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計算を超えたアイデアを。SXSWの4作品に込めたクリエーティブの本領

SXSW2019 テクノロジー×クリエーティブで未来を変えるNo.1

2019/06/14

計算を超えたアイデアを。SXSWの4作品に込めたクリエーティブの本領

毎年、春にアメリカで行われる「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)。世界から多くの企業やクリエーターなどが参加し、音楽、映画、インタラクティブの分野で未来を見据えた作品が展示される祭典です。中でも、新技術やビジネスアイデアが集まるインタラクティブ部門は、TwitterやAirbnbなど、のちに世界的にヒットするサービスが披露され、注目を集めたことでも有名。今年も、さまざまなビジネスの“種”が発表されました。

電通からも、今年は計4作品を出展。この連載では、作品やプロデュースを担当したクリエーターにフォーカスし、一人一人の人物像に迫ります。

今回は連載の初回として、SXSWの全体統括を務めた電通の佐々木康晴氏(第4CRプランニング局 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)に、全体のコンセプトや出展の意義を聞きます。

佐々木氏
佐々木康晴氏(電通 第4CRプランニング局)

価値が定かでないモノが、未来の変革を起こす

ーまずは今年の出展コンセプトについて教えてください。
 
今回、「Pointless Brings Progress.」(価値が定かでないモノが、未来を連れてくる)という出展コンセプトを掲げました。斬新過ぎるがゆえに、一見無意味と思われるモノやアイデアこそが、未来のイノベーションを起こすという意味です。

コンセプト


発明とはそういった歴史の積み重ねであり、新しい未来を切り開くアイデアは、今の物差しを超えたところにあるかもしれません。ですから、たとえ今はまだ評価されにくいアイデアでも、そこに可能性や制作者の思いのあるものはどんどん見せていこうと考えました。

その裏には、“効率化”へのアンチテーゼもあります。デジタルが進歩し、特に広告業界はターゲットを細分化して、確実に効果の出る表現をつくるのが主流となりました。これは素晴らしいことですし、広告の質を高めるためには当然の流れです。

ただ、はるか遠い未来を長期的に見たとき、そのような効率的な手法によって未来を大きく変えるイノベーション、社会を転換させるアイデアが生まれるのか、いくばくかの不安もあります。ある意味で、計算の範囲内の表現・アイデアに収まってしまうのではないかと。そう考えると、効率的なものとその逆にあるもの、両方があればいいと私は思ってきました。

「役に立たないかもしれない」と思われていたものが、実際は大きな変革を起こす。いざ世に出したら予想を超える人気を生む。それこそが、クリエーティブのアイデア力です。だからこそ、そんなアイデアをSXSWでぶつけてみる。そんな意味がこのコンセプトに込められています。

今回紹介する4作品は、電通の社内横断組織「デジタル・クリエーティブ・センター」と社内の有志チーム、そして電通クリエーティブXによるもの。この座組みでの出展は、昨年に続き2回目です。昨年出展に至ったのも、未来に大きなビジョンを描いたアイデアを披露する場が少なくなっていたことがあります。日々の仕事をしていく上で、たとえ良いアイデアを思いついても、そのアイデアを発表できる機会はなかなかありません。その意味で、SXSWは良い場でしたし、クリエーターのモチベーション向上にもつながると考えたのです。

SXSWの変化の中で、未来のビジョンを描いた4作品

ーコンセプトに関連して、なぜこの4作品を選出したのでしょうか。

どの作品も先端技術が使われていますが、技術そのものを見せるというより、それを使ってどんな未来や社会を描くか、技術の先にある大きなビジョンやアイデアの“種”を見せたイメージです。 

というのも、SXSWはかつて、最新の技術をお披露目するテクノロジーの祭典として有名になりましたが、ここ数年は違うフェーズに来ています。新しい技術を見せて評価を得るよりも、その技術が社会に普及したとき、どんな未来が生まれるのか、どんな社会を想像できるのか、ビジョンを問い掛ける場になりつつあります。

実際、主催者もショーをつかさどるトレンドのひとつに「デジタルへの不信感」を挙げるなど、風向きは変わっています。新しい技術自体はもはや珍しくなく、飽和状態にある。だからこそ、その技術と人々がどう共存するのか。例えばAIや自動運転などの技術が浸透したとき、どんな社会が考えられるのか。そのアイデアを描く流れになりました。

こういった文脈の中で、私たちも技術そのものより、そこから生まれる社会やビジョンを軸にした作品を展示したのです。

作品の詳しい内容は各担当者がこの連載で紹介しますが、例えば「SUSHI SINGULARITY」(スシ・シンギュラリティ)は、「食」をデータ化・デジタル化するプロジェクト。特殊なマシンにより、パーソナライズされた寿司を世界のどこにいても再現できるようにするなど、食の概念を変えるものです。

このプロジェクトは昨年に続く出展ですが、あえて継続した“種”を見せるのもよいかと思いました。ビジョンが研ぎ澄まされる様子を連続的に見せた方が、よりその構想の深みが伝わると考えたのです。

他の三つは初めての出展ですが、未来のビジョンにつながるものといえます。「FATHER’S NURSING ASSISTANT」は、赤ちゃんへの授乳や寝かしつけを「父親もできるように」と考案されたデバイス。ジェンダーやダイバーシティーの問題をテクノロジーで解決するだけでなく、子育てのあり方を議論するきっかけになればという思いも込められています。

「RETHINKING TOBACCO」は、新たなバイオ技術で農業の発展を後押しし、食料危機の解決を試みるもの。技術自体はベンチャー企業のものですが、そこに私たちが加わり、見せ方を考えました。「HANKOHAN」は、日本の伝統文化である「ハンコ」を使い、新しいコミュニケーションを提案した形です。

「ストーリーをつくる力」も、この舞台で培える

ー出展しての反応はどうでしたか。

いずれもポジティブに受け止めてもらい、満足しています。来場者の方は活発に意見を述べ、本音を話してくれるので、大きな学びになりました。

会場

今後は、この取り組みを続ける中で、「自分もやりたい」と手を挙げる人が増えるといいですね。確実に効果の出る表現・手法は重要ですが、一方で、誰も考えつかない、突拍子もない発想で大きな成果を出すのは、クリエーターの本領だと思います。大胆なアイデアを出す機会として、SXSWという舞台を大切にしたいですね。

また、今はデータを細かく可視化できるため、何かしらの選択を行う際に、なぜそれを選ぶのか、数値などを使った明確な根拠が求められます。ただ、短期的な効果が期待される広告はデータによって説明がつきやすいものの、突拍子もない未来のアイデアや発想は、データで語るのは難しい。そのときに、なぜそれをやるのか、なぜそれが人々の行動を変えるのか。ストーリーや文脈づくりがこれからのクリエーターに求められます。SXSWは、その力を培える有効な機会だと考えています。

http://dentsusxsw.com/jp/