【続】ろーかる・ぐるぐるNo.127
たまには、お金の話をしましょう
2018/03/08
あまり大きな声で言いたくないのですが、近所の精肉店には、ほぼいつも国産で冷凍していない「豚軟骨」が置いてあります。100グラムで100円。1キロ買っても1000円。ちょっと手が掛かるけど、その味わいは折り紙つき。
面倒だと言っても、一回火を通して脂を抜くだけのこと。あとは鹿児島の郷土料理のようにみそ、黒砂糖、芋焼酎で煮込んでもいいし、最近のオススメはミートソース。ひき肉の代わりに使って、グツグツグツグツ、4~5時間も煮込めば、軟骨のゼラチンがプリッとうまいラグーの完成です。
そういえば作家の阿川弘之さんが戦後貧乏していたころ、当時誰も見向きもしなかった「牛舌」で、よくタンシチューを楽しんだそうですが、いつ世の中が豚軟骨の魅力に気付いて値段が上がってしまうか。内心ビクビクしながら毎日を過ごしております。
さて、きょうのテーマは「お金」。
どうもこの手の話は苦手で、100回を超えるこのコラムでもほとんど話題にしたことがありません。むかし中国でも銭のことを直接口にするのがはばかられるので「阿堵物」(あのもの、の意)なんて別名があったようですが、貨幣経済の定着が遅れた日本にはそういった価値観が根強く残っているのでしょう。明治生まれの考古学者、樋口清之さんも「芸能人、文化人、学者などが、報酬を自分で評価して申し出ると、金に卑しい人物などといわれる」とぼやいていました。
とはいえビジネスをする以上、避けては通れない道だし、ハーバードのデザインスクールでも「お金」のことは徹底して議論しているそうだし(https://dentsu-ho.com/articles/5474)。
そこで、広告会社がこれからますます積極的に取り組まなければならない広告コミュニケーション領域以外で「アイデアを売る」ビジネスの報酬体系について、個人的な意見を書いてみようと思います。
結論から申せば「成果に応じたインセンティブ(たとえばレベニューシェア)を積極的に検討すべき」です。
そもそも「アイデア」という商材は厄介です。たとえば「果物」を売買するのであれば、産地とか生産者とか品種とか糖度とか、過去に蓄積されたさまざまな客観的な指標で商品を評価し、値段を決めることができます。しかし「アイデア」は今まで誰も歩いたことがない新しい道を示すもの。粗悪品は見分けられても、「これなら必ずうまくいく」なんて約束することは誰にもできません。
さらに、アイデアには「いったん作ったらおしまい」ではなく、「いったん作ってから試行錯誤を重ねて品質を上げていき、あるタイミングでブレークスルーを迎える」という性質もあります。
たとえば期間が限定的な「フィー契約」だけだと、「なぜ買い手のみがアイデアが出来上がるまでのリスクを負わなければならないの?」「売り手の責任はどこにある?」となっちゃうこともよく理解できます。
そこで「成果に応じた報酬体系」です。そうすることによって初めてアイデアの売り手と買い手という関係は解消され、対等なひとつのチームが出来上がります。メンバーは「同じ船に乗る」ことができるのです。
もちろん「アイデアを安く買いたたく」ためにインセンティブを導入しようという議論には賛成できません。売り手も一定のリスクを取るのであれば、成果が出たときに応分の利潤を求めるのは当然のことです。現実にはいろいろ難しい面もありますが、ぼく自身はこの方法を軸に新商品・新事業開発の領域で「アイデアを売る」ビジネスを実践しています。
インセンティブ方式には副産物もあります。それは、莫大な開発予算を持たない企業とでも、きちんと収益分配する信頼関係さえあれば、ビジネスパートナーになれるということです。実際、広告なんてやったことがない企業とのプロジェクトが、現在も複数進行しています。
今後、広告会社が事業領域を拡張し、「アイデアを売る」ビジネスを育てていくためには、この議論は避けて通れないでしょう。それにしても…やっぱりお金の話って、難しい!
どうぞ、召し上がれ!
※本稿は筆者の個人的な意見であり、電通の個別事案に関係するものではありません。