共創の時代のブランディングNo.1
現代のブランディングを考える。
2019/06/12
企業の価値創造の指針となる「ブランディング」。これ自体は長きにわたり語られてきた言葉ですが、デジタル化やグローバル化により、生活環境や消費行動が大きく変化する中で、ブランディングの在り方は大きく変貌しています。
端的に言えば、一方的にブランドをつくるのではなく、さまざまな人と共に創る「共創のブランディング」になりつつあります。
この共創のブランディングという新しい概念は、日本を世界に向けてリブランディングするためにも大きなポイントになるかもしれません。ブランディングは、今、どう変わっているのか?それはこれからの日本社会にどんな機会をもたらすのか?
本連載では、各領域のキーパーソンとの対談を通じて、
・コミュニティーのブランディング
・スタートアップのブランディング
・地域のブランディング
・スポーツのブランディング
などについて、その可能性を考えていきます。
はじめに、新しい時代のブランディングの三つのポイントを解説します。
ポイント1:誰もが主役となれる時代に、「共創」がテーマに
■顧客やパートナーを巻き込む価値創造の仕組みづくり
企業・ブランドと一人一人の顧客が直接つながるデジタル時代。そこでは、メディアを介するよりも直接的な体験や関係によって生み出される価値が、大きな意味を持つようになっています。
アップルやグーグルをはじめ、今日の世界的なリーディングブランドを見れば、いずれも直接的な顧客接点での体験とフィードバックを通じてブランド力を築いてきたのは明らかです。
また、SNSやシェアリングサービスなど個人が主役のプラットフォームが普及し、今や誰もが情報発信や価値創造の“主役”になれる時代。ブランドの情報やコンテンツも、企業発のものよりも顧客の体験や評判がより大きな影響力を持つようになっています。
その中でブランド価値創造の次元も変化しており(図1)、従来の製品の品質や広告などによってつくられたイメージから、顧客の体験や関係による価値へ、そして今日では「企業と消費者」という構図を超え、共にブランドを創る「共創」が主戦場となっているのです。
また、今日の共創は、企業と顧客の関係だけでなく、外部パートナーの力を借りて、従来の事業カテゴリーや専門能力を超えた価値創造を図る、オープンイノベーションなどの領域でも広がっています。いまや、こうしたパートナーをも巻き込む価値創造の仕組みづくりが欠かせない時代だといえます。
(図1)
■イノベーションとマーケティングのプロセスを、共創型に変えていく
現代のブランディングは、単にモノの消費を促すマーケティング手段ではなく、企業や組織経営の目的であり、社会的な価値共創を実現する求心力となるものです。目指すべき価値やアイデンティティーを共有しながら、顧客視点で価値のイノベーションを実現するダイナミックなプロセスを生み出すためには、もっと外部の力が必要なのです。
顧客一人一人にパーソナライズされたモノづくり・価値づくりの実現や、企業の枠を超えた外部リソースの活用で競争力を高めるためにも、一貫した価値の共有を通じて、イノベーションやマーケティングのプロセス自体を、共創型に変えていくことが求められています。
ポイント2:ブランディングは「形容詞」から「動詞」へ
■企業は目的を共有し、人々のアクションを促す
共創型のブランディングでは、その活動の主語も企業やブランドから、顧客や生活者へと転換していく必要があります。例えばブランドづくりの中心に、「製品」ではなく「人(顧客・社員など)のコミュニティー」を置いてみる発想が求められます。
従来のマーケティング手段としてのブランディングは、企業が製品に広告などで一方的に(カッコいい、親しみのあるといった)ブランドイメージをつけて顧客を引き付ける、いわば「形容詞のブランディング」でした。
一方、現代のブランディングでは、企業が自己実現や社会的な課題解決などの目的を顧客やパートナーと共有し、その実現に向けて一緒に価値を生み出すアクション(行動)を促しながら、コミュニティーを形成していく活動を意味しています。このダイナミックなプロセスを「動詞のブランディング」と呼んでいます(図2)。
イメージづくりを超えて、参加する人の生活や社会を変える具体的なアクションを求心力として持つことで、より強固なブランドへの支持と絆を生み出せるのです。
(図2)
■いかに生活者を巻き込み、行動を喚起できるか
顧客やパートナーを巻き込みながら価値創造を行う上で大切なのは、まずどんな課題を解決し、どんな世界を実現していくのかというビジョンや価値観への共感です。ナイキが自社だけでなく顧客に行動のミッション(Just Do It.)を与えているように、そこでは、自社の利益を超えた、顧客・社会主語の発想とリーダーシップが求められます。
また企業の能力やリソースを活用して、人をつなぎながら顧客やパートナーと価値共創を支援・実現していくための仕組み・プラットフォームづくりこそが鍵となるのです。
ポイント3:企業・組織を超えた「コミュニティー」をつくれるか
■コミュニティーを通じて価値共創を加速する
今日ではメーカーも顧客と直接つながるプラットフォームを形成・活用して、「製品起点」から「顧客起点」の新たなブランド価値創造サイクル(図3)を強化していくことが必須です。例えばIoTなどの技術進化は、製品を通じた顧客フィードバックによる価値創造を当たり前にするでしょう。
製品の「サービス化」とは、モノを売って終わりではなく、カスタマイズなど使用体験を高めるサービスを通じて蓄積される関係を強化するものです。昨今「サブスクリプション」(定額制)の事業モデルが人気ですが、これも単に課金の仕方の話ではなく、継続的な関係で一人一人の顧客にとっての使用価値を高めることにつながり、ブランドに新たな成長機会をもたらします。
またAirbnbやUber、メルカリなどは典型的なコミュニティー型のプラットフォームですが、製品サービスだけではなく「人」との交流自体が価値を生み出し、参加者による集合知の活用やコンテンツ発信など、ユーザーを軸にブランド価値を増幅する活動を促進できています。
さらに顧客同士をつなぐことで、情報コンテンツの流通やビジネスの仲介など、新たな需要や共創市場を生み出す発想が生まれます。これらは今やブランド主導のビジネスイノベーションの重要な焦点となっています。
(図3)
■企業や組織の枠を超えた共創コミュニティーづくり
さまざまな領域で、従来の企業や組織を超えた発想で社会的な課題解決が求められています。
目的やビジョンを共有した、価値共創型のブランディングは、組織や個人の枠を超えた取り組みの求心力となり得ます。大企業とスタートアップのオープンイノベーションなどは、まさにその典型でしょう。
地域のブランディングも同様で、自治体など従来の“枠”を超えて、多様な個人や組織が連携しながら、リソースやノウハウを共有して新たな価値を生み出す時代が到来しており、今後大きな社会価値創造のポテンシャルがあるはずです。
新時代の「ジャパンバリュー」を共創するために
ここまで新しいブランディングの在り方について述べてきました。デジタル化と顧客中心のビジネス・マーケティング革新、企業や組織の枠を超えた価値共創などは、日本が今日抱える課題の解決や新たな価値創出にとっても欠かせないものです。
同時に、日本社会の未来を共創し、新時代の「ジャパンバリュー」=日本の価値を再構築していく可能性を秘めているといえます。実際に、従来の枠を超えた共創の取り組みで、日本発の価値を世界に向けて発信する地域やコミュニティー、新世代のリーダーが生まれてきています。
これからの「モノ」から「人」の時代こそ、日本のリブランディングを実現していくチャンスではないでしょうか。
次回から、各分野の共創のブランディングの最前線に焦点を当て、実際にアクションを起こしているキーパーソンに話を聞いていきます。