イノラボが生み出す協創のカタチNo.2
オープンイノベーション×エンタテインメントで、街づくりの土台をかたちづくる
2014/01/20
連載2回目となる今回は、株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)所長の渡邊信彦さんに、具体的な取り組みについてお聞きします。
ITの力で、誰も見たことがない新しい街を生み出したい
――ISIDが取り組むオープンイノベーションついて教えてください。
渡邊:ISIDは、金融業、製造業、サービス業などの幅広いクライアントにITソリューションを提供しているシステムインテグレーターです。これまでは企業を対象にした比較的固いい業務を行ってきたのですが、2011年、「ここに集まってくる最新の技術や情報ネットワークを生かし、より自由に『新しい価値』を作り出そう!」と、オープンイノベーション研究所(イノラボ)を立ち上げました。
まだ世間に出ていない「埋もれている先端技術」をIT企業ならではの視点で発掘し、テクノロジーと広告マーケティングの橋渡しをして、これまでにない文化を発信することを目指しています。最終的にはITの力で、誰も見たことがない新しい街を生み出すのが目標です。夢を実現させるため、いま、さまざまな取り組みを行っています。
――具体的にはどのような取り組みを行っているのですか?
渡邊:街をつくるには人が必要。人を集めるにはエンタテインメントが欠かせない。そんな発想で、クウジット株式会社と一緒に、笑顔を貯めるミラーサイネージ「エミタメ」を開発しました。端末の前でほほえむと、笑顔認識システムが口角の上がり具合などの情報を読み取ってポイントに換算してくれるのです。企業の食堂やライブ会場などに設置して実証実験を重ね、貯まったポイントに応じて企業の緑化や東日本大震災への寄付が行われるチャリティプログラムにもトライしました。おかげさまで、2013年のグッドデザイン賞を受賞しまして、確かな手ごたえをつかんでいます。
イノベーションが起こるきっかけは、サービスではなくテクノロジーにある
――渡邊さん自身が、「これは面白い」と思われたイノベーションがあれば教えてください。
渡邊:スマートフォンに内蔵されているジャイロセンサーは面白い生まれ方をしていますね。もともとジャイロセンサーは精密機器の角度やバランスを測るために使われる、ものすごい精度を誇る部品でした。しかしスマートフォンに採用されたジャイロセンサーは安くて小さいけど感度が悪い、言うなれば粗悪品。「これは売れないよね」と言われていた不良品に近いものが、スマートフォン向けのエンタテインメント機器として認知された途端に、素晴らしく使えるものに変わりました。
これはとても面白い変革だと思います。まさか精密機械用にミリ単位の狂いも許されなかった世界の考え方では、携帯キャリアさんのCMで観客がスマホを振ると、それに応じて東京タワーが光ったり、噴水が噴き上がったりする、あの発想は出てこなかったと思います。イノベーションが起こるきっかけというのは、やっぱりテクノロジーなんですよね。なにかのサービスをAR(拡張現実)やプロジェクションマッピングでやりたい、ということではなく、あるテクノロジーを発見して、そこからサービスが創造される。技術に向き合い真摯にサービスへと落とし込むことで、想像を超えた価値が生まれるのだと思います。
プロジェクトを成功させる上で欠かせない、ファシリテーターの存在
――オープンイノベーションを成功させるコツは?
渡邊:仕組むこと、ですね。誰かひとりでいいのでファシリテーターが入って、プロジェクトの軸をしっかりつくり、成功へのロードマップを描いて、最後まで責任を持ってチームを導いてあげる。これができていれば、たいていのプロジェクトは成功するのではないでしょうか。
――ファシリテーターとメンバーとの関係づくりは、どのように進めたらよいのでしょうか?
渡邊:私の場合は、まず「チーム全員が同じ立場に立って、情報や気持ちをシェアしながらやっていきましょう」という、意識をすり合わせるためのワークショップを行うようにしています。そこできちんとリーダーシップを取り、メンバーに役割を与え、期限を切ってあげると、プロジェクトが機能しはじめるのです。その後は、短期的な目標に向かってメンバーに自由に動いてもらい、結果を組み合わせて新しいサービスを生み出すということをくり返すことになりますね。
――逆に、これはやってはいけないということはありますか?
渡邊:テクノロジーを持った人を集めて適当にプロジェクトに放り込み、なにかが起きるのを待つ、という受け身の手法ですね。このやり方では、絶対になにも起こりません。それから、プロジェクトの進行を止めてしまうのもNGです。オープンイノベーションの現場では、本当にいろいろな出来事が起こります。予想外のトラブルが発生したり、新たな技術が登場したり…。ときにはシナリオやロードマップを大幅に変更しなければいけなくなることもあるでしょう。
そんなときでもひるまずに、周りの状況を分析し、その場で次の一手を打っていく。スピード感のある決断がメンバーからの信頼にもつながりますので、変化を楽しむぐらいの気概を持ってほしいなと思いますね。
(第3回に続く)