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スタンフォードで広告会社の未来を考えるNo.1

なぜ、組織に“多様性”が必要なのか?

2018/04/20

皆さま初めまして、電通の四之宮壮平と申します。社の海外留学制度を使い、2017年6月末から1年の予定で、アメリカはカリフォルニア州のスタンフォードビジネススクールに留学しています。経営学の最前線で学ぶことで発見したことや気付いたことを少しでもお伝えし、皆さまのお役に立てることを願い、数回にわたってコラムをお届けします。

クラスメートたちとニューヨーク証券取引所で(右端に著者)
クラスメートたちとニューヨーク証券取引所で(右端に著者)

38の業種業態、28の国の人材が集まるビジネススクール

スタンフォードはシリコンバレーに隣接し、Googleの創業者をはじめ多くの起業家たちを輩出した学舎です。訪れたことがある方は感じられたかと思いますが、あらゆるアイデア・意見・情熱に対してオープンかつ柔軟であり、コミュニティー全体が起業家精神にあふれ、世界中から文化・職業背景も全く異なる人々が集まり多様性を実現しています。

私が所属しているのが、Master of Science in Management for Experienced Leaders、通称MSxというプログラム。社会人経験平均12年以上、管理職経験もあるミッドキャリア向けの1年制経営学修士号で、スタートアップ創業者、大手企業の管理職、公務員、軍人、医師、建築家、エンジニアなどさまざまな才能が集まっています。38の業種業態×28の国・地域という多種多様な背景を持つ104人のクラスメート(女性は約2割)の中で、広告業界出身は私1人のみ。日本人は私を含む5人しかいません。

真に多様性のある組織とは恐らくこういう状態を指すのだと思います。

業界が異なれば知識や経験が異なり、出身地・文化が異なれば感じ方や伝え方が異なります。多くの違いが組み合わさり一つの組織を成す。しかし、それでは混沌=カオスにしかならないのではないかと思いますよね? それが違うのです。クラスメートとの学びを通じて、多様性はすさまじいエネルギーを組織にもたらすのだと実感しています。

日本人クラスメート5人で力を合わせ、日本をテーマとしたカルチャーイベントを実施。日本食を振る舞い、特製うちわを配り、最後は盆踊りで締めました。皆、日本に対して高い関心と好意を持ってくれていて、国際社会における日本文化の持つチカラを改めて感じます。
日本人クラスメート5人で力を合わせ、日本をテーマとしたカルチャーイベントを実施。日本食を振る舞い、特製うちわを配り、最後は盆踊りで締めました。皆、日本に対して高い関心と好意を持ってくれていて、国際社会における日本文化の持つチカラを改めて感じます。

多様性を確保することがなぜ重要なのか?

組織には多様性が必要であるというのは今や多くの人が言うことです。先日も授業でGoogle元CEO・アルファベット元会長のエリック・シュミット氏や、ヒューレット・パッカードのCMOであるアントニオ・ルシオ氏が多様性の重要性を強調していたのですが、しかしその実「なぜそれが重要なのか?」という明確な説明はあまり聞いたことがありません。

ルシオ氏に尋ねたところ、リサーチなどを根拠にしているわけではないけれども…と前置きした上で「性別・人種などの多様性の高いチームでは、さまざまな視点が生まれ、議論が活発になる」、そして「自社内だけでなく、取引先である広告会社にも社員の多様性の確保を強く要請している」とのこと。企業トップが熱心に語るのはよいのですが、多様性のメリットに関する説明が不足しているという印象を受けました。

マッキンゼーの行った366社を対象とした調査結果によると「経営陣における人種の多様性が高い上位25%の組織は、同業の他組織の中央値よりも35%業績が良い」「経営陣における性別の多様性が高い上位25%の組織は、同業の他組織の中央値よりも15%業績が良い」、また「経営陣における人種と性別の多様性が低い下位25%の組織は、同業の平均業績水準に達しない」とのことで、多様性が業績に直結する競争優位として働いている可能性を示唆しています。

出典:www.mckinsey.com/business-functions/organization/our-insights/why-diversity-matters

またLGBTマーケティングラボでは、多様性を受け入れることによるプラスの影響を以下のように紹介しています。(Scientific American誌の2014年記事から引用、下線は筆者)

私たちは、自分とは異なる人々と関わることで、より一層独創的に、寛容に、そして努力家になれる。長年に渡る科学研究所、心理学者、社会学者、エコノミスト、人口統計学者の研究によって、多様な人々(人種、民族、ジェンダー、 性的指向など)は均一的な人々より、革新的であることが証明されている。非凡で難解な問題解決を行う際、多様な専門知識を持つグループが、均一的な人々しかいないグループよりも優れていることは明らかだと考えられている。社会的な多様性についても専門知識と同じように思われるべきだ。しかし、社会的な多様性も同じような利点を持っていることは科学的にも証明されているにも関わらず、一般的にはあまり知られていない。これは、多様な背景を持つ人々が新しい情報をもたらすからだけではない。ただ単純に、異なったグループの人々と関わることが、常識的な枠に捉われない視点を養い、意見の一致を得る難しさを乗り越える訓練になるからだ。

出典:http://lgbt-marketing.jp/2017/03/22/howdiversitymakeyousmart/

スタンフォードで体感した多様性の二つのメリット

授業では、文化×職業背景が全く異なる多様性の高い4~5人の小規模チームで動きます。左から2人目はプロジェクトについてアドバイスしてくれたアウトドアブランド「パタゴニア」の元COO、ペリー・クレバン氏。
授業では、文化×職業背景が全く異なる多様性の高い4~5人の小規模チームで動きます。左から2人目はプロジェクトについてアドバイスしてくれたアウトドアブランド「パタゴニア」の元COO、ペリー・クレバン氏。

私が多種多様な背景を持つスタンフォードのクラスメートと共同作業をする中で、一人の日本人として実際に感じたことを、あるプロジェクトを通じて紹介します。

チームメンバーはインド系アメリカ人男性のIT系シリアルアントレプレナー、ドイツ系アメリカ人男性の軍人、インド系アメリカ人女性のコンサルタント、インド系シンガポール人男性の投資銀行マン、日本人男性の広告マン(私)という構成でした。この5人で、アウトドアブランド「パタゴニア」のイノベーションを課題に取り組んだのですが、その中で二つの気付きがありました。

一つ目に、各人の職業背景が全く異なるため、スキルの引き出し・問題へのアプローチ方法が異なる。それによって、本件のような正解がない難しい課題であっても、どこからか突破口が開かれるということを度々経験しました。

例えばIT系シリアルアントレプレナーだったクラスメートが、環境保護を強力に訴えるパタゴニアのサプライチェーンを広くアパレル業界に普及させるという課題に対して、ソフトウエアのオープンソース開発の手法を応用したらどうか、というアイデアを出してリードしてくれたことがありました。一方で空軍特殊部隊出身のクラスメートはビジネス経験がほとんどないにもかかわらず、状況を適切に把握し「いつまでにこれをやらなくてはダメだ」と強力なリーダーシップを発揮してくれました。

仮に行き詰まっても、チームの誰かが他の人にはできない発想や動きで膠着状態を切り崩すことができる。プロジェクトが停滞してしまう時間がほとんどなく、早いスピードで一定のアウトプットに到達できることを実感しました。

二つ目の気付きは、各人の職業および人種・文化背景が異なるため、共通の認識が少ない点です。それゆえに、コミュニケーションを成立させるためには必要なことは全て口に出す必要があります。遠慮なく率直な意見やフィードバックが交わされ、いつしかそれが当たり前になるのです。

例えば、私が何か主張して、その直後に「俺はおまえの意見に反対だ」と正面からひっくり返されることや、クラスメートのそのようなやりとりを見ることは日常茶飯事です。こちらも「言いたいけど言えない」「これを言ったらどう思われるかな」という躊躇が次第になくなっていきます。結果的にコミュニケーションが明確で伝達効率が非常に高く、さらに本音で話すため本質的な議論に発展しやすいと感じています。またハッキリと言い切ることは、自分の覚悟や立ち位置が周囲に対して明らかになり、いろいろな意味で実際の行動につなげやすくなることもメリットだと感じます。

多様性が新しいモノを生み出す力になる

職場の仲間内でチームを組むと同質性が高くなります。例えば電通で行われるミーティングで最も多いと予想される属性のパターンは「広告業界出身×日本人×男性」ではないでしょうか。すると、課題解決の際に「業界の常識などに縛られて、皆が同じところで引っかかって動けなくなってしまう」「皆の保有している経験・スキル・視点が似通っているので、新しい突破口を見いだせない」といったことに陥る場合があるかもしれません。しかしそこに異業種から転職されてきた方、海外から来られた方、異なる世代の方、その他違う属性の方たちが加わったらどうなるでしょうか? そのミーティングの可能性・価値が大きく変わるだろうと思います。

課題によっては同質性の高いチームがうまく機能することもあるでしょう。しかし正解がない課題や、全く新しい発想が求められるような場合は、多様性の高いチームの方が成果を出せる可能性が高いと感じます。組織の中に多様性を保つことは、新しいモノを生み出す力、ひいては組織が自分自身を見つめ直し変化させていく力を与えてくれるかもしれません。

次回は急速に変化する「アメリカのメディア業界」について触れたいと思います。