「SNSビッグデータ」がインバウンドマーケティングを加速する
2018/06/01
ソーシャルメディアから生まれる多様なデータを基に新しいマーケティングやビジネスを考える、電通ソーシャル・インサイト・ラボ。その立ち上げメンバーである江頭瑠威が、インバウンドマーケティングにおけるSNSビッグデータの活用や、AIを活用した翻訳サービスなど、新たに生まれつつあるビジネスチャンスについて紹介します。
<目次>
▼訪日観光客は過去最大の2869万人。観光産業のステークホルダーも増加
▼中国人観光客の“コト消費シフト”をいち早く捉えたSNSビッグデータ解析
▼SNS解析から生まれたソリューション「モスト穴場ポイント」と「ついで観光」
▼大量・多言語のSNSデータをマーケティングデータに変えるための課題は「翻訳精度」
▼「トリップテック」がインバウンドマーケティングを変えていく!
訪日観光客は過去最大の2869万人。観光産業のステークホルダーも増加
2017年、訪日観光客数は2869万人を超え、過去最高となりました。旅行会社、ホテル、航空会社、鉄道、流通・小売りなどの業種で、インバウンド(訪日外国人観光)マーケティングへのニーズが高まっています。
また、そうした直接的に観光客と接する企業だけでなく、観光政策を考える地方自治体向けの分析サービス、外国人向けの情報配信サービス、そして機械翻訳サービスなど、インバウンドマーケティングの取り組みはさまざまな周辺分野にも拡大してきています。
観光客に目を向けると、2度目、3度目の来日となるリピーターも増えてきました。それに伴い、今までのような定番の観光地だけではなく「日本人でも行ったことのない地方」や「名所を見物することや買い物だけではない、さまざまなアクティビティー」への関心が高まりつつあります。
こうした状況を踏まえた、最新のインバウンドマーケティング手法を見ていきましょう。
中国人観光客の“コト消費シフト”をいち早く捉えたSNSビッグデータ解析
訪日外国人観光客の実態調査は過去にも行われてきましたが、使われる言語が多様であることが大きなネックとなっていました。調査方法も「駅や観光名所での直接アンケート」などが中心で、膨大な来訪人数に対して十分な量を確保できず、実態がつかみづらい状況でした。
そうした中で注目され始めたのが、SNSビッグデータのマーケティング活用です。
SNSビッグデータ活用の一例をご紹介します。私たち電通ソーシャル・インサイト・ラボと電通北海道、NTTデータは15年、北海道庁から受託し、北海道における訪日外国人観光客の嗜好・動態分析を行いました。
当時は報道などで中国人観光客の“爆買い”に注目が集まっていました。しかしこの北海道の調査で、実際の中国人観光客の投稿内容を分析すると、前年に比べてモノ(お土産や買物)に関する投稿よりもコト(体験型の観光)に関する投稿の方が量が多く、観光動態がモノ消費からコト消費へとシフトしていることが見えてきました。
これはSNSというメディアの特性もあり、「少し先に起こるであろう現象」の兆しをいち早く捉えることにつながったのではと考えています。
SNS解析から生まれたソリューション「モスト穴場ポイント」と「ついで観光」
従来のインバウンドマーケティングというと、訪日観光客の動態や嗜好の“分析”のニーズが高く、電通にも官公庁、地方自治体、公共交通機関、観光関連事業者からそういった相談が多く寄せられていました。
しかし訪日観光客が急増する現在では、分析にとどまらない「具体的な打ち手」を求められるようになってきています。
こうした中、訪日観光客の人の流れや、その地域での滞在時間などといった「動態」だけでなく、「何を楽しんでいるのか?」「その観光資源をどのように評価しているのか?」という「嗜好性」まで分かるSNSビッグデータは、マーケティングリソースとして重要度を増しています。
ここで、電通ソーシャル・インサイト・ラボがクライアントと共に開発したソリューションを二つ紹介します。東北地方を訪れた外国人観光客の声をSNS解析で抽出し、それをベースにフレームワーク化したものです。
1.モスト穴場ポイント(MAP)―穴場観光スポットを発見する指標
SNS解析結果に基づき「話題量自体は少ないが、来訪者のポジティブな投稿のシェアは高い観光スポット」を見つけるフレームワークです。
まだあまり知られておらず、新たに訴求すべき「穴場」な観光スポットを定量的に見つけることができます。
2.ついで観光とついでお土産分析
「特定の地名と共起(同時に投稿)されており、かつポジティブな評価の高いキーワード」を、観光、グルメ、交通、ショッピング、スポーツの五つの視点から解析し、「その地名の近くにいるときについでに立ち寄ることをオススメできる場所」や「その近くでオススメできるお土産」を抽出します。
大量・多言語のSNSデータをマーケティングデータに変えるための課題は「翻訳精度」
SNSビッグデータがマーケティングリソースとして有効なのは間違いありません。しかし、どんなに高度な分析技術があっても、リソースとなるデータ自体の精度が粗ければ、アウトプットは良いものにはなりません。特にインバウンド向けのマーケティングで命ともいえるのが「翻訳の精度」です。
SNSビッグデータの分析では、英語、中国語、韓国語といった多言語かつ大量のデータをどのように素早く翻訳し、精度高く日本語のデータに整え、解析にかけるかといった一連のフローが重要になってきます。
例えば、私たちソーシャル・インサイト・ラボがある有名な機械翻訳エンジンを使って「日本の東北旅行に関する外国人の発言」をSNSで収集し、分析を行っていたところ、仙台の武将・伊達政宗(DATE MASAMUNE)が「デート マサミューン」と訳されてしまうといった現象が発生しました。時に100万件以上に及ぶ投稿に対し、地名や人名、お土産など、地方の固有名詞を正確に訳すことは、既存の機械翻訳ソリューションでは難しいことなのです。
つまり、「訪日外国人のSNSでの発言を、観光用語や地域の固有名詞まで含めて正しく翻訳するソリューション」が必要です。
「トリップテック」がインバウンドマーケティングを変えていく!
インバウンド向けマーケティングの一連のフローを整理してみましょう。
この図を見て分かる通り、精度の高い翻訳が必要な場面は「観光動態・嗜好分析」のフェーズだけではありません。「施策実施」の段階でも、「施策の効果測定・調査」の段階でも、常に精度の高い翻訳が求められます。また、それぞれの段階で、単なる翻訳だけでなく、大量のデータを素早く処理するためのテクノロジーも必要です。この「大量の多言語翻訳」問題は、インバウンドマーケティング費用を押し上げる大きな要因でもありました。
こうしたインバウンド観光に関わるマーケティングの課題を解決するためには、「旅」をデジタルに捉え、PDCAを推進していくテクノロジーが必要になります。そこで、注目されるのが多言語翻訳とマーケティング施策の融合です。「旅のマーケティング」をドライブする、いわば「トリップテック」(Triptech)ともいうべきデジタル活用が急務となっているのです。
<今回の記事のポイント>
①インバウンド向けビジネスのニーズはB to Cだけではなく、B to Bでも高まっている。
②SNSビッグデータは訪日観光客の「今後のニーズの兆し」も明らかにできるが、データソースとして活用するには翻訳のコストや精度など大きな壁がある。
③翻訳も含め、観光にまつわるマーケティングをデジタル化し、インバウンドの「旅」マーケティングをドライブするニーズが高まっている。市場は「トリップテック」を欲している。次回は、インバウンドに特化した翻訳AI「ひかりクラウドcototoba」の開発に携わるNTT東日本・山本美希子氏に、これからのインバウンド観光マーケティングや、翻訳AIの可能性について伺います。