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日本の広告費No.5

「2017年 日本の広告費」解説―止まらないインターネット広告費の伸長で6年連続のプラス成長

2018/02/22

2月22日、「2017年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。

北原利行

2017年(1~12月)における日本の総広告費は前年比101.6%の6兆3907億円で、2012年から6年連続で前年実績を上回りました。

日本の広告費は、マスコミ4媒体の広告費とインターネット広告費、そしてプロモーションメディア広告費に大別できます。総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が43.7%、インターネットが23.6%、プロモーションメディアが32.7%となっています。

ここ数年、マスコミ4媒体とプロモーションメディアの構成比が次第に低下する一方、14年以来2桁成長を続けるインターネット広告の構成比は年々高まっており、17年には日本の広告費全体の4分の1弱をインターネット広告が占めるに至りました。

媒体別広告費 2015~2017

金額ベースで見ると、新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディアのマスコミ4媒体広告費は、前年比97.7%の2兆7938億円で3年連続の減少となりました。この中でラジオ広告費だけは、前年比100.4%の1290億円と2年連続でプラス成長となっています。

プロモーションメディア広告費は、前年比98.5%の2兆875億円で3年連続の減少となりましたが、「屋外広告」「展示・映像ほか」については6年連続でプラス成長となりました。

4年連続で2桁成長を遂げているインターネット広告費は、前年比115.2%の1兆5094億円となり、1兆5000億円台に乗せました。内訳を見ると、昨年1兆円を超えた媒体費が好調で前年比117.6%の1兆2206 億円、制作費も前年比106.1%の2888億円となっています。さらに媒体費を細かく見ると、前年比127.3%の9400億円に達した運用型広告費が大きく伸長しています。予約型広告から運用型広告へのシフトがいっそう進んだ結果として、インターネット広告の媒体費における運用型広告の構成比は77.0%と、全体の4分の3以上を占める規模となりました。

17年を通して見ると、円安を追い風にした企業業績の回復、株価上昇、雇用環境の改善など、戦後2番目の長さといわれる景気拡大に連動するかたちで、広告費もわずかながら拡大したといえるでしょう。

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クライアントもメディアもデジタル・トランスフォーメーションが進む

ここ数年の傾向として、インターネット広告費の伸びが広告費全体を押し上げる要因となっています。また、昨年に引き続き、モバイル視聴のさらなる浸透による動画広告隆盛のかたちに変化は見られません。

17年に顕著だったのは、さまざまな局面でデジタル・トランスフォーメーションが進んだこと。例えば、従来は予約型の広告利用が主だった自動車や通信などの業種で運用型広告の活用が進み、これまでマス広告の利用が盛んだった食品や飲料といった業種でインターネットへの出稿が増加しています。特にナショナルクライアントによるデジタル・トランスフォーメーションは、今後さらに加速していくと思われます。

テレビや新聞が強いといわれてきたブランド広告についても、インターネットの運用型広告を活用する動きが拡大しています。特に動画広告による認知や好意、購買意欲度を高めるブランドリフト効果が注目されており、調査機能とともにセールスを行うケースが増えています。

ブランディングに関しては、一般的に長期的な記憶に基づいて形成されるものと考えられてきたわけですが、どちらかというと短期的な効果を追究してきたインターネット広告に新たな可能性が開けてきているといえます。こうした動きはクリエーティブの多様化や深化と無縁ではなく、非常に楽しみな領域です。

また、アナログとデジタル、それぞれの媒体特性を生かしたコミュニケーション活動が増加する傾向も見られます。例えば、マス媒体の強みを生かし、テレビスポットと運用型広告を連動させるなど、横断的なメディアプランニングに対する需要がますます高まってきています。

新聞や雑誌といったマス媒体によるデジタルシフトの動きも拡大しています。新聞各社のデジタルへの取り組みが進む一方、海外で発生したブランドセーフティー問題をきっかけに広告価値毀損への関心が高まり、リスクを回避したいというクライアントニーズに応えて、参加できるクライアントとメディアを限定したPMP(プライベート・マーケット・プレイス)の運用領域が拡大しました。また、ネットと連動した紙面企画や他メディアとの協働も増えています。

同じように、コンテンツの質で評価の高い出版社系のデジタルメディアが成長しており、出版社由来のデジタル広告の売り上げは2年連続で2桁成長を遂げています。雑誌はもともとコミュニティー的な性格を持っているメディアで、ネットとの親和性も高いため、SNSを活用したプロモーションや読み放題サービスなどをベースにした新たな広告展開が期待されます。

広告市場はアナログとデジタルの組み合わせが重要に

以下、注目されるポイントをいくつかご紹介します。

・新たなメディア特性を獲得しつつあるラジオ

マスコミ4媒体で唯一前年比プラスとなったラジオ広告費ですが、その要因のひとつがradiko.jp(ラジコ)の定着です。もともとプレミアム会員数が堅調に増加しているところに、昨年秋以来ラジコを搭載した、音声インターフェース対応のスマートスピーカーが販売され、さらなる利用者の増加が期待されています。

全国的に地域のコミュニティー放送が定着しつつある状況からは中高年層のリスナー像が浮かびますが、「モノからコトへ」のトレンドが強まる中、ライブイベントとも相性の良いラジオは、“ながら視聴”が常態化している若い世代にとっては、どこかアナログのにおいと身近な雰囲気を漂わせる新鮮なメディアといえるのもしれません。

・アナログとデジタルの組み合わせで最適化を図る

インターネット広告制作費は堅調に推移しています。気になるポイントとして、ここ数年減少傾向にあったバナー広告の制作費がここにきて増加しています。その背景には、さまざまなデータを一元管理するDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)などによる広告配信の最適化への取り組みがあります。配信先のユーザーに合わせて複数のバナーを出し分けるニーズが増大しているのです。

ネット広告の仕組みが自動化・最適化に向けて進化していくに従って、広告配信の対象は集団から個人へと変化しつつあります。個人に向けた配信の最適化は、One to Oneマーケティング、あるいはカスタマーセントリックに通じる考え方といえます。電通でもPDM(ピープルドリブンマーケティング=人を基点としたマーケティング)を掲げており、広告配信の個人最適化の方向に大きく踏み出しています。

また、アナログとデジタルの組み合わせもさまざまに進化し始めており、例えば個人対応のバリアブル印刷でQRコードを掲載したダイレクトメールを送付し、個々の顧客をウェブに誘導する仕組みで成果を上げているケースもあります。全てをデジタルで完結させようとしてメールマガジンを配信するよりも、実はアナログな印刷物などを送付した方がウェブへの誘導効果が高く、有効なデジタルマーケティングにつながるというケースもあるわけです。

インターネットが普及してから二十余年。さまざまな出来事や経験を踏まえたところで、生活者も企業も、アナログかデジタルかの二者択一ではなく、それぞれの嗜好に応じた新たな組み合わせ、効率的な組み合わせを模索しているのではないでしょうか。

・人工知能は広告の夢を見るか?

すでに広告クリエーティブの分野ではAI(人工知能)の活用が始まっており、AIが書いた広告コピーなども登場していますが、今後の人工知能と広告の関係は気になるところです。

例えば、AIがセンサーを駆使して人間の感情をデータとして取り込むなどのテクノロジーが実現すれば、現在よりもはるかに精緻なマーケティングのアプローチが可能になるかもしれません。

その一方、そもそも人はいかなる刺激によってモノを購入するのか、というミステリアスな問いに対する回答は、デジタルテクノロジーがどれだけ進展してもそう簡単には得られないとも思います。デジタルの可能性を追究しながら、人間そのものに対する興味や関心もさらに深めていく必要があるのではないでしょうか。

「2017年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推定範囲