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日本の広告費No.6

「2018年 日本の広告費」解説―日本の広告市場は前年比102.2%、7年連続のプラス成長

2019/02/28

2月28日、「2018年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。

北原利行
 

2018年 日本の広告費の概要

2018年(1~12月)における日本の総広告費は前年比102.2%の6兆5300億円で、2012年以来、7年連続で前年実績を上回りました。

日本の広告費は、マスコミ4媒体の広告費とインターネット広告費、そしてプロモーションメディア広告費に大別できます。総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が41.4%、インターネットが26.9%、プロモーションメディアが31.7%でした。

ここ数年、マスコミ4媒体とプロモーションメディアの構成比が漸減する一方、2014年以来2桁成長を続けるインターネット広告の構成比は年々高まり、2018年には総広告費の1/4を超える規模となりました。

媒体別広告費 2016~2018

新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ4媒体広告費は、前年比96.7%の2兆7026億円でした。内訳は、新聞が前年比92.9%、雑誌が91.0%、ラジオが99.1%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビが98.2%となっています。

プロモーションメディア広告費は、前年比99.1%の2兆685億円で、「交通広告」「POP」「展示・映像ほか」がプラス成長となっています。

5年連続で2桁成長を遂げているインターネット広告費(媒体費+広告制作費)は、前年比116.5%の1兆7589億円で、地上波テレビ広告費の1兆7848億円に迫る規模になりました。内訳を見ると、引き続き媒体費が好調で、前年比118.6%の1兆4480億円。制作費も前年比107.7%の3109億円となっています。このうち媒体費では、大規模プラットフォーマーを中心に運用型広告の伸びが著しく、前年比122.5%の1兆1518億円に達しました。

媒体別構成比

2018年を通じて見ると、度重なる自然災害、弱含みの個人消費や、高まらない所得実感などの不安材料は多かったものの、好調な企業業績や雇用環境を背景に、好調を維持するインターネット広告が広告費全体をリードする結果となりました。なお、2018年の名目国内総生産(GDP)の対前年伸び率は0.6%で、GDPに対する総広告費の比率は1.19%(前年より0.02%増加)でした。

「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」を初推定

今、広告市場は大きな構造変化の真っただ中にあります。従来は、あるメディアに「決め打ち」で広告を出す、または「ブランディングはテレビCM」「コンバージョンはデジタル」などメディアの役割を固定化した上で配分を考えることが広告戦略の基本でした。

しかし現在では、メディアありきではなく、広告のターゲットである生活者がどのように情報に接しているかを精査し、そこで把握したコンタクトポイントに対していかに広告を置いていくかを考えるようになっています。

生活者の中には、ネット利用が多い人もいれば、いわゆるマスコミ4媒体に親しみを感じる人もいますが、多数のメディアを横断的に使う人が多い現状からすると、特定のメディアへの決め打ちではなく、ターゲットの行動に合わせ、オンライン・オフラインを問わず複数のメディアを効率的に組み合わせて広告を配置することが求められているわけです。

したがって、単純に広告市場がマス媒体からネットにシフトしているのではなく、広告の配置の仕方自体が変わっています。インターネット広告だけでは解決できない課題に対して、データやテクノロジーを駆使し、従来からある媒体の強みと相乗させることによって解決する「統合ソリューション」が深化しているといえるでしょう。

そんな広告市場の構造変化や統合ソリューションのトレンドに対応する意味から、2018年からはインターネット広告費に「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」(マスコミ4媒体事業者などが独自に提供するインターネットサービスにおける広告費)の項目を新たに設定し、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、それぞれのデジタル広告費を推定しています。以下、簡単に説明します。

マスコミ4媒体由来のデジタル広告費

2018年、マスコミ4媒体由来のデジタル広告費の総額は582億円で、特に運用型以外の、いわゆる予約型広告などの領域での拡大が顕著です。

新聞デジタルは132億円。デジタル広告におけるブランドセーフティー(ブランド毀損を避ける)のトレンドが強まる中、高い信頼性という新聞のブランド力が再評価されています。

雑誌デジタルは337億円。各出版社がデジタル事業を拡大しており、出版コンテンツの価値を前面に急成長を遂げたメディアも見られました。紙の雑誌を基点としないデジタルネイティブのメディアも増えており、デジタル広告が広告売り上げの半分弱を占める出版社もあるなど、デジタルメディアシフトが急速に進んでいます。

ラジオデジタルは8億円。放送局独自のインターネット向けコンテンツが好評であることを背景に売り上げが伸長、radiko.jpをはじめとするオーディオアドによる市場拡大が期待されています。

テレビメディアデジタルは105億円。テレビのコンテンツ力を生かした関連動画広告が市場をリードしています。地上波テレビ番組をキャッチアップ配信するTVer(ティーバー)など、さらなる成長に要注目です。

統合ソリューションの進化により注目される三つの広告関連市場

統合ソリューション絡みで注目を浴びている三つの市場について新たに調査を行っています。これらの数字は「2018年 日本の広告費」にはカウントされていませんが、将来的には総広告費に含めていきたいと考えています。

まず、2020年に向けてイベントが非常に増えていることから、2018年イベント関連の広告費を推定したところ、3148億円という結果になりました。特に東京では、2020年に向け都市再生プロジェクトが進み、デジタルテクノロジーを駆使したアートイベントやeスポーツなどのイベント開催も盛んです。また、イベントの写真を撮って、拡散してもらうといったSNS連動型キャンペーンも日常化しています。こうした動きは、インターネットだけでは得られない「実体験価値」が評価されているといえるでしょう。

次に、新聞折込広告の減少もあり、直接各戸のポストに投函するポスティングがエリアマーケティングの代替策として見直されており、2018年は1129億円という市場規模と推定しました。

そして、DM広告制作関連市場が1214億円です。DM広告費は郵送料・配送料のみを推定範囲としていますが、近年はロイヤルカスタマー向けのリッチなDMも増えていることから、制作関連費も参考までに推定しました。Eコマースサイトで商品をカートに入れたままログアウトしてしまう、いわゆる「かご落ち」をしたカスタマーに対して直接DMを送るなど、ウェブと紙の連携も進んでおり、インターネットだけで完結せず、紙で直接訴求する「統合ソリューション」が拡大しています。

また、これも今回数字としては発表しておりませんが、Eコマースメディアのサイト内広告が非常に増えているのは見逃せない傾向で、一定規模の市場が形成されていると思われます。今後の動向が注目されるところです。

最後に、2018年もインターネット広告市場は拡大を続けましたが、一方でブランドセーフティーやアドフラウド(広告詐欺)、ビューアビリティー(広告の認識率)などの問題が顕在化しており、早急な対策が進められているのが現状です。

筆者が電通に入社した頃、先輩から「広告というのは基本的に見られるものではない。どうやったら見てもらえるかを考えるのがわれわれの仕事だ」といわれました。「人びとが振り向いてくれるメッセージをいかにつくるか」は、デジタル化が進んだ今でも普遍的な課題です。

データ量が格段に増え、ターゲットを捉えることも昔に比べれば楽になったのかもしれませんが、一人一人に、真に有効なメッセージを本当に伝えられるかはもう一歩先の話です。広告市場の健全な成長のためにも、広告と、それを取り巻く人間と社会に対する誠実な取り組みが一層求められているように思います。

「2018年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推定範囲