TANTEKI -新しすぎるアイデアが、伝わる。加速する-No.1
無関心から「ちょっと聞いてみようかな」に変化させる方法
2017/11/29
はじめまして、コピーライターの鈴木契です。「TANTEKI(タンテキ)」というサービスを担当しています。TANTEKIは、スタートアップや大手企業の事業開発部門を対象とし、「伝えたい事」を「伝わる形」にデザインするサービスです。
本コラムでは、サービスの紹介と「どのように伝わる形にするのか」についてお話しします。デザインのパートについては、相棒であるアートディレクターの佐山太一君に執筆してもらいました。
※本記事は、500STARTUPS JAPANによる投資先ブランディング勉強会で行ったTANTEKIによる講演内容をもとにしています。
【目次】
▼伝わらない理由は、「情報の下ごしらえ」ができていないから
▼「知らんがな」から「ちょっと聞いてみようかな」に変化させる方法
▼「情報の下ごしらえ」についての事例を紹介します
▼下ごしらえで、デザインも効率的に機能します
▼伝わる要素を発見・抽出。コミュニケーションコンセプトを端的に!
伝わらない理由は、「情報の下ごしらえ」ができていないから
まず、こちらの画像。WEFABRIK(ウィファブリック)というスタートアップ企業の事業計画書の表紙です。
「地球規模で何かやるんだ…」
「意識高い系のスタートアップ」
「自分とは関係なさそう」
あらかた、こんな感想を持たれたのではないでしょうか。
まだ世の中に出ていないモノやサービスを作ろうとするスタートアップ企業。その多くが、事業のアイデアやビジネスが新しすぎて伝わらない、思いが熱すぎて伝わらない、という課題を抱えています。
この課題に電通が広告で培ってきた伝える力を使えないか。ここから、スタートアップ支援の新規事業「TANTEKI」はスタートしました。お手伝いするのは、ブランディングやPRなどよりも前の段階、事業の初期のフェーズで伝えるべきことを発見・整理する、つまり「情報の下ごしらえ」をする部分です。
必ずしもメディア露出や広告などは前提にしていませんし、そのまま使えるクリエーティブを提供するわけではありません。TANTEKIが支援するのは、スタートアップの事業のビジネスやアイデアを「伝わる形にする」、コミュニケーションのプロトタイピングです。しかし…
そもそも、ほとんどの企業は「情報の下ごしらえ」ができていません。
実は、これってスタートアップに限らず大企業でもいえることです。通常われわれが制作している広告では、膨大な資料を読み込んで企画に落とし込みます。膨大な情報の中から本当に伝えるべきことを抽出すること、ここが実は一番重要で、大変な作業なのです。
新しい事業を作るには、事業に必要なことを余すことなく考える必要がありますが、伝える場合はその中からポイントを濃縮し端的な「コミュニケーションコンセプト」を決めます。これが決まれば、統一したメッセージを打ち出せますし、必要に応じて広げることもできます。しかし、端的にするとは単に情報をシンプルにすることではありません。「伝わる」ということについて改めて考えてみましょう。
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「知らんがな」から「ちょっと聞いてみようかな」に変化させる方法
まず「伝わる」とは、「伝えた相手の気持ちがA→Bに変化すること」だと言い換えられます。
相手の気持ちが変わるという結果が重要なのですが、これが難しい。というのも、
ほとんどの人が相手の話に対して「知らんがな」と心の中で思っているからです。
無関心といってもいいかもしれません。
たいていのスタートアップの皆さまの企画書の、「世界をよくしたい」という熱い思いも「知らんがな」。革新的なサービスという説明も「知らんがな」。
「伝える」というゴールを達成するには、この「知らんがな」という、かたくなな心に向き合わなければいけません。そのために、自分の中に「伝えたい人」と「知らんがなの人」を作って、「伝えたい人」の考えに対して、「知らんがなの人」からのツッコミを繰り返し受け、情報を磨いていくことが大切です。このプロセスを繰り返していると、「知らんがなの人」が「ちょっと聞いてもいいかな」と心を開くポイントが見つかります。
しかし、全部を伝えようと思ってはいけません。「ここまで伝わったら勝ち」という勝利条件を決めるのです。
正月に親戚が集まる中、おじいちゃんに「仕事どう?」と聞かれることがあるでしょう。その時なんと答えますか? 私は「○○という芸能人に会ったよ!」と返します。“広告クリエーティブの良しあし””岐路に立つ広告業界の現状”などは、相手にとって「知らんがな」の情報なので伝えません。「自分が元気でがんばっている」ということが伝わればいいと割り切り、そのための答えを選ぶのです。
このように、どこまで伝えれば勝ちかを定めれば後の作業は明確、スピーディーになります。
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「情報の下ごしらえ」についての事例を紹介します
さて、冒頭の地球の画像の事業計画書は、TANTEKIのクライアントであるWEFABRIKのものでした。相談を受けたタイミングでは、まだサービスができあがっていなかったので、生まれていないサービスのための「情報の下ごしらえ」をする必要がありました。
そこで、社長の福屋さんとお話をしました。どういうサービスなのか、なぜ始めようと思ったのか、客観的に話を聞いてみることにしたのです。福屋さんのバックグラウンドや動機、サービスシステム、顧客像などをついて掘り下げて話を聞き、情報の洗い出しを行いました。すると、彼の動機に
服の商社に勤めていた時に、大量の生地が使われずに捨てられていたのを見た
という経験が大きく影響していることが分かりました。ここが情報を抽出したポイントとなり、
「生地が生かされてほしい」という強い想いが伝わればよい
という勝利条件を決めました。結果、それを軸にウェブサイト、ムービーなどが展開されることになりました。
コミュニケーションコンセプトの段階では、ターゲットに対して、ここまで伝わればいいという割り切りができればいいのです。そして事業のフェーズが変われば、その割り切りの内容を更新していきます。
ではADの佐山君にバトンタッチして、デザインについて解説します。
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下ごしらえで、デザインも効率的に機能します
ここからは、わたくしアートディレクターの佐山太一がお話しします。
実は、デザインにも「知らんがな」を防ぐ効果があるのです。先ほど紹介したWEFABRIKの事例では、背景に生地素材を使っています。最初の地球のビジュアルを捨て、生地の画像を選択したのが「知らんがな」を防ぐデザインです。
デザインも情報と同じくどう機能させるかの目的設定がとても大事です。 「かっこいい」とか「ださくないこと」とか、見た目だけの問題になりがちですが、 リソースが不足しがちなスタートアップでは、全方位的にデザインを施すのはとても難しいです。下ごしらえ(=目的や伝えたいことを定義)した上で効率的に機能するデザインが武器になると思います。
デザイン武装の例を紹介しましょう。Warrantee Now(ワランティナウ)というスマホから簡単に入れる保険サービスです。2017年7月に「スマホアプリで即時保険加入が可能に」というプレスリリースを配信しましたが、この時点ではデモもなく、どこまで簡単になるか分からなかったのです。
そこで、「簡単さ」を伝えるためのデザインとして、チェックマークを提案しました。UIデザインとして、チェックすれば保険に入会できる、保険に入っているモノはチェックマークがつく、などのイメージです。
このチェックマークが、サービスが一番輝く瞬間=保険をかける瞬間にハイライトされ、UI/UXが一気通貫することでサービスの本質が伝わりやすくなります。簡単さの象徴としたチェックマークの提案は、現在もクライアントにフル活用いただいています。
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伝わる要素を発見・抽出。コミュニケーションコンセプトを端的に!
ここからは、また鈴木契がお届けします。
さて「情報の下ごしらえ」は、PRやブランディングが必要になったタイミングでもいいのではないか、と感じる方もいるでしょう。あえて手前の段階にしているのは、伝える要素を抽出・凝縮する作業をしておくことで、伝える視点から事業を磨いていくことができるからです。
これを私は「パン理論」と呼んでいます。良いパンは生地においしくなる要素がつまっているから、そのままでもおいしい。しかし、生地の段階で要素をつめこめなかったら、焼いた後でジャムを塗りたくって味を整えるようになります。これでは費用も時間もかかります。
「情報の下ごしらえ」であるコミュニケーションコンセプトを端的にできれば、それを強く打ち出すフラッグシップ事業も見えてきます。
なお、この段階でのコミュニケーションコンセプトを、コミュニケーションのプロトタイピングとして位置づけているのは、スタートアップの事業は移り変わり、生まれ変わっていくものだからです。事業を作ること、事業を伝えることを行き来しながら成長していきます。
この段階では、作り込みよりも濃縮し端的にすることが重要です。伝えるべきことが変わったとしても、端的にしたコンセプトが手元にあれば、それを伝えるための手法を考えればいいだけです。そうすれば、その後に必要なブランディングやPRも加速するでしょう。
スタートアップの方や大企業の事業開発を担当されている方で、TANTEKIにご興味を持たれたら、ぜひご一報ください。