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#採用活動は企業ブランディングのチャンス!No.3

最新の採用事情から考える、企業をブランディングする方法

2019/04/15

電通PR内の研究組織である企業広報戦略研究所では、採用活動を企業ブランディングの重要な機会として捉え、就活生から見た企業の魅力度を測る指標として、「採用版・魅力度ブランディングモデル」を開発。連載の最終回となる今回は、本モデルを共同開発した採用コンサルタントの谷出正直氏に最新の就活トレンドや学生の傾向を伺うとともに、採用活動における企業ブランディングのポイントをご紹介します。

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昨今の少子化や人手不足の影響による採用活動の大きな変化を3つの傾向としてご紹介します。

傾向1 採用活動の早期化・長期化

まず、採用活動のスタート時期が年々早まっていることが挙げられます。その理由は、第1回でも話題に上ったように、ここ5年ほど学生優位の売り手市場が続いているからです。売り手市場とはいえ、多くの企業が求める能動的な人材には限りがあります。そして能動的な就活生ほど、自ら情報収集をして積極的に行動し、早くから動きだします。このため、企業も採用活動をより早くから始めるようになっているのです。

ある調査では、2020年に大学卒業見込みの学生のうち13.9%が、2019年3月時点で、すでに内定をもらっていたというデータもあります。

また、採用活動のスタート時期は早まっていますが、志望学生の多い大手企業や人気企業の選考解禁、内定出しの時期は、経団連の指針を遵守する企業もあり、これまでと変わりません。そのため、採用活動は長期化する傾向にあります。

傾向2 インターンシップを活用する企業が急増

インターンシップを活用する企業が急増したことも大きな特徴です。最近は、企業の大小に関わらず、採用活動のフローに組み込む企業が増えています。

中小企業や地方の企業が積極的にインターンシップを取り入れるのは、知名度を高めるためです。就活開始前の知名度と就活時のエントリー数は比例しているため、もともと就活生に認知されている大企業とは異なり、自社を積極的にプロモーションして学生に知ってもらわなければ就職先の選択肢に入ることもできません。

また、知名度の高い大企業がインターンシップを取り入れるのは、会社の中身を正しく理解してもらうためです。というのも、知名度が高いといっても企業名だけを知っている場合が多いのです。

そしてこのようなインターンシップの経験を、現在の就活生はSNSや口コミサイトで共有します。これにより企業の印象や取り組みなどの情報を拡散してもらえるというメリットもあります。

傾向3 採用活動が多様化

採用活動が多様化していることも見逃せません。AIやチャットボット、動画などテクノロジーを活用した、独自の採用活動を展開する企業も出てきました。

これらの傾向は、企業が優秀な人材を獲得するための対策として生まれました。今後も少子化や人材不足の流れは続くため、よほど景気が落ち込まない限り、採用活動の前倒しや多様化の動きは進んでいくといえます。

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採用担当者は人事部の他の業務に加え、早期スタートによる採用活動の長期化や多様化により、多忙を極めています。ジョブローテーションで採用担当になったという人も少なくなく、採用のプロではない場合もあります。そのため、これまでの採用活動を踏襲する、自分の就活経験を参考にする、他企業の動きに合わせるなど型通りの採用活動にとどまっているのが現状です。

企業はこのような状況を打開するには「人を集める採用活動」を改め、「人が集まる会社をつくる」ことを目指さなければなりません。「人が集まる会社をつくる」とは具体的にどういうことか、ある都内の銭湯を事例に、これからの時代に効果的な採用活動の進め方を三つのSTEPに分けて説明します。

STEP1 定義を見直す

昨今、銭湯業界は利用者減に悩んでいますが、その銭湯は、なぜか大にぎわい。そのきっかけは、「銭湯」という定義を見直したことにありました。これまでの「公衆衛生の場」から「地域とのつながりを認識する場所」という定義を新しく打ち立てたのです。

STEP2 定義に基づき、具体的な取り組みを行う

次に、「地域とのつながりを認識する場所」という定義に基づいた取り組みとして、地元に住むミュージシャンのライブを行ったり、日本酒風呂を企画し、酒蔵の人を呼んで利き酒会を行ったりしました。定義通り、地域の人同士をつなげる活動です。

STEP3 情報を積極的に発信する

そして、これらの取り組みをSNSで発信しました。すると、徐々に訪れる人が増え、銭湯は大にぎわいになったのです。

ある時、この銭湯が従業員を募集したところ、あっという間に定員に達しました。定義と取り組みに一貫性があることでファンが増え、その結果「この銭湯で働きたい」と考える人が自然に集まってきたのです。

企業の採用活動も同じです。

STEP1 魅力的なストーリー(定義)を提案する
STEP2 それに基づく具体的な取り組みを行う
STEP3 ストーリーや取り組みを発信する

と、採用期間に関係なくこれらの活動を行うことで自社のファンを増やし、入社希望者を増やすことができます。

この時に重要なのがSTEP2で、ストーリーを提案するだけでなく、それに基づいた具体的な取り組みを実際に行うことです。というのも、第2回でも話題に出たように、就活生は口コミサイトで情報収集するため、お飾りのストーリーを掲げているだけでは、すぐに見抜かれてしまうからです。

また、STEP3では企業広報が重要な役割を担います。ストーリーや取り組みを知ってもらうためには、自社のウェブサイトやSNSなどで常に発信することはもちろん、メディアを通じて学生たちの目に留まるようにする必要があります。また、採用活動と合わせて広報活動を行うことで、企業が求める「積極的に情報を収集している能動的な就活生」たちに伝わりやすいというメリットもあるのです。

このようにして、企業に共感する人を自然と集めることができれば、採用のミスマッチや、数カ月で退社する新入社員が少なくなることも期待できます。

これからの採用活動は人事だけではなく、広報や取り組みで連携する部署など全社が連携して一貫性を持ったストーリーを発信していかなければなりません。

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長期化・多様化する採用活動において必要なのはファンをつくることですが、これは企業ブランディング全体にも言えることです。第1回で述べたように、就活生は入社しなくとも企業の重要なステークホルダーになるため、自社のファンになってもらえれば、中長期に作用するブランディングにつなげることができます。

そこで、「良い人材を採用するための採用活動」だけでなく、「企業ブランディングに貢献する採用活動」という観点でも欠かせない企業広報の5つのポイントをご紹介します。

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①ありたき姿から逆算した欲しい人物像を定義

採用担当者、広報担当者など部署によりミッションは異なりますが、最終的なゴールは「ありたき姿の実現」と共通しています。

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現在の延長で採用したい人材を設定した場合、ありたき姿に到達することはできません。企業の最終的なゴールである「ありたき姿の実現」から逆算して、経営陣や人事責任者、社内のキーパーソンにヒアリングし、具体的にどのような人材が必要かを定めます。

②自社らしさの発見

第1回で紹介した「採用版・魅力度ブランディングモデル」の構成要素の一つ、「採用版・企業魅力度」の4カテゴリーを活用し、社内、ときには社外の公開情報、非公開情報を収集し分析します。特に重要なのはイメージではなく、具体的なファクトを棚卸しすることです。

③一貫したストーリー の構築

発見した自社らしさ・ファクトを基に、ストーリーを開発します。「採用版・魅力度ブランディングモデル」の構成要素である「採用活動」と「社会トレンド」は欲しい人材からの視点はもちろん、自社らしさ・ファクトという視点でも選定し、一貫したストーリーにします。ストーリーに基づいて創出する具体的な取り組みも同様に両方の視点が欠かせません。

④社員を企業ブランド体現者に育成

第2回で就活生のさまざまな情報源は社員にたどり着くと述べました。中長期的な取り組みではありますが、就活生と多様な接点を持つ社員が企業ブランド体現者となるためにインターナルブランディング🄬※1も必要不可欠となります。

※1 社員が企業の理念やビジョンに対する理解を深め、企業のブランド体現者として、それに即した行動をし、内からの企業ブランド構築によって強い企業ブランドを創る活動のこと。(電通パブリックリレーションズの登録商標)

 

⑤オウンドメディアを中心とした情報発信

採用活動を通じた企業ブランディングの情報発信はオウンドメディアをベースに行います。まずは、①で設定した具体的な欲しい人物像、②で棚卸しした自社の魅力的なファクト、③で創出した具体的な取り組み、④で育成した魅力的な社員などの豊富なコンテンツをオウンドメディアに置き、情報発信の土台をつくります。それらを基に、採用イベント制作、採用パンフレット制作、広告制作、メディアの取材誘致などを展開していきます。

 

採用活動は非常に大変なものですが、全社を挙げて連携し、以上の5点を踏まえれば、採用、企業ブランディングの双方に貢献します。3回にわたって採用活動を通じた企業ブランディングのポイントについて解説してきました。より良い採用活動を実践するために、自社の採用活動を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。