TANTEKI -新しすぎるアイデアが、伝わる。加速する-No.2
「〇〇過ぎて伝わらない!」を、伝わる形にする方法
2019/03/06
コピーライターの鈴木契です。「TANTEKI(タンテキ)」という、企業の「伝えたいこと」を「伝わる形」にデザインするサービスを担当しています。
TANTEKIを紹介した2017年のコラム“無関心から「ちょっと聞いてみようかな」に変化させる方法”を公開してから、多くのクライアントにお声がけいただきました。
そして約100社のスタートアップや事業開発担当者のお悩みを聞く中で、「自社のサービスや技術の良さが伝わらない」という悩みにはいくつかの定番パターンがあることが見えてきました。今回は、最近特に感じる3パターンの「お悩み」に答えます。
※本記事は、ビヨンドネクストベンチャーズによるアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO」で行ったTANTEKIによるセミナーを基にしています。
【目次】
▼「これだけ伝われば、ひとまずOK」を探す
▼お悩み1 思いが熱過ぎて、伝わらない
▼お悩み2 技術が難し過ぎて、伝わらない
▼お悩み3 早合点され過ぎて、伝わらない
▼まとめ:最初に伝えるべきメッセージが固まれば、どんな状況にも対応できる
「これだけ伝われば、ひとまずOK」を探す
TANTEKIとは、クライアントのビジネスを誰にでも伝わりやすい「端的」な形へとデザインする、いわばコミュニケーションをプロトタイピングするサービスです。詳しくはTANTEKIの公式サイトをご覧ください。
さて、「伝わるコミュニケーション」とはどんなものでしょうか?
さっそくですが、今回のコラムは、この図だけ覚えていただければ大丈夫です。
コミュニケーションにおいて「伝える」とは、上の図の通り、
ある目的のために、Aという気持ちをBという気持ちに変える
ということです。
- 誰に伝えたいのか?
- その相手にどう思ってほしいのか?
- その相手は今のところどう思っているのか?
広告コミュニケーションでは定石ですが、TANTEKIではまず上記のような要素を「整理」することから始めます。「誰にどう思ってもらえれば成功なのか」を明確にしたのち、「どうやって変えるのか?」(=アイデア。上図の「?」の部分)に進みます。
伝える上でもう一つ大事なのが、欲張り過ぎないことです。伝える側からすると、どうしても
- このサービスはこんなに画期的で、
- こんなすごい技術を使っていて、
- こんな意義がある
ということを全部伝えたい。でも、聞く側からしてみれば、そんなことは「知らんがな」という、大きなギャップがあります(2017年のコラム参照)。「全部伝わってほしい」という目的までは、ちょっと距離が遠過ぎるのです。
そこでどうするかというと、「これだけ伝われば、ひとまずOK」という勝利条件を設定します。
よく漫才師が「今日は名前だけでも覚えて帰っていただければ!」って言いますよね。名前だけ覚えればいいと言われると、聞く側もガードが下がって「聞く態勢」になります。
プレゼンの場でも、「今日は、ここだけ覚えて帰っていただけるとうれしいです」と一言言うだけで、聞く側は受け入れやすくなるでしょう。
ブランドをつくるというのは、実はこの積み重ねです。皆さんの新し過ぎるサービスや技術に対して、誰もが完全に「知らんがな」という状態から、「今回はこれだけ伝える」というコミュニケーションを積み重ねて、相手の気持ちを少しずつ変えていきます。
ここからは「伝わらない」お悩みを見ていきましょう。
お悩み1 思いが熱過ぎて、伝わらない
スタートアップの企画書やプレゼン資料のあるあるネタが、「地球が出てくる」というものです。
●WEFABRIK(ウィファブリック)の場合
上の画像は、WEFABRIK(ウィファブリック)というスタートアップの事業計画書の表紙です。分かりやすい例なので、紹介します。
この企画書は、廃棄されるような布や服の在庫をBtoBで売買できる、繊維・アパレル業界のフリマサイト「SMASELL」(スマセル)を紹介したものです。もちろん、布が捨てられず再利用されれば最終的に地球のためにはなるのですが、ちょっとそこまで伝えるのは距離が遠過ぎます。この「私たちは地球を救います!」的な表紙を見た人は「熱っ!」となってしまいます。
筆者が社長にSMASELLへの思いをヒアリングしたところ、「繊維商社に勤めていたとき、倉庫にうずたかく積まれた廃棄される生地を見て、なんとか生かしたいと感じた」というエピソードが聞けました。
そこで、この社長の思いを中心に据え、「ここまで伝わればOK」という整理をして、筆者が書いたコピーが以下のものです。
「どういう技術なのか」「何が画期的なのか」「最終的にどうしたいのか」など、言えていないことはたくさんあります。でも、WEFABRIKの生地への思いが伝われば、まずは良し。投資家やアパレル業界の関係者に「この人は生地への強い思いがあるな」「簡単にはやめないだろうな」と思わせることに注力しました。
熱過ぎて食べられないものを、食べやすい温度まで下げたという事例でした。
お悩み2 技術が難し過ぎて、伝わらない
これもスタートアップあるあるですが、説明が「論文調」になってしまっている資料やプレゼンをよく見ます。「正しさを証明しよう」としてしまっているパターンです。
「伝える」ためには、以下の整理が必要でした。
- 誰に、どんな気持ちになってもらいたいのか?
技術的な正しさを証明したところで、相手はどんな気持ちになるのか?目的を達成できるのか?ということです。
技術が難し過ぎる事例を二つ見てみましょう。
●MOTION LIB(モーションリブ)の場合
MOTION LIB(モーションリブ)というスタートアップでは、「Real-Haptics technology」という技術を開発しています。どんなものかというと
遠く離れたものの硬さと感触が分かるテクノロジー
これだけだとピンと来ませんね。そこで整理を行い、「技術そのもの」ではなく技術の「画期性」を伝えようという目的設定をしました。画期性を伝えるには、伝える順番も重要です。
- A「実は今のロボット技術では、お寿司やケーキといった柔らかいものを壊さずにちょうどいい力加減でつかむことさえできない」
- B「Real-Hapticsを使えばそれができる」
いきなりBを実現する技術を詳細に伝えても画期性は伝わらないので、まず先にAを伝えることで、Bが伝わりやすくなります。
「技術的にどうすごいのかは分からないが、そういえばこの技術必要だな」と思ってもらえれば、まずは成功という整理をしました。
そしてこのAとBをまとめて、「世界に、やさしいチカラを。」というキャッチコピーを付け、映像をつくりました。
結果、開発者の先生から「このビデオを見せてから説明すると、めちゃくちゃ楽です」と言っていただけました。幅広い可能性がある技術でも、一番伝えたいことを“端的”に伝えられていれば、あとは相手によって技術的な話をしてもいいし、市場の可能性の話をしてもいいし、話す内容を変えていけばいいので便利です。
●AdipoSeeds(アディポシーズ)の場合
AdipoSeeds(アディポシーズ)というスタートアップは、
iPS細胞ではなく、いわゆる間葉系の幹細胞から血小板をつくれる
という技術を持っています。これも難しいですよね。そこでやはり「誰に、どこまで分かってほしいですか?」という整理を行いました。
ヒアリングすると、「iPS細胞のことをちょっと知っている人に、iPS細胞との違いを言いたい」ということだったので、その条件に合うようにミッションステートメントをつくりました。
・脂肪から血小板をつくり、あたらしい血液の流れを創る
・高齢化社会とは血液不足社会です。高齢化とは血液が必要な世代が増えること。高齢化とは献血する若者が減ること
まず、ターゲットに「血小板は足りなくなる」ということを知ってもらいます。血小板の重要性を述べ、その上で、AdipoSeedsの技術とiPS細胞との違いを伝えます。
AdipoSeedsは、間葉系幹細胞から、複雑でコストのかかる遺伝子導入をせずに、血小板を培養できる画期的な技術を開発
これは「iPS細胞のことをちょっと知っている人」に「iPS細胞とは違うんだ」と思ってもらうための文章です。皆さんよく「分かりやすい方がいい」と言いますが、「誰にとって分かりやすいのか?」は考えた方がいいでしょう。届けたい相手のリテラシーによっては、このケースのように専門用語を使った方が「分かりやすい」こともあるはずです。
お悩み3 早合点され過ぎて、伝わらない
最後はスタートアップの定番の悩み、「ああ、○○系ね」で片付けられてしまう問題です。
●fanicon(ファニコン)の場合
fanicon(ファニコン)のサービスは、アイドルやタレント、アーティストのためのプラットフォームです。
faniconの映像を初めて見せていただいたとき、視聴者たちが「いいね!」ボタンのようなものを連打してハートのようなものがポップアップする様子を見て、筆者らTANTEKIチームは「めちゃくちゃ面白いですね!ファンがこうやってアイドルを応援できるんですね!」と興奮したのですが、しかし実はこのサービスの売りはそんなところにはありませんでした。
このケースでは、サービスの「実物」「現物」をいきなり見せられたため、自分がすでに知っている動画配信プラットフォームと同じようなものだろうと、勝手に早合点してしまったわけです。
じゃあどんなサービスなのか?実はfaniconは匿名性の高いオープンなSNSではなく、顔の見えるファンクラブのような、クローズドなサービスです。配信者とファンだけでつくる、安心感の高い空間として提供されます。
つくっている側はサービスの画期性を知っているので「説明するより実物を見せたら分かるだろう」と考えるのですが、受け取る側は先入観で既存サービスと比較し、「ああ、〇〇系ね」と理解してしまい、そこから思考停止して、聞く耳を持たなくなってしまいます。
これもまた「伝える順番」によって伝わりにくくなってしまったパターンといえるでしょう。
このケースでは、他の配信者と競い合う従来の動画配信プラットフォームが「外」だとしたら、faniconは「中」である、という整理をし、UIやUXを見せるよりも、その特性を最初に打ち出すことにしました。
具体的には「ファニコンであなたの“ホーム”をつくろう。」というコピーをつくり、「他の配信者と競う場ではなく、ファンと楽しく触れ合うための安全なホームなんだ」というイメージを明確に打ち出しました。
- 他のプラットフォームとの違いを明確化するために「ホーム」という言葉を打ち出す
- その後、実物のUI/UXを見せる
この順番で伝えれば早合点されることもなく、視聴者がハートを連打しているのも、ホームをつくるための何かだ、というふうに受け取り方が変わるわけです。
まとめ:最初に伝えるべきメッセージが固まれば、どんな状況にも対応できる
今回のお話で一番重要なのは、最初に「誰に何が伝われば成功なのか」を整理し、固めることです。その「固めたところ」から、あらゆる打ち手が生まれます。
- 「思いが熱過ぎて、伝わらない」→食べやすい温度まで下げる
- 「技術が難し過ぎて、伝わらない」→技術の高さよりも「画期性」「必要性」にフォーカスする。
- 「早合点され過ぎて、伝わらない」→伝える順番を考える。実物より先にテーマを見せる。
ご相談はTANTEKIまで!