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注目のDMO(観光経営組織)に欠かせないものは?

場所をつくりたくなる、プレイス・ブランディング! №5

  • 若林 宏保

2018/10/18

注目のDMO(観光経営組織)に欠かせないものは?

最近、地方創生の切り札として「DMO」というテーマに注目が集まっています。DMOとは、「Destination Management/Marketing Organization」の略です。端的に訳すると「観光経営組織」です。最終回では、DMOの概要と問題点を明らかにしつつ、DMOづくりに欠かせないプレイス・ブランディングの思考法について解説したいと思います。

最近よく聞く「日本版DMO」って何?

2014年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、DMOが地方創生の柱の一つに取り上げられました。専門家によるとDMOとは、「観光に関する行政と民間事業者によるビジネス共同体」であり、「専門性と権限を持ったプロの組織である」と定義しています 。※海外ではすでに存在していた概念ですが、それを日本の現状に即して整備されたものが「日本版DMO」です。

日本版DMOには、地域単位に応じて、「広域連携DMO」(都道府県にまたがる単位)、「地域連携DMO」(市町村にまたがる単位)、「地域DMO」(単独市町村の単位)の3種類が存在します。それらを対象に次の五つの条件を満たすものを将来のDMO候補として、国が積極的に支援していこうというものです。

※高橋一夫(2017)「DMO-観光地経営のイノベーション」198pをもとに編集。

日本版DMOとは

①多様な関係者の合意形成の仕組みづくりがなされている。
②データを活用したマネジメントがなされている。
③関係者の事業と戦略に整合性がある。
④法人格を持ち、責任者が明確化した組織である。
⑤安定的な運営資金が確保できている。

DMOとプレイス・ブランディングの共通点

これまでの連載を通じて説明してきたプレイス・ブランディングとは、区画、通り、街、都市、地方など、柔軟な単位で場所を意味づけし、民間企業、行政、市民など、さまざまなアクターを巻き込んでいきながら、持続的に“場所”をつくり出していくことです。こうしたプレイス・ブランディングとDMOの共通点を探っていきましょう。

DMOとプレイス・ブランディングの対比

DMOは、対象単位を戦略的に設定し、行政と民間が連携し、さまざまな関係者の合意を形成しながら推進していくことが強調されており、本質部分は大いにプレイス・ブランディングと重なリます。

DMOは、きちんと組織をつくってマネジメントしていこうというものですが、一方、プレイス・ブランディングでは、さまざまなアクターたちと緩やかなネットワークをつくりながら、マネジメント能力というよりも、ビジョンに向かって方向付けしていくディレクション能力が問われます。ここに大きな違いがあるのかもしれません。

DMOを目指した取組事例:「諏訪の国」プロジェクト

ここで長野県「諏訪地方」における地域連携DMOを目指した取り組みを見てみましょう。諏訪地方は、諏訪市、岡谷市、下諏訪町、茅野市、富士見町、原村という六つの市町村で構成される地方です。

この地方の課題は、これまで市町村間の連携が少なく、各地においてバラバラの取り組みがなされていることでした。また、諏訪湖を中心としたエリアと、八ヶ岳を中心としたエリアでは素材となる資産も異なり、なかなか統合化しづらい背景がありました。

そこで、この地方を代表する7年に1度のお祭り「御柱祭」を期に、統一ブランドをつくろうという取り組みが始まりました。地域間の壁を取り払うために、各地の方々と対話を積み重ね、諏訪地方のブランドコンセプトを開発していきました。

私たち外部の人間にとって、この地方は神秘的で不思議なモノや出来事であふれていました。諏訪地方を囲むように存在する4宮の諏訪大社では、御柱祭の時には、山々から16本の柱を人力で下ろし、各宮に運び、4本ずつ立てていくという神事をまち一体となって行っていきます。

一方で、茅野市では、愛らしくてちょっと不気味な「縄文のビーナス」と呼ばれる縄文時代の土偶が見られます。

その他にも、空中に浮かぶようにつくられた危険なお茶室「高過庵」(たかすぎあん)や、岡谷市の絹糸づくりは、蚕からどのように糸を紡いでいくのか、自然と手作業の間にある神秘的なプロセスを垣間見ることができます。

また、諏訪湖は冬になると湖面が凍結するのですが、時々音を立てて亀裂が走ります。その自然現象を地元の方々は、神様が渡った痕跡と見立て「御神渡り」(おみわたり)と呼んでいます。

このように私たち外部の人間から見ると、諏訪地方は、“神秘的な物語に満ちた独特な国のような場所”だと感じるようになっていきました。ようやく見えてきたブランドコンセプトをもとに、この地を代表する三つのシンボルである「諏訪湖」「御柱」「八ヶ岳」が組み合わされたロゴが地元のデザイナーによってつくられ、「諏訪の国」プロジェクトが立ち上がっていったのです。

諏訪の国のブランドロゴ

プロジェクト開始からしばらくして、うれしい偶然の出会いがありました。ちょうどその時、若い世代の事業者の方々が諏訪地方をどうにかしようと計画しており、彼らと問題意識が合うことから、一緒に連携していこうということになりました。

その第1弾が八ヶ岳の「生とうもろこし」です。原村にUターンした若い農家の方が「メロンより甘いとうもろこし」を販売し、東京でレストランを経営している諏訪出身の方が、とうもろこしを素材にしたスイーツを開発し、それを諏訪出身の藤森慎吾さんがPRしてくれました。

「諏訪の国」第1号ブランド認定「八ヶ岳生とうもろこし」
「諏訪の国」第1号ブランド認定「八ヶ岳生とうもろこし」
「八ヶ岳生とうもろこし」を使ったスイーツ
「八ヶ岳生とうもろこし」を使ったスイーツ

諏訪出身の方々の熱い思いが記者に伝わり、その記事が多くのメディアで露出されました。もちろん「生とうもろこし」の売り上げも上々であり、第2、第3の新たな「諏訪の国」コンテンツが自発的に生まれる機運が高まってきました。このように、しっかりとした下地がつくられた上で、将来的にDMOが組成されるとうまくいくと考えられます。

*詳しくは、電通報をご覧ください。

“いきなりDMO”ではなく、“プレイス・ブランディング思考”でじっくりと下地づくりを。

まだまだ道半ばですが、以上が「諏訪の国」プロジェクトの事例です。地域資産を読み解き、若い世代の事業者との出会いを通じて、魅力的なコンテンツが生み出され、それが世の中に伝わっていくことで、成功体験が得られます。こうした内発的で自走するプレイス・ブランディングの醍醐味を感じていただけたでしょうか?

最後に日本版DMOのお話に戻しましょう。確かに、さまざまな民間企業が、それぞれ専門的スキルを持ち寄るとレベルの高いサービスが期待できるかもしれません。

しかし、私はそれだけでは何か足りないような気がします。課題の捉え方が表層的になり、画一的な課題解決手法に偏ってしまい、その場所の独自性を見いだせないまま終わってしまう可能性もあるでしょう。

そこで、私が提案したいのは、早急にDMOをつくる前に、その前段階として、“プレイス・ブランディング思考”を取り入れることです。

そうすることで、独自の課題を見つけ、あるべき方向性を描き、それに共鳴するキープレーヤーとの出会いを通じて、真に場所に根ざした組織を育成していきます。外からの専門家が集まって解決する組織ではなく、ローカルに価値を見いだす次世代の起業家の方々がつながっていく結果としてDMOが立ち上がっていく姿が理想形ではないでしょうか?

現在、DMOづくりでお悩みの方々は多くいらっしゃると思います。急いで立ち上げる前に、ぜひプレイス・ブランディングの思考法をヒントにしていただければ幸いです。

以上で5回にわたるプレイス・ブランディングの連載を終わりたいと思います。多くの方々に読んでいただきありがとうございました。プレイス・ブランディングを明日から実践したいと思われた方々は、ぜひ本書を手にとっていただけるとうれしいです。

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