「偏愛ストラテジー」~ファンの心に火をつける6つのスイッチ~No.1
接点をつくる「よりそいスイッチ」
2018/10/24
はじめまして。石原夏子と申します。
ウェブ電通報でも取り上げられたことのある「ファンマーケティング」。
今までの売り方では売れない、今までの広告では伝わらないという悩みに直面されている広告主やマーケターからは、顧客とつながり、売れ続ける手法として数年前からよく聞く言葉です。この連載ではそんなファンマーケティングについて、私のあるアーティストへのファン経験をきっかけに生まれたストラテジーを解説していきます。
「偏愛」をつくる6つのスイッチとは
コミュニケーションの世界でも、ファンと非ファンへそれぞれどうコミュニケーションを取るのか、ファンコミュニティをどうつくり、運営するのかなどの課題に取り組むことがあります。
普段そんな課題にクリエーティブやプランニングの視点で向き合っている私ですが、
ある日、気づいたのです。
もしや…私こそがファンづくりの成功事例ではないか…!と。
なぜなら私自身がとあるアーティストのファンを20年以上続けているのです。ライブに行き続け、ファンクラブからも脱落せず、CD(最近は配信)もグッズも定期的に買い続けている。友人たちがあきれるほどの、言うなれば「偏愛」の塊だからです。
冷静になって自分の歴史を分析してみると、数々の体験を通じて、偏愛度が高まったきっかけが見えてきたのです。「あ、あのときハマったな」とか「あの発言が印象的だったな」とか。
そしてそれを私個人にとどまらず、広く普遍的にマーケティングやコミュニケーションにあてはまるのではないか、とまとめたのが「偏愛ストラテジー」という本です。
書籍では、私の個人的な偏愛の歴史(スイッチが入った瞬間)を漫画でゆる~くご紹介しつつ、6つのスイッチを「ストラテジー」としてまとめ、最新事例を交えて解説していますが、ウェブ電通報のこのコラムでは、ファン目線から導き出した「ファンの心に火をつけるスイッチ」をダイジェストでご紹介していきます。
さっそくですが、その6つのスイッチとは…
1 接点をつくる「よりそいスイッチ」
2 偏愛を深める「特別扱いスイッチ」
3 偏愛を維持する「言霊スイッチ」
4 脱落を防ぐ「仲間スイッチ」
5 ファンが促す「自分ごとスイッチ」
6 ファンを増やす「拡散スイッチ」
これらのスイッチが時系列で入るとは限りませんが、ファンづくりの一般的な順番としてひとつずつ解説していきます。
そもそも「ファン」ってどんな存在?
ですが、最初の「よりそいスイッチ」に入る前にいくつか。
送り手(ブランドやサービス、人、コンテンツなど)と受け手(ファン)は必ずしも企業と消費者の関係性ではありません。個人同士かもしれないし、お金を払うからファンだとは限りません。
ではファンとは何なのか?
私は「送り手の『次』に期待している人」と考えています。
送り手と受け手双方が長期間幸せなつながりを持つためには、過去の商品や作品がよかったということだけではなく、未来の結びつきがあることが重要です。たとえば、ミュージシャンも美容師も食品メーカーも「好きだよ」「よかったよ」「おいしかったよ」だけでなく「次も楽しみにしているよ」「また来るね」とファンに言われることです。この「次への期待」がうまく送り手と受け手をつなぐと、送り手がさらに新しい価値を生み続けられるからです。
最初の接点をつくる「よりそいスイッチ」を入れる方法
本題に戻りましょう。
まずファンづくりをするにも「最初の接点はどうやって作ればいいの?」と疑問を抱かれると思います。
長く愛してくれるファンをつかまえたいならば「よりそいスイッチ」を入れましょう。
心の機微によりそう、つまり気持ちのアップダウンのタイミングによりそうことです。送り手目線で言うと、人の気持ちのアップダウンがあるタイミングを「狙う」ことです。
私個人の体験で言えば、私がその音楽に出会ったとき、当時の私の悩みにぴったりで、落ち込む日々を励ましてくれたのです(詳しくは書籍の漫画で見てくださいね)。当時の音楽を聴くと、ハマった時の心持ちを思い出して、ちょっとセンチメンタルになります…。
「モノやサービスを売るには機能的価値や情緒的価値が顧客のニーズに合っていることが重要」というのはよく言われることだけれど、では「なぜ気持ちの『アップダウン』が重要なのか」と疑問に思われる方もいるかもしれません。
先ほどお話ししたようにファンと消費者は必ずしも同じではありません。ニーズで消費者は捕まえられても、ファンには「偏愛」が必要です。個人的な感情と結びついている偏愛には、便利だとか良いものだからということ以上に「私のことを分かってくれる」「私が好き」と思えることが重要です。世の中には便利なサービスも素敵な商品も星の数ほどありますが、「私のことを分かってくれる」と納得できるものは少ないのです。
そして納得するには、「私」(つまり受け手)自身が何か困っていたり(気分がダウン)、あるいは喜んでいたり(気分がアップ)するときに傍らにあるもののほうが印象に残るのです。ときにはエクストリーム(極端)なタイミングのほうが、良さを実感しやすくなるからです。例えば何のへんてつもない塩むすびは、海外旅行から帰ってきたときに食べると「うん! これこれ! やっぱり塩むすびが一番好き!」とファンになったりしませんか?(極端な例ですけどね)
ファンとの出会いは、ぜひその商品やサービスが受け入れてもらえるような機会を狙って「よりそいスイッチ」を入れてください。
第1回は、「よりそいスイッチ」のお話でした。次回は移り気なファンの偏愛度をどう高めていくのかを考えていきたいと思います。