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イノベーションは管理からではなく、対話から生まれます

対話のないビジネスはなぜ滅びるのか №4

  • 江上 広行

2017/11/09

イノベーションは管理からではなく、対話から生まれます

前回は顧客との対話について言及しましたが、今回は組織内の対話について触れたいと思います。つまり、あなたにとって最も身近な同僚や上司・部下との対話の在り方についてです。

本コラムは三つのパートで構成されています。

■組織構造のパラダイムが変わろうとしている
■ホラクラシー経営って知ってますか?
■あなたから対話を始めよう

組織構造のパラダイムが変わろうとしている

組織内の対話を扱うに当たって、組織構造のパラダイムが今日、歴史的な変容期を迎えていることに触れておきたいと思います。

これまでの日本の企業、行政機関、学校、NPOなど多くの組織は上から下へと指示・命令が伝達されるという中央集権でのヒエラルキー構造によって支配されてきました。

つまり、トップが最高レベルの意思決定を行い、それに従った事業計画がつくられ、それが部門や機能ごとに詳細化されていく。そして、それを中央のコントロールセンターが管理できるようにするためのKPI(Key Performance Indicator 重要業績評価指標)が策定され、PDCAを回していくという皆さんが慣れ親しんだスタイルです。

しかし、VUCA※の時代に突入してこのヒエラルキー構造が、機能不全を起こし始めています。経営者など特定の権威を持つものだけが行う意思決定が、市場や社会の変化のスピードや複雑さについていけなくなっているのです。

※VUCA:「VUCA(ブーカ)」とは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、 Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとった造語

時代は、その社会に必要とされる組織形態を要請します。

複雑系に関する先駆的な研究者、ウィリアム・ロス・アシュビーは「複雑な環境に対応することができるシステムとは、それと同じだけ複雑なシステムである」と説きました。これを「アシュビーの法則」といいます。

今日の多様で複雑なVUCAの時代、論理的な分析や、数値化で表現される情報を伝達・共有するだけの左脳的なコミュニケーションでは複雑な問題に対応できません。組織に必要とされることは、多様な価値観が存在するという認識、そして、あいまいさや感性を受け入れる右脳的な思考、さらにそれらが摩擦を起こしながらも融合していくプロセスとしての「対話」です

このような対話による創発が促される組織はヒエラルキー型とは大きく異なります。分散化・分権化が進展しているため、意思決定は顧客やマーケットに近い現場の対話によって行われます。

経営者に求められる役割は、従業員をはじめとする多様なステークホルダーへのメッセージの発信と彼らとの対話です。それが分散化・分権化を行いながらも組織が一貫性を持ってバラバラにものにならないための要(かなめ)の役割を果たすのです。つまり、経営者の役割は意思決定をすることから、コミュニケーションをつかさどるシンボルへと変容します。

このような分権経営のスタイルは決して古いものではありません。米国のスリーエムや、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、20世紀の前半から現場に意思決定を委ねる分権経営の手法でイノベーション体質を組織に根付かせ、長期間にわたり好業績を持続させています。

また、日本の京セラに代表されるアメーバ経営も分権・分散型の組織マネジメントとして有名です。これらの分権経営に共通することは、現場であいまいさや感性を許容する「対話」がシステムの中に取り込まれていることです。

ホラクラシー経営って知ってますか?

21世紀に入りさらに、分権経営が発展した形態として、ホラクラシー経営といわれる経営スタイルが注目されています。ホラクラシー経営とは、組織の中に管理のための階層そのものさえつくらないという分散型の経営スタイルのことをいいます。

ホラクラシーの由来であるホロンとは部分と全体は同一であるという意味であり、組織の中のどの部分を切り取っても全体を表すという、生き物のような存在としての経営スタイルであるということです。つまり、全員が自分ごととして機能するシステムとして、組織が運営されているのです。

ホラクラシー経営を実践している事例としては、米国のザッポスやAirbnbが有名ですが、日本での実践事例としては、不動産ソリューションを提供するダイヤモンドメディアがよく取り上げられています。経営情報は全てオープン、社長や役員は選挙で決める、経費は自由裁量、従業員の給与は自分たちで話し合って決める、出退勤は自由というユニークな経営手法がよく話題になります。

代表の武井浩三さんとは私も親しくさせていただいていますが、この会社の様子を見ていると、現場での対話をベースに、自然な形で現場での最適な意思決定と実行が行われていっているという印象を受けます。会議や報告などがなくても現場が自然体に、チャットなどでワイワイガヤガヤやっているだけでいろんなことが決まっていくという感じです。

これを見ていると、イノベーションは権威によるルールやコントロールによって創り出されるものではないということを本当に実感させられます。

ホラクラシー経営では、全体と部分が一体となる。機能別のタテ割り区分は存在しない

あなたから対話を始めよう

さて、あなたが所属している組織では、伝統的な中央集権でのヒエラルキー構造がいまだに残存しており、現場の対話によって組織を変革していくことなどとても難しいというような、あきらめに似た感想を持っているかもしれません。

しかし、対話というものは、組織のどこからでも始めることができ、どこからであっても波及していく起点となり得るものであるということを忘れないでほしいのです。このコラムで紹介しているどの事例も、どこかの誰かによる対話から始まったことに違いないわけですから。

本コラムの筆者、江上広行氏が金融業界におけるパラダイムシフトを「対話」の中から引き起こすさまを描いたのが、7月に刊行された書籍『対話する銀行〜現場のリーダーが描く未来の金融』です。「対話」されるテーマは「リーダーシップ」や「分権経営」「貨幣の本質」など盛りだくさん、金融業界に関係がない方も、ぜひ手に取ってみてください。