イノラボが生み出す協創のカタチNo.3
海外の事例に学ぶ、成功するオープンイノベーション
2014/02/03
「オープンイノベーションって、どんなもの?」。連載3回目となる今回は、株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)所長の渡邊信彦さんに、海外でのオープンイノベーション事情をレクチャーしていただきました。
失敗してもやり直せる、チャレンジを促す仕組みづくり
――オープンイノベーションの海外事情について教えてください。
渡邊:オープンイノベーションの成功事例として世界的に有名なのが、P&Gの「Pringles Prints」です。ポテトチップスの「Pringles」1枚1枚に、直接、印刷を施すという技術で、P&Gとイタリアのパン屋さんが技術を持ち寄り開発を行いました。他にもさまざまな成功事例がありますが、正直なところ、日本国内で行われているオープンイノベーションと、あまり実態は変わりませんね。大企業が主導権を握ったトップダウンのプロジェクトが多く、まだまだ協働型の開発スタイルが多いように思います。
――日本のオープンイノベーションには見られない、海外ならではの特徴などはありますか?
渡邊:決定的に違うと思うのは、失敗しても後戻りができるエコシステムが整えられていることですね。プロジェクトの要所要所にマイルストーンがあって、まずは第1のマイルストーンまで歩みを進めていくのです。うまくいったら次のマイルストーンへ進み、失敗したら一歩下がる。こういう仕組みが定着しているため、特にシリコンバレー辺りでは、若者がどんどん新しい取り組みにチャレンジしています。「こんなことをやってみたいんだよね」と夢を語っていた若者が、半年後には起業していて、そのまた半年後には元いた会社に戻っていたりするんです(笑)。
日本とシリコンバレーではカルチャーが異なりますので、そっくりそのまま同じようなエコシステムをつくることはできないと思いますが、まねしたいというか、参考にしたいシステムだとは思っています。
国境や言葉を超えたチームをつくり、現地で一緒に汗を流す!
――チームづくりという点ではどうでしょうか? 日本のプロジェクトチームにはない特徴があれば教えてください。
渡邊:現在、フランスの都市が進めている、とある街づくりプロジェクトに参加しているのですが、そのプロジェクトマネージャーが、別の国からやってきた人なんです。とてつもないビッグプロジェクトなのですが、その方向性を決めるリーダーをわざわざ国外から招へいし、プランニングからなにからすべてお任せしてしまうことに、衝撃を受けました。街をどう変えていきたいかというビジョンが明確にあって、そのために最適な人材を、国境をも超えて集めてしまう。この勇気、感覚は、日本人にないものだと思いますし、私たちでは、こうしたボーダレスなチームは、おいそれとつくれないのではないかと思いました。
だからといっていつまでも国内で、日本人同士のチームばかりつくっていたのでは、これからやってくるであろうグローバル化の波を乗り越えることはできません。私たちも彼らのように、いずれは国境や言葉の壁を超えたダイナミックなチームをつくらなければならないときがくる。ですから、少しずつでも、海外のチームづくりを参考にして、世界の人材を取り入れる方法を模索すべきだと思います。
――インドや中国といった新興国とは、どのような形でオープンイノベーションを進めて行ったらよいのでしょうか? なにかコツのようなものはありますか?
渡邊:新興国に限ったことではないかもしれませんが、距離と時差と文化の違いを乗り越えて、一緒にプロジェクトを進めることが肝要だと思います。そのためには、大きなお金を投資しにいくのではなくて、小さなお金を持って汗をかきにいくことが欠かせません。エンジニアが実費程度の資金を持っていって「これを元手にプロジェクトを立ち上げよう」「でもこれだけしかないから、一緒に汗をかこう」と説得し、共に苦楽を分け合わなければ、本当のイノベーションは生まれません。現地のいちベンダーとして本気で事業に取り組めるか、そこが、新興国をはじめとする海外チームとオープンイノベーションを行う際の、鍵になることでしょう。
北欧の銀行を参考に、「人を覚える街」を創造したい
――前回のインタビューでお聞きした「新しい街づくり」を進める上で、参考にしている海外事例はありますか?
渡邊:オープンイノベーションの事例ではないのですが、北欧のとある街に着目しています。街の銀行にキッズルームというのがありまして、放課後、たくさんの子どもたちが、銀行員たちと遊びにやってくるのです。彼らは、就職や結婚が決まったとき、親の次に銀行員に報告をするのだそうです。銀行に人が集まり地域のハブになって、そこでコミュニケーションが生まれているんですよね。
――それは面白い現象ですね。
渡邊:はい。銀行員は、彼らがどんな夢を持っていて、どんな家庭で育ち、どういうお金の使い方をしてきたか、ほほすべてのライフプランを把握しています。ですから、彼らが社会人になったとき、最適な金融商品をごくごく自然に提供できるんですよね。彼らも当たり前のように、銀行員から提供されたパッケージを受け入れる。素晴らしく成熟した仕組みが出来上がっているのだなと感心しました。
こういう街を、ITの力でつくっていきたいと思っています。パーソナルデータや行動のログを安心して預けられて、北欧の街の銀行員や、日本の下町のおばちゃんのように、身近な存在がナビゲートしてくれる。そういう情報システムが街には必要で、それが出来上がることで私たちの目指している「人を覚える街」「つながる街」が生まれるものと思っています。