしい魚が、皆さんの食卓やお店に並ぶ未来を想像したら、とてもワクワクしたんです。上野さんの魚に対する深い愛情と大きな志、桜鱒のおいしさに惚れ込んだことが出資の決め手です。

──事業会社のCVCは、スタートアップへの出資サポートを通じて新規事業創出や既存事業とのシナジー創出を目指すケースが多いと思いますが、Smoltとの連携にはどのような可能性を感じたのでしょうか?

植村:サザビーリーグは「It's a beautiful day.」をスピリットとし、半歩先のライフスタイルを提案することをミッションに掲げている企業です。その精神のもと、衣食住の領域でブランド事業を展開してきましたが、社会環境が大きく変化し、ニーズの多様化も進む中で、従来の衣食住の領域にとどまらないライフスタイルの提案にチャレンジする必要があります。その意味で、先進的な技術開発によって新しい価値創造に挑むSmoltと「出資」という半歩踏み込んだ連携を行うことで、これからの時代や未来に向けた新しいライフスタイル提案を目指すことができると考えています。

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創業者のバックグラウンドから、ステートメントのヒントを引き出す

──その後、電通がプロジェクトに参加することになった経緯を教えてください。

中川:2022年に弊社のチームメンバーがスタートアップのイベントでお会いしたのが最初でしたよね。

植村:そうです。クリエイティブの力を使ってスタートアップの成長をサポートされているとお聞きして、非常に新鮮な視点で、かつ私たちのニーズにも合致したアプローチだと感じたのを覚えています。ぜひ一緒に何かできることがあればと思い、上野さんに紹介したんですよね。

上野:電通はどちらかといえば大手企業と仕事をしているイメージだったので、スタートアップ支援をしていることに驚きました。当社も桜鱒の育成技術開発やプロダクト開発しながら、マーケティング、ブランディングなどにも取り組んできましたが、なかなか自分たちでは整理しきれていないと感じる部分もあったので、ぜひ力をお借りしたいと思いました。正直、コストの部分を心配していたのですが、様々な方法をご提案いただき、僕らに寄り添ってもらえるご対応に安心しました。

──今回のプロジェクトでは、クリエイティブ視点で戦略を描く「クリエイティブ・コンサルティング」を実施したとのことですが、具体的な取り組み内容を教えてください。

中川:最初に実施したのは、Smoltのコアとなるステートメント設計です。要するに、この会社は世の中にどんな価値を提供するのか?を明示したアウトプットですね。これさえあれば、上野さんが社内外に会社のことを話しやすくなるし、何かをつくるときの羅針盤にもなるので、それをやりましょうと話をしました。

上野:そういえば、最初に僕の生い立ちや好きなことを根掘り葉掘り質問された気がします(笑)。

中川:そうです。もちろん、企業についてもお聞きするのですが、上野さんご自身のバックグラウンドを教えていただきました。「子どものころはどんな子でしたか?」「好きな音楽とか映画はありますか?」といった質問ですね。やはり創業者の強い思いから生まれたスタートアップだからこそ、上野さんのことを知りたいと思ったんです。

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上野:でも確かに、自分の生い立ちを中川さんに話していく中で、改めてSmoltの事業につながる部分を見つけたり、自分の中でも腑に落ちる発見がいっぱいあったんですよね。今振り返ると、そのプロセスがすごく大事だったと思います。

植村:Smoltは私たちが出資をする前から、写真やコピーライティング、デザインなど一つ一つのアウトプットがよく考えられている印象を持っていました。ただ、それでもブランド運営の視点でよく見ると、個別最適になっている部分や、ブランドという大きな枠組みの中で線がきれいにつながっていない部分もあると感じていました。

もちろん、上野さんはサクラマスの研究に全身全霊をかけてきた方ですから、ブランディングやクリエイティブの部分は分からないなりに何回も試行錯誤しながら肌感でやってきたわけです。一方で、今後さらなる成長を目指していく中で、そのやり方には限界があるし、改善しなければならない。

だからこそ、電通の皆さんに力をお借りしたいと思いましたし、実際にいただいたアウトプットを見ると「そうそう、そういうことだよね」と納得できる仕上がりでした。Smoltとして正しいだけでなく、われわれが読むと上野さんのバックグラウンドにある思いも言葉に立ち現れていることが分かる。さすがだなと思いましたね。

中川:バックグラウンドをお聞きしなくても、企業の情報だけでコピー自体は書けるんです。でも、本当に100%合っているのか、間違っている部分はないのか、分からないまま出すことになるんですよね。ステートメントは、なんとなく良いものではなく、一つも違和感がないものにしなければなりません。そのためには、創業者のことを深く知るというプロセスがとても重要なんです。

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植村:それから、Smoltの現状と将来を見据えたブランドアーキテクチャ開発もしていただきましたよね。

中川:はい。コーポレートブランドとしてのSmolt、D2CブランドのFISH FARM SAKURA、商品ブランドとしての本桜鱒など、各ブランドの位置付けや人格を整理する作業を皆さんと一緒に進めました。

植村:スタートアップの初期段階でコーポレートブランドとプロダクトブランドをしっかり整理できているケースは珍しいと思います。成長する過程でブランドが増えたり役割が変わったりして、気がつくとぐちゃぐちゃになっていることもありますよね。

中川:そうですね。創業者は誰よりもブランドのことを考えていると思いますが、それが全てきれいに整理されているとは限りません。今回はFigmaという共同作業ができるデザインツールを使って、今あるブランドを整理したり、ネーミングを考えたり、各ブランドの関係性や役割をひもづけたりしました。

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上野:すごく良い体験でした。

中川:実際に図にしてみることで発見できたことも多かったですよね。

植村:そうですね。「このブランドってどういう解釈なんだっけ?」「ここが抜けているよね」みたいな課題が見えてきたこともありました。これを第三者の立場で中川さんチームがサポートしてくれたことも大きかったと思います。上野さんと私だけだと、多少は体系化されたかもしれませんが、そこまで整理しきれなかったと思います。

(後編に続く)

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電通 BXクリエーティブ・センター:contact@dentsu-bxcr.com
BXクリエーティブ・センター Webサイト:https://dentsu-bxcr.com/
 
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