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TANTEKI -新しすぎるアイデアが、伝わる。加速する-No.3

スタートアップにまず必要な「デザインする前のデザイン」とは?

2019/08/01

TANTEKI」(タンテキ)は、スタートアップを中心としたクライアントの新しすぎるテクノロジーやサービスアイデアを、「伝わる形」にデザインするサービスです。

今回はわたくし佐山太一が、スタートアップがいわゆる「デザイン」に取り組むときに大事なことを、アートディレクターの視点からお伝えします。


【目次】
「どんなデザインか」よりも「何をなぜデザインするか」を考える
メッセージと実態のギャップを埋めるのがデザインの役割
「伝えたいこと」を「伝わる形」にした、三つのデザイン事例
まとめ:大事なのは、デザインの機能定義

 

「どんなデザインか」よりも「何をなぜデザインするか」を考える

ロゴ、UIなどのいわゆるグラフィックデザインはなんのためにあるのか?
ロゴ、UIなどのいわゆるグラフィックデザインは何のためにあるのか?

実はスタートアップにとって、デザインは鬼門です。

TANTEKIにも「ウェブサイトがイケてないのでなんとかしたい」「カッコいいロゴをつくりたい」といったお悩みが持ち込まれます。しかし、そもそもなぜ「イケてないデザイン」が生まれるのでしょう。

結論を言うと、その原因は以下のどちらかです。

  • 伝えたいことがはっきりしていない
  • 伝えたいことはあるが、デザインに結びついていない

この状態で「どんなデザインにしますか?」などと話し合っても、抽象的なイメージ論に陥って、時間を浪費するだけです。

TANTEKIでは、「どんなデザインにしますか?」の前に、まず「なぜデザインするのか?」「そのためには何をデザインするべきなのか?」という、「デザインの機能定義」を行います。

変化の激しいスタートアップにとっては、イメージの精度よりも機能定義が重要です。一見完成度が高くても、使い道のよく分からないふわっとしたアートを抱えることは、逆に足かせになりかねません。直近の事業・発信への活用方法(機能)が明確で、実利があるデザインである必要があるのです。

では、どうやって機能定義をすればよいのでしょうか。それを説明する前に、TANTEKIのサービスの全体像を見てみましょう。

●TANTEKIがスタートアップに提供するサービスの全体像

TANTEKIのサービスは大きく「スコープ」「メッセージ」「デザイン」の3ステップで構成されます。

・ステップ①「スコープ」
「誰の気持ち・行動をどのように変えたいのか」「そのためには、相手に自社の何が伝わればいいのか」という、コミュニケーションのゴールを最初に見つけ出します。

・ステップ②「メッセージ」
スコープに基づき、「自分には関係ないな」「知らんがな」といった相手の無関心を乗り越えて機能するメッセージやステートメントを考えます。要するにコピーライティングです。詳しくは過去の連載を参照ください。

・ステップ③「デザイン」
メッセージを分かりやすく伝えるには、言葉だけでなくロゴ、キャラクター、UI、ビジュアルなどのコミュニケーションツールを用いると効果的です。ここを「なんとなくカッコいいもの」にしてはいけません。

TANTEKIではこの3ステップを、事業オーナー、コピーライター、アートディレクターというコンパクトなチーム構成で、1カ月~1カ月半というスピードで走り抜けます。このやり方なら、「いろいろな人にパスが回され、伝言ゲームのような状況になってしまった」なんてこともありません。

事業オーナー、コピーライター、アートディレクターというコンパクトなチーム構成

3者でディスカッションを重ねて、ある程度もやっとした「これではないか」という合意形成が取れたら(スコープ)、もやもやしたものをメッセージやデザインとして解像度高くくっきりさせていきます。

つまりスコープを見定め、メッセージを固めていく中で、デザインの機能定義が定まっていきます。

メッセージと実態のギャップを埋めるのがデザインの役割

デザインの機能定義を絞り込む上で、私はいつもスタートアップの持つ「メッセージ」と「実態」のギャップを観察し、その隙間を埋めることを考えます。

「メッセージ」は、スタートアップのビジョンや事業オーナーの課題です。ですが多くの場合、事業の「実態」がまだメッセージに追い付いていません。そこで、その足りない部分をデザインで補います。

あるいは逆に、「メッセージ」だけでは「実態」を伝えきれない部分があるなら、そこを補完するコミュニケーションツールを提案します。

メッセージと実態のギャップ

「伝えたいこと」を「伝わる形」にした、三つのデザイン事例

デザインの機能定義を行い、「ギャップ」を解消したTANTEKIの具体事例を三つ紹介します。

●ケース1
事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI(トランビ)の場合

事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI(トランビ)の場合

TRANBI(トランビ)は、事業の売買を行う国内最大級の「事業承継・M&Aプラットフォーム」です。

まず「このプラットフォームは結局どういう場所なのでしょうか」と事業主と話し合い、

事業の未来とめぐり逢うところ


というメッセージを定義しました。

とはいえ、M&Aは秘匿取引を前提としているため、事業の詳細をウェブサイトには掲載できません。そのため、当初は売上高などの数字と説明文が並ぶだけのUI/UXでした。

トランビ 改修前
当初のウェブサイト。M&Aに関することなので秘匿情報だらけということもあり、殺風景なデザイン
 

「めぐり逢い」というポジティブなメッセージを打ち出しているのに、実態としてのUXは殺風景。ここにギャップがあると感じた私は、マーケットににぎわいを生むようなUIのデザインシステムを提案しました。

「メッセージ」と「実態」のギャップを観察し、足りないところをアイコンやメタ情報で補ったのです。こうしたUIを実装することで、案件の多様性がひと目で分かり、メッセージにも説得力が生まれました。

トランビ 改修後
案件ごとに業種がひと目で分かるアイコンを付けることでにぎわい感を演出。全体に「めぐり逢える場所」だと感じられるように

●ケース2
血小板製造技術 Adiposeeds(アディポシーズ)の場合

血小板製造技術 Adiposeeds(アディポシーズ)の場合

Adiposeeds(アディポシーズ)は、iPS細胞ではなく、いわゆる間葉系の幹細胞から血小板をつくる技術を持っています。そこで、

脂肪から血小板をつくり、あたらしい血液の流れを創る

というメッセージをアピールすることになりました(前回記事参照)。

iPS細胞との違いを打ち出したメッセージに共感してもらうためには、実態としての説得力を持たせる、つまり技術をしっかり分かりやすく伝える必要があると感じました。

そこで重視したのが、技術解説まで一貫したトーンで演出できるCI(コーポレート・アイデンティティー)です。単なるロゴではなく、CIをデザインして技術解説を行うためのアイコンを一式そろえ、「CIを使って細胞分化の過程を解説できる」ようにしました。

アディポシーズ
左端のCIのデザインをベースに、バリエーションを増やすことで(中央)、実際の技術解説までCIでできるような機能定義を行った(右端)

●ケース3
スポーツブランド TENTIAL(テンシャル)の場合

スポーツブランド TENTIAL(テンシャル)の場合

TENTIAL(テンシャル)は、 Direct to Consumer(自社で企画・製造した商品をECサイトなどの自社チャネルで直接販売するビジネスモデル)のスポーツブランドです。

足のサイズや足にかかる圧力を測定してその人に合ったアイテムを提案したり、蓄積されたデータをもとに新しいスポーツアイテムを開発したり、今までになかったタイプのブランドを目指しています。

彼らが伝えたいメッセージは、

あなたをアップデートし続ける

蓄積されたデータをもとに、新たなスポーツアイテムをスピーディーに開発

の2点。つまり、フィックスされた商品をつくり続けるのではなく、ブランド自体が能動的に変化し続けるというコンセプトでした。

とはいえ、ブランドの立ち上げ直後だったので、ウェブサイトをつくるに当たって掲載できる商品がありません。つまり、メッセージに対して、「実態」の部分を補う必要がありました。

そこで、プログレスバーをイメージした動き続けるCIで、ブランドの活発さを演出しました。

テンシャル 改修後
他のスポーツブランドとは違う、TENTIALの一番のメッセージを伝えるために、「動き続ける」CIを提案

まとめ:大事なのは、デザインの機能定義

さて、今回紹介した三つのケースで、TANTEKIが最後までデザインを仕上げたのは、実はアディポシーズだけです。

他の2件は、デザインすべきことの抽出、プランニング、ディレクションまでをTANTEKIが担当し、そこから先の具体的なアウトプット、デザイン作業はスタートアップの社内デザイナーにバトンタッチしています。

スタートアップは予算もリソースも限られているため、必ずしも電通がフルコミットするのではなく、メッセージの確立から機能定義の段階まではTANTEKIが関わり、あとはその機能定義に則ってスタートアップの内製で進めてもらっても構わないというやり方をしています。

つまりTANTEKIにおけるアートディレクターの一番の役割は、「デザイン」ではなく「デザインをする前のデザイン」なのです。従来のような「オリエンありき」のデザイン作業はほとんど行っていません。

「こういう目的で、こういう機能のデザインを、今つくらなければならない」と対象を絞り込めさえすれば、リソースの少ないスタートアップでも「選択と集中」ができます。

それにこの作業を行うことで事業全体の解像度が上がります。最初にベクトルが定まれば、事業を拡大するときもアクセルを踏みやすくなります。「あれこれ手を広げた挙句、結局しっくりこなかった」というムダな投資も避けられます。

もちろん、デザインの機能定義で終わるケースだけでなく、TANTEKIでプロトタイピングまでするケース、話し合ってみたら実はデザインは必要なかったケースなど、スタートアップによって関わり方はさまざまです。

スコープを定め、メッセージから機能定義までを一気通貫でスタートアップに提供するTANTEKIのフロー、手前味噌ですけどこれってすごくいいですよ。

TANTEKI

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http://dentsutanteki.com/