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本当の自分自身の意図につながったところからビジネスを創り出す

対話のないビジネスはなぜ滅びるのか №6

  • 江上 広行

2017/12/21

本当の自分自身の意図につながったところからビジネスを創り出す

このシリーズでのコラムもいよいよ最終回となりました。これまで、顧客、組織、社会などのさまざまなステークホルダーとの対話について触れてきました。そして、締めくくりのテーマは「内なる自己との対話」です。

本コラムは、次の三つのパートで構成しています。

■企業の中にいるあなたは、本当のあなた自身ですか?
■私たちのビジネスは、どんな「私」が創り上げているのでしょう
■「内なる自己との対話」からビジネスを創り出す

企業の中にいるあなたは、本当のあなた自身ですか?

私はコンサルタントという仕事上、ビジネスの場面での対話のファシリテーションを任せられる機会が多くあります。その場面は企業内、業界内、そして業界をまたいだマルチステークホルダーでの対話などさまざまです。

そのとき冒頭のグランドルールとしていつもお伝えすることがあります。「肩書や立場を横に置いて、対等な一人の人間として対話してください」とお願いするのです。複数の企業が参加する場合は、「名刺交換はイベントが終わってからにしてください」と、あえてお願いする場合もあります。そうしないと、どうしても肩書ベースの形式的な会話となってしまい人と人がつながりにくいのです。

しかしよく考えてみると、自分でそんなお願いをしておきながら、それは何だかとても不思議なことだと感じます。私たちはわざわざそんな前提を置かないと一人の人間として対話ができないのだろうか? だとしたら、日常のビジネスの場面で話している私たちは一体何者なのだろうかと思うのです。

もしかして、日常で企業や組織の中で話している私という存在は、本当の自分自身ではなくて、組織の中で本当の自分ではない役割を演じている、あたかもビジネスという舞台の上で台本を渡されたセリフを話している俳優のようなものかもしれません。

企業の中にいるあなたは、本当のあなた自身ですか?

私たちのビジネスは、どんな「私」が創り上げているのでしょう

私たちのビジネスは、どんな「私」が創り上げているのでしょう。役割として演じている私なのか、本当の自分自身の意図とつながっている私なのか、どちらなのでしょう。もし本当の自分自身とつながっていないところでビジネスが創られているとしたら、それは自分ではない誰かが設定した舞台を演じている世界にすぎないのかもしれません。自分の本質とは分断したところから創られるビジネスです。

そのビジネスは同時に、同僚とも、顧客とも、株主とも分断していて対話が存在していない世界、つまり企業と社会が分断している世界です。こうやって創られるビジネスは、収益よりも大切である、存在意義やビジョンが見当たりません。

私はビジネスにおいても、本当の自分自身である本質と仕事上の役割が統合されていることが何よりも大切であると信じています。

中には、一人一人が自分勝手にやりたいことだけをやっていたら、企業や社会は、効率的・合理的に機能しないのではないかという疑問を持つ方がいるかもしれません。あなたがもしそう感じていたら、その効率的・合理的な機能によって創られていくビジネスが、あなたが本当に欲しいものかどうか問うてみてほしいのです。

「内なる自己との対話」からビジネスを創り出す

ビジネスの世界においても形づくられる製品やサービスの全ては、人の中にある意図が根源です。資本主義の世界では、行政機関やNPOではなく、ビジネスこそが社会的に最大の影響を及ぼし、次の世代へと持続させる社会を担っていく中心的存在であることは疑いようもないことです。であるからこそ、われわれ自身が自分の意図とつながり、それをビジネスの世界で体現していくことが大切なのです。

マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の組織学習センターの責任者であるピーター・センゲ氏は、その有名な著書『学習する組織』の中で人生において、自分が心から求めている結果(創り出したい未来、創造したいものやこと)を生み出す活動のことを「自己マスタリー」と呼びました。

「自分は何者で、何をなすべきか」という問いを自分の中に立て続け、そこから立ち現われたコトバがビジネスの起点であるべきだと彼は説きます。経営者がそれを行った場合はそれを「経営哲学」や「経営理念」といいます。そして、その意図を持つ者同士が対話をするところからイノベーションが生まれてくるのです。

これまで、私たちは誰かによって設定された、ある程度は予測可能な世界でPDCAを回しながらビジネスを行ってきました。そして、今日のVUCAの時代とは、不確実であるがゆえに未来の予測ができないということでもあります。

これは言い換えれば、私たちが自分の意図につながったところから未来をデザインすることができる時代になったということでもあります。そんな時代が今ここに到来していると思ったら、本当にワクワクすると思いませんか。

本コラムの筆者、江上広行氏が金融業界におけるパラダイムシフトを「対話」の中から引き起こすさまを描いたのが、7月に刊行された書籍『対話する銀行〜現場のリーダーが描く未来の金融』です。「対話」されるテーマは「リーダーシップ」や「分権経営」「貨幣の本質」など盛りだくさん、金融業界に関係がない方も、ぜひ手に取ってみてください。