loading...

ウェルネス1万人調査を探るNo.1

「若者」の意識・行動からヘルスケア市場の未来を考える

2018/08/10

「若者のヘルスケア」。

この言葉に、どんな印象を持たれますか?「健康のことって、もっと年齢が上がらないと気にしないんじゃない?」「そもそも、ヘルスケアってどこまでを指しているのか分からないんだけど・・・」そんな声も多いことでしょう。

電通ヘルスケアプロジェクトでは、2007年から「ウェルネス1万人調査」という大規模定量調査を実施しています。2017年の結果を見ても、確かに、20代の若者は男女ともに目立ったスコアが出てきません。概論として、健康領域では女性の意識・行動は年齢が上がるごとに高まり、男性は60代にならないと意識も行動も変化しません。つまり、年齢が上がるほど健康意識・行動が高いというのは事実です。

ただ「自分が20代だった頃から周りの友達や同僚が体に良い飲み物や食品を選んでいるのを見てきた」「実は20~30代でもカラダのことを気にしている人は案外いるのでは?」「何で調査では出てこないのかなぁ…?」というのが、ここ数年、私がヘルスケア領域に向き合っているうちに実感として湧き上がった疑問です。

そんな課題意識もあって、2017年のウェルネス1万人調査には「食」や「運動」に関するベーシックな健康意識・行動項目以外に、ファンランやサップヨガ(スタジオで行うヨガではなく、サーフボードより少し大きいボードの上で、水の上に浮かんで行うヨガ)など、トレンド系の健康行動も交えて実施してみたところ、意外な結果が出てきたのです。

20代男性で、意外な結果が浮き彫りに!

調査実施前の仮説としては、20~30代女性の健康行動が可視化できるといいな、と思っていました。この年代の女性では、美容と健康がとても近いので、美容目的も含めてのトレンド系の健康行動なら、心理的なハードルも低く実施しているだろう、と。

でも、ズバリ!ふたを開けてみると、面白かったのは「20代男性」でした。

例えば、サップヨガやキックボクシング、エンタテイメント系のジム(クラブのような空間で自転車を漕いだりするアレです)などのフィットネス。近年、話題になりましたよね。

実感としては女性にウケている気がしていましたが、調査で浮き彫りになった実態は、グラフ1の通りです。20代の男性に圧倒的に実施経験がある。ボリュームの点で20代女性と良い勝負なのはクライミング・ボルダリングくらいです。

これらの進化系スポーツの実施理由を聞いてみると「楽しそう」という理由がトップではありますが、その次に「健康によいと思うから」が続きます。単純に趣味嗜好としてやってみたというだけでなく、「カラダのコト」もちゃんと頭の片隅にありそうです。

「他の性年代と比べて20代男性の実施率が最も高い」という傾向は、食の領域でも見られました。例えば、「グルテンフリー」(全体:2.9% 20代男性:7.0%)や「マクロビオティック」(全体:3.5% 20代男性8.8%)です。

ただ、これだけだと「単純に新しいモノ好きが飛びついただけなのでは?」という声も出てくるかもしれませんが、実はトレンド系の行動だけでなく、ベーシックな健康意識・行動の項目でも、20代男性の意識・行動増加が見られたのです。

ウェルネス1万人調査では、約50個ずつの健康意識、健康行動について経年でスコアをとっているのですが、それらを経年で見たところ、全体でも、性年代別でも、2017年はほとんどの項目でスコアが下がり、つまり意識や行動が下がったのです。特に、50~60代女性のスコアの下がり方は顕著でした。(これはこれで、大きなトピックスですが…)ところが、20代男性は16年と比べて多くの項目で微増していました。その一部がグラフ2と3です。ポイント差としては大きくないのですが、あらゆる性年代の項目のスコアが軒並み下がっている中では唯一の、非常に面白い動きでした。

どうやら、トレンドに敏感だというだけではなく、身体に関することに全般的に意識が高まり、行動も増えているように思えます。

20代男性の健康意識・行動が高まっている理由、4つの仮説

誤解を招かないように改めてですが、性年代別に比較した時に20代男性の健康意識や行動がボリュームとして多い、という事ではありません。ボリューム層ではない項目も多いです。ただし、15~17年の経年変化を見た時に、あらゆる意識・行動項目でスコアが増加する、という特異な動きが見られた層だった、という事です。

では上記を前提に、なぜこんな現象が起こっているのか、時代や環境も含めて考察してみたいと思います。

まず「20代」という年代について、2点の仮説をお話します。

①「身体への影響」もモノ・コトを選ぶ基準のひとつ

時代・世代という観点では、「健康的な選択肢を選ぶ」ことが、昔ほど特別なこと、頑張ってやらなきゃいけないではなくなってきており、その傾向は、若い人ほど強いのではないかと想像します。

昔に比べ情報量が増え、もちろん身体に関する情報も、手軽に沢山集められるようになりました。エビデンスを裏付けとした商品・サービスも増える中で、特に若い世代にとって、「身体に良さそう(悪そう)」という基準は、モノやコトを選ぶ時に自然に想起される選択基準の1つになりつつあるのだと思います。世代の価値観としても、 あらゆる点で“リーズナブル”な選択をしたい、という感覚もあるのではないでしょうか。つまり、あまり意識していなくても、自然に身体に良い選択肢を選んでいて(悪い選択肢を排除していて)、他の世代よりも底上げされたスタンダードを持っている、というイメージです。

②健康行動も個性や価値観の構成要素

加えて、ヘルスケア領域の商品・サービスにおいても、「かっこいい・かわいい・楽しい」ものが増えてきた、だから若年層が反応してくれる、ということもありそうです。極端に表現しますが、“単純に効能効果を得るためだけの健康行動が起こる時代は終わった”と思います。健康行動においても、自分の価値観を表現したいし、素敵なライフスタイルの一部として好みのモノ・コトを選んで取り入れていきたい、そんな期待に応える商品・サービスがだんだん増え、17年というタイミングで顕在化してきたのではないでしょうか。

次に、なぜ女性より男性なのか、という点について2つの仮説です。

①2017年は、若者のヘルスケアで一般化が進んだ年

まずは2017年という調査タイミング。2017年は、若者にとって目新しいヘルスケア領域の大ヒット商品・サービスは少なかったように思います。一方で、意識の高い一部の人が取り入れていたモノが、手に入れやすく一般化したタイミングであったのではないかと思うのです。

例えば、グリーンスムージー。少し前までは、家で作るとか、オシャレな街にあるスタイリッシュなお店で、少し価格が高くても買う、というイメージでした。しかしそれが、コンビニで買えるようになった。しかもヒットしているらしい、試してみようか、と思えるフェーズになってきた。つまり、これまで反応していなかった男性も、無理なく生活動線上で触れるようになり、健康文脈の商品・サービスが一定のプレゼンスを発揮して購買意欲を刺激したのではないか、と思うのです。若者においても、女性の方が健康意識・行動が高めであるという中で、男性も取り組みやすい環境が整ってきたタイミングだった、という事です。

②ヘルスケアも男女差が無くなる!?

ただ、上記の現象だけだと、男性はやっぱりフォロワーなんだ、ということになってしまいます。でも前述の通り、サップヨガやエンタテイメント系ジムなど、トレンド系の行動をいち早く実行しているのは男性の方が多いんですよね。これらはトレンドであると同時に、スポーツの進化系でもあるので、もともとスポーツの実施率が高い20代男性が、いつもの延長上で経験した、ということはあると思います。

一方で、一見矛盾する仮説なのですが、若者のヘルスケア意識・行動において、男女という性差がだんだん存在しなくなるのではないか、とも想像できるのです。「料理」が若者の間では男女差があまりなくなってきているのと同じようなイメージです。

ヘルスケアでいえば、例えば腹筋女子の登場といった現象に現れている、「ストイックに身体を鍛える」ということ。かつては、男性の方が実施割合の多かったことが、ライフスタイルの一つとして男女ともに浸透してきています。逆に、2017年から起きているサラダブームの男性への広がりは、「お昼休みにサラダランチを摂るのはOLの代名詞」だった時代が終焉し、男女ともにヘルシーな食事を選ぶことがスタイルとして定着している象徴だと思います。

そして、これから顕著に生活に影響するテクノロジー進化。ヘルステックの進化も目覚ましく、個人データに基づくパーソナライズされた健康行動がさらに増えていくでしょう。例えば、事前に尿や腸内細菌叢、遺伝子などを検査すると、自分に合ったサプリメントが組み合わせられて送られてくる、とか。こういったテクノロジーやデバイスには、男女関係なく意識の高い層が反応していくでしょうから、「20代女性の方が健康+美容モチベーションも持っているから、健康行動を起こしやすい」というこれまでの傾向だけに縛られていては、大事なステークホルダーを見逃してしまうのではないか、と思うのです。

2018年1/9~12にラスベガスで開催されたCESにて撮影。ヘルスケア領域では、Health&Wellness / Wearables / Sleep Tech / Fitness&Technologyといったカテゴリーで多数のプレーヤーが最先端のテクノロジー・デバイスを発表。

これからのヘルスケア

20代男性の多くが急に健康行動を取るようになるとは思っていません。むしろ、健康意識を持つ人、持たない人は二極化しています。意識の高い人においても、健康よりも「スタイル」や「楽しさ」の方が、評価軸としての優先順位が高いと思います。

ただし、「20代男性でカラダのことを気遣っている層」が確実に一定数存在することが分かったことが面白いと思うのです。その層に注目することで、新しい発想やヒントをもらえる可能性がありそうです。

そして、ヘルスケア領域においてかつてからのメインターゲットである50代以上の女性にとっても、若者のこういった感覚は案外響くのでは、と思います。例えば、楽しいお買い物が好きなバブル世代が50代に突入していく時代に、案外、若者の「健康も楽しく、かっこよく」という感覚が合うかもしれません。そんな事にも思いを巡らせると、「若者のヘルスケア」が今よりも具体的に、魅力的に、プランニングにおいても有用な視点だと思えてきませんか。

なにより、今後ますます高齢化が進む日本において、中には“カラダを気遣うこと、健康行動を起こすこと”が、「義務」で「何かを我慢して取り組むこと」だと感じる人もいるかもしれません。でも、それではなんだか暗い気分になりますよね。正しいことを正しいでしょ、と真面目に説得されても、やる気なんて起きないし。そんな訳で、「健康も楽しく」はこれからのヘルスケアマーケットを考える上で、大前提となるキーワードになると思うのです。