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共創の時代のブランディングNo.2

コミュニティーのブランディング
〜共創コミュニティーをいかに熱狂させるか

2019/06/26

現代のブランディングについてさまざまな角度から考察する本連載。今回は、ご自身が代表を務めるロフトワークをはじめ、地域と取り組む“ヒダクマ”など、コミュニティーを通じた共創によって価値を生み出してきた林千晶氏と、電通の小西圭介氏が対談。共創を実現するコミュニティーの意義や在り方を語り合いました。

林氏小西氏画像
左からロフトワークの林千晶さん、電通の小西圭介さん

「手段」ではなく、「在り方」としてのコミュニティーづくり

小西:今日のブランディングや価値創造を考える上で、さまざまな人や組織がつながり、共創することが、重要だと考えています。

林さんは創業期からそれを事業モデルとして実践していて、クリエーターと企業をつなげ価値を共創する“ロフトワーク”(※1)や、クリエーターと地域をつなぎ地方創生に取り組む“ヒダクマ”(※2)、未来をつくる渋谷の実験区“100BANCH”(※3)もその典型だと思います。どうやって異質なものをつなげ、コミュニティーの求心力をつくり出しているのでしょうか。

林:私自身は特別な意識もなく、感じるままにやってきたので、そう言ってもらえるとうれしいです(笑)。ただ、ロフトワーク創業から思い続けているのは、1社でやるのが全てではなく、才能あふれる人が共につくるのが価値ではないかということです。

そして、そういったコラボレーションが「手段」ではなく、ひとつの「在り方」として存在すべきだと考えてきました。ロフトワークがプラットフォームやコミュニティーを形成するのは、その思いからです。

小西:人がつながる場(コミュニティー)があること自体が、創造を刺激し、変化を生み出す力を与えるということですね。何より参加する人が楽しそうです。

もう一つ、林さんの仕事で興味深い点は、ヒダクマもそうですし、地方の中小企業の工芸とか伝統産業を支援する取り組みなど、今はまだきちんと経済価値とされていないもの、目に見えない多様な価値にすごく着目して可能性を引き出していることです。

ヒダクマ外観
飛騨古川にある「ヒダクマ」。クリエーターと地域をつなぎ、地方創生に取り組んでいる。

グローバルな競争で、経済合理性を追求して勝っていかなければいけない世界ももちろんあるのですが、私はそれとは違う多様性(ダイバーシティー)が生み出す未来があるはずだと考えています。近年グローバル化が進むほど、ローカルの独自価値が見直されているように、ブランディングも基本的に「違い」が価値を生み出すからです。

林:ダイバーシティーという言葉にすごく惹かれるんですよね。今もダイバーシティーに関わるプロジェクトをしているのですが、もうワクワクして。とはいえもちろん、いくら多様性があっても個人だけだとやっぱり物事は始まりません。プロジェクトで異質なものが合わさったときに、今まで想像したことのない新しいものが生まれるんじゃないか、と考えています。

小西:日本社会が近年イノベーションをなかなか生み出せず、閉塞した状況に陥りがちなのも、企業や組織という枠にとらわれ、多様な個人のポテンシャルを十分発揮できていないことが大きいように感じます。一人一人の個人が立つ形でコラボレーションしたり、生活者と一緒につくったり、これからはそういったモデルがより求められるのではないでしょうか。

林:そうですね。実はロフトワークで最初に始めた事業はオンライン年賀状制作で、いろいろなクリエーターに依頼して50種類作成しました。それは、年賀状という一つのフォーマットでも、さまざまな人とコラボレーションすれば、多種多様で面白いものになると伝えたかったから。その気持ちはずっと変わっていません。

クライアントも輪の中に!上下関係ではない関係を

小西:以前、林さんは「クライアントとも受発注の関係ではなく、仲間として一緒にワクワクしながら、新しいものをつくり上げる」と語っていて。その考えにも感銘を受けました。参加者が自ら新しい企みの主体となることで、「熱狂」を生み出すという点も、共創のモチベーションを高めるポイントですね。

エージェンシーの仕事に、「プレゼン」というものがありますが、クライアントとのインタラクションが少なく、意思や主体が曖昧で一方的な提案作業になってしまうと、逆に価値を生み出す力は弱くなってしまうこともあるのでは、と思うようになりました。

林:ロフトワークでも自社の仕事と受託の仕事がありますが、あまり違いはありません。シンプルにやりたいことをやる。やりたいことがあってクライアントを連れてくるのか、クライアントのやりたいことに私たちが乗っかるのかはどちらでもよくて、いろんな方との共創において、クライアントもその輪の中に入っている。「思い」を共有し、一緒に考える仲間という意識です。

小西:ヒダクマの活動も、企業と飛騨市の共同事業であり、地域とフラットに取り組んでいますね。

林さんが重視する「デザイン経営」(※4)は、広義のデザイナーが商品開発の下流ではなく、最上流から輪に加わる考え方。旧来の商流やピラミッド的な上下関係を変えていくのも、共創の時代に求められる姿勢かもしれません。

判断基準が変わる時代。新しい関係で新しい価値へ

林:デザイン経営が必要なのは、商品やサービスについて、機能や利便性で差別化できる時代は過ぎたと感じるからです。

今や消費者が商品の機能性に不満を感じる機会は多くありません。ただし、完全な満足にも到達していない。ではその間を何が埋めるのか考えたとき、商品やサービスに反映された価値観、それにより実現するライフスタイルだと思っています。

小西:まさに最近は、若い世代ほど、企業のビジョンや、社会的な価値で商品やブランドを選ぶ傾向にあります。

林:であれば、なおさら消費者に商品やサービスに込められた企業の思いや価値観、実現できるライフスタイルを伝えなければいけない。それを担うのがデザインです。だからこそ、デザイナーは最上流から考えるパートナーになるべき。それがデザイン経営の根本で、きっとこれからはそういう形が増えていくと思います。

小西:そうですね。特に今日は、個別企業を超えた社会価値の共創がより求められる時代で、新しいパラダイムで事業をデザインしていく必要が顕在化しています。組織を超えて、日本をリブランディングしていく価値創造の求心力によって、新しいコラボレーションを加速できないかと考えています。

林:1社だけでは解けない問題が必ずあります。そこで大切なのは、多種多様なパートナーの、一人一人にとっての価値と視点を合わせること。それで初めて、共に目指すものや本当の課題解決の仕方が明らかになるのだと思います。

(対談を終えて)
個人の思いがつながることで、コミュニティーの求心力が生まれる

ロフトワークでは、異質なもの同士のコラボレーションを通じて新たな価値を生み出す、まさしく「共創」の仕組みを事業モデルにしてきました。企業や組織の枠から解放された「個人」が主役になって、ともにポシティブな未来をつくり上げていくコミュニティーの運動を生み出しています。

そこでは多くの人が、ワクワクする未来づくりに熱狂して自ら関わっていくことで、時間をかけてでも、確実に社会を変えるような大きな変化と価値をもたらしているのです。

自らの意思と行動で、違った未来をつくり出せる。これからの日本を変えていくのは、何よりもこうした個人の思いがつながることで生まれる、コミュニティーの求心力ではないでしょうか。

※1 ロフトワーク= オープンコラボレーションを通じてウェブ、コンテンツ、コミュニケーション、空間などをデザインするクリエーティブカンパニー。デジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材と向き合うクリエーティブサービス「MTRL(マテリアル)」、クリエーターとの共創を促進するプラットフォーム「 AWRD(アワード)」などを運営。

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※2 ヒダクマ=古民家を改装したデジタルものづくりカフェ「FabCafe Hida」を拠点に事業を展開している、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」の通称。広葉樹の森と伝統の組木、テクノロジーを活用し、クリエーティブな視点で飛騨の森に新しい価値を生み出している。

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※3 100BANCH=パナソニックとロフトワーク、カフェ・カンパニーが、2017年にJR渋谷駅新南口エリアに開設した「100年先の世界を豊かにするための実験区」。100を超えるイノベーション・プロジェクトの拠点となっている。

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※4 デザイン経営=製品やサービスだけでなく、経営の判断や意思決定からデザイナーの発想を取り入れること。経済産業省と特許庁は「産業競争力とデザインを考える研究会」を発足し、2018年に「デザイン経営」宣言を公表。林氏は同会委員となっている。

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