澤本嘉光✕佐々木康晴「『正しい』よりも、予測のつかないアイデアを!」
2017/09/30
広告クリエーティブの領域が、広告表現からデジタル、PR、そして事業開発まで広がっている。いま、クライアントが広告クリエーターに期待する役割はどう変わっているのか。クリエーターはその期待にどう応えればいいのか。電通でクリエーティブの最前線を走り続ける2人に聞いた。
クリエーターの“使いどころ”が変わってきた
──今年佐々木さんは、カンヌライオンズで「Seed Creativity」をテーマに講演しました。次世代のクリエーティビティーということですが、どんな内容ですか?
佐々木:そんなに新しい概念ではなくて、クライアントが商品やサービスを構想する段階からクリエーターが参加できれば、商品そのものもそうですが、最終的なクリエーティブ・アウトプットがもっと面白くなるという話です。
例えばいま電気自動車を発売するとします。その時に必要なのは、電気自動車のよさを伝える広告よりも、電気自動車をどう位置づけたら世の中に必要とされるかを考えることだったり、充電できる場所が少ない状況でみんなが助け合える仕組みを作ることだったりします。そのためには、開発の初期段階から相談してもらえた方がいいわけです。メーカーは技術発想、僕らはユーザー発想で考えて、その掛け合わせでいいサービスを生み出せる。
ビジネスの上流から参加するといっても、急に僕らが数字を操ってコンサルティングのまねごとをするというのではないんです。ユーザーの持つ感覚について、僕らは一番詳しいはずなので、それを生かしてもっと貢献できるということです。
澤本:その話は、ここ数年僕らの周りで起こっていることの本質ですよね。佐藤可士和さんが以前から実践しているように、経営とクリエーティブが隣(近い距離)にいて補完し合うと、アウトプットがすごくよくなる。要は「あなた(経営者)の考えている商品は、こうすればユーザーから見てもっと“いい感じ”になりますよ」と言い続けていくということ。それを商品の根っこからやっていくと、結果的に、最後の広告表現も変わっていきます。「いい感じ」というと相当いい加減に見えると思うので(笑)、文字化するときちんと伝わるかどうかが不安ですが。
今年、電通からアートディレクターの戸田宏一郎氏が独立しましたが、彼もそこに需要があることに気づいた一人です。表現の手前の部分を考えていくことが、クリエーターの役割の一つになっていくでしょうね。
これまでと同じことをやっていては、時代とずれてしまう
──コピーライターやデザイナーからその段階に進むために、何が必要ですか?
佐々木:まずは、いま普通に暮らしている人たちが、社会の何に興味を持ち、どこで泣いて笑うのか、好奇心を持って世の中の変化を知ることに尽きます。
昔から広告クリエーターに求められてきた素質ですが、人々の変化は思ったよりも激しくなっている。女子高生があっという間に自分のスマホで動画を編集して発信するようになっていますし。情報の受け取りかたや共有の仕方が変化しているのに、そこを考慮せずにいきなり従来の表現手法に使うコピーやコンテを書きはじめると、世の中とずれる可能性があります。それから、僕らはもっとマーケットのデータを使いこなした方がいい。
先ほど澤本さんが言っていたような、先輩方の“いい感じ”という肌感覚の中には、実はたくさんの経験を通じて得たマーケットインサイトが入っていたのだと思います。普通の人がその域に達するのは大変ですが、今はデータから発想し、説得の材料としてデータを使うこともできる。データを味方にすることで、偉大な先輩方の領域に入りやすくなっています。
澤本:表現でしかものが動かせないと思われていた時と比べて、「クリエーター」の言葉の含む概念は広がりましたよね。どんな分野でもアイデアを使ってものを動かす人は全てクリエーターなんだと。
カンヌの拡大が典型的な例です。ただその中で、コピーライターやCMプランナーなど、表現に特化した人も昔通り「クリエーター」と呼ぶから、広義と狭義のクリエーターがごっちゃに議論されて、難しいとよく感じるところです。僕がいつも言うのは、広い意味のクリエーティブ(アイデアを使ってものを動かす)はもちろん大事、でもその人の得意分野がないと仕事が振りづらいし、いい制作物や結果を期待されないよ、ということです。
佐々木:専門性は絶対に必要ですよね。その専門性も、デジタル、PRなど以前よりも広がりました。どこか深く根づいたものがあって初めて、横への広がりが生まれるというのは、コピーライター出身の僕自身も経験していることです。
コピーライターとしてはへっぽこでしたが、その視点があったからこそ、デジタルの領域に行った時に、あれもこれもできるじゃないかとアイデアが生まれた。だから、若手には「二つの分野を深く経験してみたら?」と言い続けています。
クリエーターに求められるのは、「化ける」アイデア
澤本:正しいディレクションは、ストラテジストやコンサルタントの方でも、セオリーに従ってやっていけばできると思うんです。さらにその先にどのくらい「正しくないけど新しい」要素を入れられるかが、真の「クリエーティブ」なんじゃないか?と思っているんですよ。
全てが正しくて、品行方正なキャンペーンは、結果は出ても、「化ける」ものにはなりません。そこをあえて一部を異質にして化けさせるのがプロだと思っています。機械ではなく、人間だからできることでもあります。
僕たちはクライアントから「魔法をかけて」とお願いされているようなものだと思うんです。魔法はある種個人の能力によるもので、それは何かに特化しないと出てこないから、コピーなど何かしらのプロであることが大事、という先程の話に戻っていくんです。
佐々木:数値化や計算が不可能な要素をいかにつくるかですよね。今はデジタルで目先の数字が見える分、計算可能な範囲の中での最大効率化に走りやすくなっています。
PDCAを回して数字を上げなきゃと作り手が不安に感じている空気もある。その中で“数値化はできないがこれは面白くなる!”という案を、どう納得してもらうかは難しいのですが、デジタルは決して表現をつまらなくする道具ではありません。僕は、表現の可能性を無限に増やすものだと信じています。
澤本:数値を全部計測できる、全体が計算式になったようなキャンペーンは増えていますよね。
一方で面白いのは、そういう計算式の世界を極めたスタートアップ系の人たちから、「とにかくクリエーティブなアイデアがほしい」と注文が来ることです。正しいアイデアは全部自分たちで考えられるから、自分たちが思いつかないようなものをくれ、と。そこに一種の「答え」があるんじゃないでしょうか。
若い人には「もやもや」するより「ガツガツ」してほしい
──どうすればそこまで突き抜けられるのか、進む方向に悩む若手クリエーターは多くいます。お二人からアドバイスはありますか。
澤本:繰り返しになるけれど、若い人たちはまず自分がどこに特化していきたいのか意思を持っていた方がいい。コピーライターなのか、映像なのか、PRなのか。
賭けですが、それは昔から同じことです。全部に張るより一つに賭けて伸ばす。そこでは人よりも明らかに強いと言える人間になる。全部そこそこにできる人は、突出しないで終わってしまう可能性があるので。でも重宝はされると思うので、その重宝される感じを目標にするならいいと思います。
僕自身は、どこかで尖ることで自分を確立したいし、そのおかげで全体キャンペーンを引っ張れるようになる存在がいいなと思うだけです。自分は映像でやるんだ!と決めてうるさいくらい言って、それなりに真実性があれば、周りもじゃあ映像の仕事はアイツに振ってみようかとなりますから。人より何が優れているか、に限る気がします。
佐々木:迷っていると、結局僕らから見ると、みんな同じに見えてしまうんですよね。もやもやと迷っているなら、とにかくガツガツしてほしい。ガツガツのやり方のひとつは、ダメだと思っても一つの穴を掘り続けることです。
もうひとつは、手薄なところを探してチャレンジすること。発見してもらいやすいように、もっと手を高く挙げて意思表示した方がいいと思います。
澤本:運動神経みたいな話だと思うんです。広告を運動に例えると、50人のクラスの中に運動神経のいい人はだいたい10人くらいいるでしょう。そういう人は、野球の代わりにサッカーをやらせてもうまい。特殊なジャンルとは別に、全体の運動神経ってありますから。広告会社にいる人は、ある程度広告の運動神経がいい人が集まっているはずなので、後は、伝え方の問題なんじゃないかと。
こういう話をしていると現場のことを知らずにと思われるかもしれないけど、打ち合わせの場でもよく感じることなんです。今の若手の中には、ネットで拾った猫の写真の横に2行ぐらい説明を書いて、「アイデアです」と持ってくる人もいます。これでウェブコンテンツにもテレビCMにも全部なると言うけれど、じゃあ誰がそれをCMにするの?と。CM単体としては商品への落とし込みが全くできてない。おそらく元々のモチベーションの違いで、CMのセリフも演出もできれば自分で全部やって、自分の考えた映像を作りたい!と思っているか、元の案が自分ならそれで満足、あとは誰かがやってくれる、と思ってくれるかですね。
その分野については自分で全部やれてしまうのがプロということで、そういう人が必要だと思いますが、減っていると思う。ある分野のプロだけど全体もきちんと考えられる、が重要なんじゃないかなと思います。打ち合わせに、「今回自分は全部CMだけでアイデア考えました!」とコンテだけを持ってくる人がいても全然いい。商品への落とし込みまで書き込まれたCM案の方が、結果的に他メディアへのアイデアの広がりも出るはずです。ある部分で突き詰めて考えている人のほうが、アイデアもその人自身も化けると思います。
佐々木:「コアアイデア」という名の薄いものが集まりますよね(笑)。デジタルの領域でも、幅広くバズりそうな薄い案を考えるのと、毎日使われるためのアプリに必要なUIや機能を全部書きだした濃い案を考えるのでは、その後の伸びが全く違います。
澤本:先程の「クライアントに対して僕らは化ける案を出すべき」という話と同じですよね。若手にとって僕らはプレゼンの相手。クライアントも僕らも、自分たちからは出てこない、予測のつかないアイデアを提案されるのが一番うれしいんですから。
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