スポーツにイノベーションを!SPORTS TECH TOKYONo.2
テクノロジーがスポーツを変える!スポーツテック最新事例
2019/01/21
電通とベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズ(米サンフランシスコ)は、世界中のスタートアップに向け、「スポーツ」をテーマにしたワールド・アクセラレーション・プログラム「SPORTS TECH TOKYO」を実施します。
当連載では、テクノロジーがスポーツに何をもたらすのかをさまざまな角度から考察します。今回はスクラムベンチャーズの創業者でジェネラルパートナーを務め、アメリカのスタートアップ事情に詳しい宮田拓弥氏を招き、日本ではまだなじみの薄いスポーツテックの最新事情を紹介します。
パフォーマンスに貢献する「Play Sports」のテクノロジー
中嶋:スポーツビジネスの巨大マーケットであるアメリカでは、テクノロジーの導入もかなり進んでいるのでしょうか。
宮田:アメリカのスポーツ界には、AIやIoTなどの先端テクノロジーがどんどん導入されています。アメリカに限らず、スポーツにおけるスタートアップへのグローバルでの投資額はここ6年で8倍以上に成長し、2018年時点で約25億ドル(2700億円)に到達しました。
中嶋:すさまじい成長スピードですね。日本はまだまだこれからという感じで、スポーツにテクノロジーをどのように取り入れていけばいいか模索している段階です。スポーツテック先進国のアメリカでは、どのような事例がありますか?
宮田:まず、アスリートに役立つテクノロジーを集めた「するスポーツ」(Play Sports)というカテゴリーから、プリベントバイオメトリクス社の事例を紹介しましょう。
プリベントバイオメトリクス
https://preventbiometrics.com/
宮田:最近は日本でもさまざまなスポーツでマウスピースを着けることが増えましたが、アメリカではアメフト選手のマウスピースに衝撃センサーを組み込んだ、いわばスマートマウスピースの実証実験がスタートしています。
アメフトの試合ではタックルを受けた選手が頭を打ち付けてしまうことがあり、そのダメージの蓄積が脳震とうにつながります。これはアメフトが抱える大きな問題となっています。
そこでこの“脳震とう検知マウスピース”を装着することで、選手がどれくらい頭部にダメージを受けているかを計測し、そのデータがリアルタイムでコーチの端末のアプリに表示されるようにしたのです。
コーチはプレーヤーのダメージの状態を確認しながら、脳震とうを起こす前に交代させることができるようになります。また、万一、脳震とうを起こしてしまった際には、取得したデータを医師と共有することで、適切かつ速やかな治療につなげられます。
中嶋:これまでだと「大丈夫か?」と口頭で確認したり、ダメージが軽そうだからプレーが続けられると感覚で判断したりしていたことが、データに基づいて的確にジャッジできるようになってきたのですね。コーチが試合中に選手のボディコンディションをアプリでチェックしながら、どの選手といつ交代させるかということを考えて戦略を練るという、高度な戦いになってきている感じがします。
このマウスピースには、日本の大手電子部品メーカーも投資しているんですよね。
宮田:はい、電子部品メーカーに限らず、スポーツ系スタートアップと共に新しいチャレンジをしたいという企業は数多く存在します。まさにSPORTS TECH TOKYOが目指す形に近い事例だと思います。
観戦体験をアップデートする「Watch Sports」のテクノロジー
中嶋:次に「観るスポーツ」(Watch Sports)の分野では、どのようなスポーツテック事例がありますか?
宮田:テクノロジーを駆使した新しいチケットの買い方を提唱する「IdealSeat(アイディアルシート)」というサービスがあります。
アイディアルシート
https://idealseat.com/
宮田:例えば野球のスタジアムを訪れる観客は、それぞれ異なるニーズや目的を持っています。スタンドに飛び込むボールを取りたくてグローブを持ってくる子どもや、選手との一体感を求める熱烈なファン、あるいは試合観戦はそこそこに、食事をしながらのんびりくつろぎたい人もいるわけです。
IdealSeatは「スタンドでボールが飛んできやすいエリア」「選手を間近に見られるエリア」「グッズ売り場や食べ物の売店に近いエリア」などのデータを持っており、チケット購入者のニーズに合わせた最適な席を提案できます。どこの売店やトイレが混みやすいかなども分析されているので、例えば小さな子ども連れの家族なら、比較的すいているトイレが近いエリアの席を確保するといったことも可能です。
すでに130以上のスタジアムをカバーしており、独自のアルゴリズムで4.5億のデータポイントを同時に分析可能です。IdealSeatを導入したチケット販売の事例では、コンバージョンレートが96%向上、売り上げが10倍以上に増加といったケースもあるそうです。
中嶋:確かにスタジアムは広いので、現地に行ってから探すとなると、どこにどのような施設があるか分かりにくいですよね。それに、ボールが取りやすいシートや選手との距離が近いシートは体験性が高まります。スポーツだけでなく、音楽イベントなど他のエンターテインメントでも応用できそうですね。
宮田:また、スポーツチームにとっては、チケット代だけではなく、グッズの購入やファンクラブへの加入、飲食などもビジネスの大きな要素です。来場者のニーズに合ったシートを販売することで、「熱烈なファン」と「グッズ売り場」、「飲食を楽しみたい人」と「売店」など、買いたい人と買いたいものを近づけることは、ビジネスチャンスの拡大に繋がるでしょう。
選手とファンをつなぐ「Support Sports」のテクノロジー
中嶋:最後に「支えるスポーツ」(Support Sports)です。スポーツは「自分の出身地や出身校のチームを応援したくなる」といった、エンゲージメントの要素も大きいですよね。
宮田:おっしゃる通りで、アメリカでは地域のスポーツとスポンサーシップのエンゲージの機会を発掘して、マッチングするためのさまざまなオンラインプラットフォームの構築が進んでいます。
中嶋: 日本でも、スポーツチームや選手へのエンゲージメントを高めるサービスは徐々に増えています。例えばventusによる「whooop!」(フープ!)というデジタルトレーディングカードのサービスは、「カードで、チームの一員に。」をキャッチコピーにしています。つまり、カードを購入したチームや選手に売り上げが還元される仕組みになっており、また、ファン同士でのトレーディングやチームからの購入特典などさまざまな要素でエンゲージメントを高めます。
こうしたサービスでは、カードの発行枚数を限定的にしてコレクション性が高まるような仕組みも可能です。ファンは自分の好きなチームや選手を熱狂的に応援している気持ちになれますね。
フープ!
https://whooop.jp/
宮田:最近はファンの好みも多様化しています。テクノロジーの活用により、トップチームだけではなく、アマチュアスポーツへの広がりで多様な接点を生み出していくと、こうしたサービスはますます成長していくのではないでしょうか。
そしてスポンサーシップという部分でも、これからのスポーツは消費者に対してブランドを売るだけでなく、体験も含めたいろいろな形でアプローチできます。スポーツを通じた企業と消費者との新しいつながりがつくれるのではないかと感じています。
中嶋:今回宮田さんのお話を伺って、スポーツへのテクノロジーの導入が進んでいることを感じるとともに、スポーツテックはさまざまな企業や関係者を巻き込める、非常に大きなビジネスチャンスだという印象を改めて持ちました。
宮田:スポーツが大きなビジネスであることや、スポーツにさまざまなテクノロジーが必要とされていることはみんな分かっているのですが、スポーツ業界やスポンサー企業は先端技術をどのように取り入れていけばよいのかを、まだまだ考えています。
そこに、今回紹介したような先端技術を持ったスタートアップ企業が入ってくることで、スポンサー企業もスポーツと関わりやすくなり、スポーツビジネスに大きな変化が起こっていくと感じています。
中嶋:まさに、SPORTS TECH TOKYOがそういう「場」として機能できるようにしていきたいですね。本日はありがとうございました。