セカイメガネNo.19
コンテンツと広告の境目
2013/12/18
香港のテレビ業界でこんなことが起きた。
「チキンソースを使ってサラダを作りましょう」「チキンソースを使って海鮮蒸し料理を作りましょう」。ある食品会社がスポンサーに付いているグルメ番組で、どんな料理にもなんでもかんでもその会社の商品であるチキンソースを使う演出をした。折しも、ユーチューブで試験放送が80万回閲覧された無料チャンネルの新規免許を政府が結局認可しなかった。人々は失望し、不満を爆発させた。
デモが起こり、「自社のチキンソースばかり取り上げる番組より、もっと面白い番組を」とグルメ番組をやり玉に挙げた。続いて商品のボイコットを呼び掛けるフェイスブックのファンページが立ち上がった。そして広告主を公開で非難する騒動にまで発展した。この番組で行ったような広告手法は通常プロダクトプレースメントと呼ばれている。どこが問題だったのだろうか。
香港ではテレビ・映画を問わず、複数メーカーが提供した商品を小道具として劇中に取り入れ制作費削減を図ってきた。ここ4、5年、プロダクトプレースメントはテレビ番組で頻繁に使われている。背景スペースの権利を広告主に販売し、主役に商品を持たせる。役者のせりふに商品を組み入れ、商品を主役として物語が展開する台本を制作する。こうした方法の価格一覧表が出来上がり、広告ビジネスを行っている。
一方、テレビドラマに多数の商品が入り込むことを視聴者が警戒するようになった。導入初期はそれでもまだ自然な演出だったが、今では作為的に商品を取り上げる演出に変わってきた。ひどい場合にはストーリーすらねじ曲げてしまう。ある銀行は提供しているドラマに銀行員役の人物を登場させ、実在の営業用電話番号を読み上げさせた。視聴者から通報があり、香港政府は銀行に厳重警告を行った。
プロダクトプレースメントは、ストーリーの自然な演出で視聴者にブランド情報を送り、好感を持ってもらうのが狙いだろう。しかし、現在香港で行われている強引な方法は、反感を買う結果になっている。「人間の真実」(Human Truth)に反する広告手法は、視聴者や社会から嫌われる。広告やマスメディアの仕事をしている私たちは、そのことをもう一度思い出し、学び直す必要があると私は思う。
(監修:電通イージス・ネットワーク事業局)