共創の時代のブランディングNo.3
スタートアップのブランディング
〜プラットフォームを創る求心力の鍵とは
2019/07/10
スタートアップでは、“共創”と“ブランディング”がどう必要なのでしょうか。実情や今後について、スタートアップ支援を行うPlug and Play Japan(※1)社長のヴィンセント・フィリップ氏と、電通の小西圭介氏が対談しました。
※1 Plug and Play Japan=「大企業」×「スタートアップ」のイノベーションプラットフォームとして、2006年に米国で創業。2017年に日本法人を設立。スタートアップのアクセラレーションプログラムを運営しており、2019年度からは投資も開始予定。大企業とスタートアップが共生するコミュニティーづくりを行っている。
スタートアップにとって大企業は欠かせないパートナー
小西:最初に、Plug and Playの独自のビジネスモデルや社会的な役割について、簡単にご説明いただけますか。
フィリップ:私たちの信念として、スタートアップは大企業なしに成長できず、大企業もスタートアップなしにはイノベーションを加速させられないと考えています。だからこそ、その間をつなぎ、両者をマッチングさせる存在として当社があります。
さまざまなテーマで行うアクセラレーションプログラム(※2)を通じて、大企業とスタートアップが交ざり合う環境を整備しています。そうすることで、スタートアップの周りに大企業が集まり、その周りにまたスタートアップが集まり…という循環を生み出しています。
※2 アクセラレーションプログラム=大企業がスタートアップとの協業・出資などを目的とし、オープンイノベーションの一環として期間限定で行うプログラム。スタートアップにとっては大企業との連携やマッチングの機会となる。
小西:Plug and Playでは、スタートアップを育てるノウハウを体系化されていますが、キーポイントは、企業や組織の枠を超えた「共創」のプラットフォームづくりですね。
日本でも最近は、スタートアップの資金調達が容易になっただけでなく、コワーキングスペースなど、従来の組織や企業体を超えて協働ができるような場がどんどん生まれて、いろいろな形で環境が随分変わってきましたね。
フィリップ:はい。このような動きを見ていると、企業のブランディングや価値を高める上で、組織を超えてさまざまな人が共創する形は、今まさに必要だと感じます。
「社会課題の解決」という、目的のブランディング
小西:スタートアップの「ブランディング」というと、マス広告で認知を獲得するといったような活動をイメージしがちですが、そもそも企業の存在目的やビジョンをどう定義するかが、投資や人材獲得など、ビジネスの求心力をつくっていく上で不可欠ですね。
フィリップ:スタートアップのブランディングでは、企業の使命(ミッション)、目指す姿(ビジョン)、組織に共通する価値観(バリュー)などが極めて重要になります。なぜなら、スタートアップはビジネスモデルなどのイメージはあっても、まだプロダクトはないケースが多い。
特に、私たちが支援するのは、創業間もないアーリーステージの企業です。会社や事業の魅力を知ってもらうには、その企業がどんな社会課題を解決し、どう世の中を変えていくのかという、存在目的(パーパス)を明確にすることが大切。そして、それに共感する大企業を巻き込んでいくのです。
小西:ビジネスの基盤となるプラットフォーム構築に加えて、ビジネスパートナーや初期顧客などサポーターのコミュニティーづくりも欠かせませんね。
フィリップ:はい、スタートアップの成長には、コミュニティーづくりが欠かせません。ですので、企業の存在目的の言語化や伝え方、そして誰にどんなメッセージを発するかというターゲティングやマーケティングは大きなポイントです。その意味を考えるイベントも当社で開催しています。
小西:先日もスタートアップのエキスポに参加させていただきましたが、ものすごい熱気で、衝撃を受けました。
フィリップ:存在目的の明確化は、起業する際の1歩目で行うべき作業です。外部とのパートナーシップ以前に、自分たちの会社で働く仲間の獲得、あるいはそこで働く意義を明確にする意味でも大切といえます。人数が少ないからこそ、優秀な人材を早めに獲得するのは必須ですし、チームのメンバーが同じ方向に向かえば成長は早まります。
強固なブランドの存在目的と求心力をつくり、それを軸に仲間や他企業との連携を増やしてブランドを高めていくべきです。
大企業も、自社の価値をスタートアップに発信することが重要に
小西:日本のスタートアップのブランディング課題をどうお感じになりますか。そもそもスタートアップを増やすことが最大の課題かもしれませんが、自分たちの価値を伝えるブランド発信の仕方もまだまだ改善の余地がありますね。
フィリップ:スタートアップは、大企業や投資家に向けた「ピッチ」というプレゼンテーションを多数行います。ここでも、いかに企業の価値や事業の可能性を伝えられるかが鍵になります。グローバルのスタートアップはこの部分が非常にうまく、いわば100のことを120のように大きく伝える。日本はどちらかというと、100のことを80にして伝えてしまう。スタートアップと大企業の連携を増やしていくためには、ピッチ技術の向上にも注力すべきだと考えています。
小西:大企業とのコラボレーションのあり方も、一方的な投資や技術活用だけではなく、お互いのリソースやアイデアを生かして、相互的に価値を生み出すアプローチを進化させていく必要がありますね。
フィリップ:大企業側もピッチを聞くだけではありません。リバースピッチといって、スタートアップに向けたピッチを“逆”に行います。大企業も、自分たちの価値やビジョンをきちんと発信することで、より良いスタートアップとの出合いになります。また、大企業自体のビジョンやブランド、スタートアップに求めるものを改めて整理する機会となります。
もうひとつ大切なのは、お互いがビジョンや価値を発信する中で、どちらかが上になるのではなく、あくまで同じ目線でやりとりすることです。それにより、一緒に取り組む姿勢が生まれていきます。
小西:今回、日本をリブランディングするというテーマを考えていますが、日本ブランドは、かつて製造業によってつくられた品質や信頼、技術イメージがいまだに強い。
一方で大企業化したことで停滞し、ブランド=暖簾がイノベーションを妨げる「重し」にすらなっているとも感じます。スタートアップとの協働は、こうした社内風土を変え、新しい価値を生み出していくチャンスになるでしょうか。
フィリップ:オープンイノベーションという言葉が日本で定着し、実際に価値を生み出すフェーズに来ています。日本はかつて、製造業などでイノベーションを連続させました。
今ある日本をつくった大企業は、昔はみんなスタートアップだったわけです。そのDNAを、ソフトウエアやAIといった現代の技術開発に活用できるはず。大企業とスタートアップがビジョンやミッションを発信しながら、価値を高め合う事例が増えるのではないでしょうか。
(対談を終えて)
社会課題の解決を牽引するスタートアップと、大企業の新たな価値共創の未来
少子高齢化や人口縮小など、社会課題先進国と言われる日本。そんな中で、テクノロジーを活用しながら人間らしい価値や生き方の実現を目指したり、地域や社会の課題を解決したりするさまざまなイノベーションの取り組みが、新世代の起業家から生まれ始めています。
またアクセラレーターやコワーキングの場など環境整備が急速に進み、大企業とスタートアップの価値共創も新たなステージを迎えており、企業の枠組みを超えて、今後社会を変えていくインパクトを生み出す可能性が広がっています。
特に社会性の高い「目的」を軸に据えた、共創型のイノベーションとブランディングは、今後、日本発の強みとなりうる領域だと確信しています。