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スタンフォードで見たメディアの潮流

スタンフォードで広告会社の未来を考える №2

  • 四之宮 壮平

2018/04/27

スタンフォードで見たメディアの潮流

スタンフォードビジネススクールのキャンパス。「Knight Management Center」という名がついており、卒業生としてキャンパスリニューアルに多額の寄付をされたナイキ創業者のPフィル・ナイト氏にちなんでいます。 屋上には太陽光パネルが設置されています。
スタンフォードビジネススクールのキャンパス。「Knight Management Center」という名がついており、卒業生としてキャンパスリニューアルに多額の寄付をされたナイキ創業者のPフィル・ナイト氏にちなんでいます。屋上には太陽光パネルが設置されています。

皆さんこんにちは。今回のテーマは「アメリカのメディア業界」についてです。

スタンフォードでは年に1回「Future of Media Conference」というメディアと業界をテーマとしたカンファレンスが行われます。主催しているのは、スタンフォードビジネススクールの学生クラブである「Arts, Media and Entertainment Club」。業界の経営者やジャーナリストを招いて、キーノートスピーチやパネルディスカッションが終日行われます。今回はここで聞いた話を中心にお伝えしていきます。

もはや、何をもってメディアと呼ぶのか?

スタンフォードおよびシリコンバレーでメディアが語られる際に必ず触れられるのがこの問題です。2000年代から「メディア=4マス+インターネット」というくくりがされてきましたが、現在はさらに多種多様なプレーヤーが参入しています。「携帯電話キャリアであるベライゾンのAOLおよびヤフー買収」「電話会社であるAT&Tのタイム・ワーナー買収の動き」「Netflixの急成長」「Google傘下でのYouTube・REDの動画サービス展開」。同じく「Facebook Watchによる動画サービス展開」「Amazonのワシントン・ポスト買収に、Amazonプライムによるコンテンツ配信」「Appleの動画サービス展開」「Vice Media/Vox/BuzzFeedなど中堅デジタルメディアの成長」など、これまでメディアと関係がなかった他業種の参入により複合的な業界へと変わっています。

大きな構図としては、規格外のスケールで君臨するFacebook・Google・Amazon・Apple・Netflixらのテクノロジープラットフォーム勢に対して、伝統メディアや通信会社が買収・統合によって対抗する、という見方ができそうです。

特に伝統メディア関係者に大きな衝撃を与えているのが、実質的なメディアコンテンツ最大の配給元と化しているFacebookとGoogleです。Facebookはユーザー数20億人超(InstagramやWhatsAppなどの傘下サービスを加えるともっと多い)。Google傘下のYouTubeはユーザー数15億人超と「地球上で最大のリーチを誇るメディア」といえます。実際、自社および他社の作成したコンテンツの流通を担うことで場に人を集め、広告配信で収益を上げるビジネスモデルが展開されています。その他のメディアからすると彼らは、自社コンテンツを流通してくれるパートナーであり、同時に自分たちの視聴者を奪うライバルでもあるわけです。

「あなたたちはメディアなのではないですか?」。カンファレンスで彼らが壇上に上がると必ず参加者から聞かれる質問です。この点について2社は「メディアではなく、テクノロジープラットフォームである」というスタンスを崩しません。

カンファレンスにはジャーナリストを中心に、メディア関係者、学生ら200人ほどが参加。メディア側の参加者がこちら:The Information、Quartz、IRIS.TV、Facebook、Matter、Mashable、Verizon
カンファレンスにはジャーナリストを中心に、メディア関係者、学生ら200人ほどが参加。メディア側の参加者がこちら:The Information、Quartz、IRIS.TV、Facebook、Matter、Mashable、Verizon

本当に価値のある情報をつくる「クオリティー・ジャーナリズム」

業界が大きく変わりつつある中、カンファレンスでは主にジャーナリズムの視点からニュースメディアが語られました。危機意識を持ったジャーナリストやビジネス人材が、伝統メディアから飛び出して新興デジタルメディアを立ち上げています。その背景にあるのは、長くメディア業界を支配してきたアテンション(=多くの人に見てもらうことが目的)中心の考え方を改め、受け手にとって本当に価値のある情報をつくるという「クオリティー・ジャーナリズム」の考え方です。

例えば、カンファレンスで登場したThe Informationという新興メディアは、シリコンバレーのテクノロジー企業や業界情報に特化した非常に深いコンテンツを提供することで、基本プラン=年間400ドルという高額な購読料=サブスクリプションモデルを実現しています。創業者のジェシカ・レッシン氏は名門ウォールストリート・ジャーナル出身のIT分野に強いジャーナリストで、「読者の強いニーズがある特定分野に絞り、他では得られない価値の高い情報を提供することで、コンテンツに対する購読料を課金する」という、顧客ニーズを中心とする商売の基本に立ち返ることの重要性を説いていました。

また、Mediumという新興メディアは、ジャーナリストやライターなどのクリエーティブ人材を集めたプラットフォームをつくり、そこでアルゴリズムによる消費者とのマッチングを提供しています。The Informationとは逆に、幅広く多様な消費者のニーズに応えるために、書き手をクラウドソースするという方法を用いています。創業者であるエヴァン・ウィリアムス氏はブログブームの火付け役となったBloggerの創業者であり、またTwitterの共同創業者・CEO・会長を務めた人物です。彼の目指すところは、Mediumを「あなたが、他のどこでも手に入らないユニークなアイデアや視点を手に入れられる場所。あなたが、世界中の優れた書き手とつながる場所」とすること。ビジネスモデルは広告課金を一切行わず、月額5ドルからの購読料によります。

FacebookとGoogleも、クオリティー・ジャーナリズムの重要性を尊重し、メディアとの友好的かつ生産的な関係づくりを強化しているようです。「Facebook・ジャーナリズム・プロジェクト」や「Google・ニュース・ラボ」といった新組織で、伝統メディアのジャーナリストやビジネス人材を積極的に登用し、メディアとの対話を強化し自分たちがどのような支援ができるかを真剣に検討しています。フェイクニュース問題が社会的に大きなインパクトを与えていることを背景に、「プラットフォーム上で流通するコンテンツの信頼性を担保する」ための機能を構築していくことが考えられます。

日本のメディアに対する示唆

アテンションからクオリティーへ。価値あるコンテンツの対価として購読料をもらうサブスクリプションモデルを収益の中心へ。よくよく考えれば至極当たり前と思えるようなことばかりです。アメリカの伝統メディアがもっと早くデジタル化に対応し、読み手にとっての価値の追求や新しいコンテンツの提供の仕方に舵を切ることはやはり難しかったのでしょうか。またFacebookやGoogleと、先手を取って関係を構築し、新しいメディアの生態系づくりを先導することができなかったのはなぜか。

根本には新しいモノや変化への恐れがあるように思います。ただしこれはメディア業界に限ったことではなく、金融でも広告でも、自動車などの製造業や小売業であっても同様だと考えられます。現在スケールした状態にある組織は、古い時代に収めた成功のおかげで利益を享受しているケースが多い。すると新しいモノに対応する・自らを変えるということは、往々にして過去の成功を自ら捨て去ることにつながります。そのような選択から目を背けたり、逆に守りを固めてしまったり、失敗のリスクを恐れて判断が鈍ってしまうのは人間のさがなのかもしれません。

次回は、組織がいかにして新しいモノに対応し、己を変えていくことができるか。「イノベーション」をテーマにお伝えしたいと思います。