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電通ビジネスデザインスクエアのこんな未来どうでしょう。No.1

ウェルネスとメディカルを橋渡しし、健康リテラシーの高い未来を。

2019/07/31

電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)は、「愛せる未来を、企業とつくる。」をテーマに2017年に立ち上がった、ビジネスデザインを専門とした組織です。

電通の強みであるクリエーティビティーを用いながら、個性的なスペシャリストが集まって、企業経営のあらゆる領域において、その先にどんな未来が待っているのかを意識しながらアイデアを注入するプロジェクトをパートナー企業と共創しています。

本連載ではBDSのメンバーがパートナー企業とのプロジェクトを通して行っている未来創造の現場を紹介します。

第1回は、フィットビット・ジャパンの千川原智康さんとBDS小島雄一郎が“健康の未来”について語り合いました。運動量や心拍数、睡眠の深さなどを記録し、健康づくりをサポートするウェアラブルデバイスFitbitは、電通でも約3000人の社員が導入。その活用を通じて得た知見とBDSが培ってきたノウハウを掛け合わせ、企業の健康経営を支援する「Fitbit Inner Activation Program」を開発しました。「人生100年時代」といわれる中、私たちは自身の健康とどう向き合えばよいのでしょうか。

メイン写真
フィットビット・ジャパン千川原智康氏(左)と電通BDS小島雄一郎氏

体調の「なんとなく」を可視化する、Fitbitのイノベーション

小島:僕たちBDSとフィットビットとの出合いは、2016年だったと思います。僕自身があるクライアントの人事領域で採用や健康経営のプロジェクトに携わるようになり、Fitbitはもっと多様な使い方ができるのではないかと考えるようになりました。そこで、FitbitをBtoCだけではなくBtoB向けに提供する事業共創プロジェクトをご提案しました。

そこからの約3年間だけでも、Fitbitを通じてできることが劇的に増え、どんどん進化していることに日々驚いています。心拍数や睡眠、その睡眠もより細かいデータが取れるようになり…と。その時々で新たな発見がありましたし、ビジネスの可能性も同時にどんどん広がっていますね。

千川原:気が付けばお付き合いも長くなってきましたね。BDSとプロジェクトをご一緒して、ウェアラブルデバイスのイノベーションの本質は、「なんとなく」を可視化することだと言われて、ハッとしました。それがとてもFitbitらしくて、すっと腹落ちしたんですよ。

誰しも「今日はなんとなく調子がいい」「なんとなく眠い」という日がありますよね。ちょっと私のデータを見てみましょうか。Fitbitアプリによると、昨晩の睡眠時間は5時間11分だそうです。ちょっと短いですよね?でも深く眠れた時間が長いため、意外とすっきりしています。「睡眠時間は短いけれど、今日はすっきりしているな。なぜだろう」という漠然とした問いに対し、データが答えをくれるのです。

今はデータを記録して視覚化しているだけですが、次のフェーズではクラウドサーバに蓄積した一人一人のデータを分析し、何らかのノーティフィケーションを返したいと考えています。心拍数や睡眠データは多くの要素を含んでいるため、健康状態に関するさまざまなことが分かります。Fitbitがウェルネスとメディカルの中間に立ち、二つの橋渡しをするような形でデータを活用していくことになるでしょう。

fitbit
小島:企業の健康経営にもますます役立ちそうですね。実際ここ数年、Fitbitで従業員の健康増進を図る企業も増えています。特にそれを実感したのが、先日プロジェクトの一つとして発表した、企業の健康経営を支援する「Fitbit Inner Activation Program」。社内外から反応がとても大きく、僕たち自身もフィットビットがもちろんクライアントでありながら、パートナーの関係がつくれていることを実感する一幕でした。

千川原:ありがたいですね。私たちも、発想力と実行力の高いBDSのようなパートナーがいることが、社会的なうねりをつくり、動きを加速させていると実感しています。

不思議なことに、Fitbitを着けていただくと活動量が自然に増えるんです。健康意識が高まり、「最近よく歩くようになった」「食事や睡眠を気にするようになった」と気持ちに変化が表れる。その結果、導入企業の医療費が減少していくという明らかなトレンドも見え始めています。

さらに、社員のコミュニケーションも深まります。アメリカの企業では、社員間コミュニケーション、社内の雰囲気ややる気を「エンゲージメント」という言葉で表現しますが、Fitbitによりエンゲージメントのレベルが高くなるんです。今まで仕事上のつながりがなかった人同士にも、新たな関係性が生まれ始めるのだとか。それが愛社精神、会社に対する帰属意識を高める結果にもつながっています。

小島:電通でもFitbitを導入しましたが、社長も若手社員も一緒になって歩数競争をしています。普段社長と接する機会のない若手社員が、「社長って生きてたんですね!架空の存在だと思っていました」と言っていたのが印象的でした(笑)。

千川原:Fitbitの価値を形成しているのは、デバイス、データ、ソーシャルコミュニティーの三つだと思っています。中でもソーシャルコミュニティーがFitbitの真骨頂。実はその価値を教えてくれたのが、BDSだったんです。

例えば、Fitbitのコミュニティーでつながっている友達同士で「チャレンジ」という歩数競争を行うと、それに参加していない人と比較して移動歩数が2000歩も伸びることが膨大なデータの分析から分かっています。仲間と励まし合い楽しみ、競争し合うからこそ、活動量が増えるんですね。まさに小島さんに「千川原さん、Fitbitの意義はここにあります!」と言われ、確かにその通りだと気付きました。

小島:データの視覚化だけが、Fitbitの本質ではないと思いました。

千川原:私たちは、いかに活動的になっていただけるか、いかにして日々の暮らしに変化を起こせるかを重視しています。やっぱり孤独に運動するより、友達と一緒に取り組んだ方が楽しいですし、結果的に長続きしますよね。それこそがFitbitの思想なんです。

健康意識ではなく、健康リテラシーが高い未来

小島:千川原さんが考える「愛せる未来」とは、どんなものでしょうか。

千川原:「健康リテラシーの高い未来」でしょうか。健康リテラシーが高まれば、本人だけでなく、家族や友人、社会に与える影響も大きくなります。自分が健康であれば、家族や身近な友人と一緒にいろいろなことを楽しむ機会が増えますよね。社会に対しては、医療費削減という影響を及ぼします。これこそ、「愛せる未来」といえるのではないでしょうか。

千川原氏

小島:僕もFitbitを愛用していながら思うのが、データが介在することで健康という概念そのものが変わっていくような感覚を覚えています。これまで健康のデータといえば、「健診でA判定をもらえば健康」「人間ドックで再検査になったら不健康」といった、一人の生活者からするとブラックボックスでざっくりとしたデータでした。でも、それとは違う健康の尺度が現れて、個人にフォーカスが当たったデータが取得できるようになったのは大きな変化だと思うんです。

千川原:Fitbitによって視覚化されるデータからさまざまな気付きを得ることができます。視点を変えると、自分で自分をスクリーニングしているともいえます。「最近、安静時心拍が少し高いな」「深い睡眠が短いな」など。これまでは医師が「あなたはこの疾患の可能性があります」と診断するまで、疾患の予兆のようなものを日常的な生活から得られる数値的な変化で感じることはできなかったと思います。Fitbitが取得している心拍数や睡眠といったデータには多くの情報が含まれていて、そうしたデータの分析に基づいて、一人一人にパーソナライズされたより深いインサイト(洞察)を提供することがFitbitが次に目指す世界です。楽しみにしていてください。

小島:海外ではすでに健康増進を図るヘルスコーチングサービス「Fitbit Care」を展開していますよね。Fitbitはヘルスソリューションの領域でも存在感を発揮しつつあります。

千川原:Fitbitが貢献できる領域は、まだまだあると思うんです。例えば小島さんが病院に行って医師の問診を受けたとします。でも、病院から一歩外に出たら、医師には小島さんが何時間寝ているのか、安静時の心拍数はどれくらいか全く把握できませんよね。これだけ情報インフラが発達しているにもかかわらず、病院で問診している時しか医師は患者さんのことが分からない。点の医療といえるかもしれません。

でもFitbitを着けていただけば、院外にいる患者さんを24時間モニタリングできます。これはすごく革新的。あと5年、10年後には、医師が院外の患者さんといつもつながっていることが当たり前になってほしいと思っています。

小島:Fitbitのデータが、心拍数の毎分データとして医師のセカンドカルテになる。個人のデータ管理だけではなく、今まで医療現場にはなかった新しいデータ活用の診断が可能になる、そんな未来は遠くないのかもしれないですね。これこそが、ウェアラブルデバイスが起こすイノベーションの神髄だと僕らも思っています。

千川原:1日の心拍データだけで、ものすごい情報量を含んでいますからね。今も医師、心理学者、文化人類学者、AIの研究者など、さまざまなバックグラウンドを持つ方々がFitbitの可能性を考え、健康の未来を探っています。

例えば米国では、手術の前後期間にウェアラブルデバイスが大きな力を発揮すると発表しています。手術は、体力の消耗が非常に激しい。そこで術前にFitbitを使うと、体力をつけてから手術に臨むことができるんです。そして、術後にガクンと落ちた体力を戻すフェーズでも、Fitbitは有効だとされています。

乳がんは、術後に活動量を高めることがQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上につながるとされています。国立がん研究センターでは「乳がんサバイバーが自宅で行う運動プログラムの開発」(※)というリサーチでFitbitを活用しています。

(※)参考資料
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000041451
 

小島:薬と一緒に、Fitbitを渡される時代が来るかもしれませんね。薬を飲む時、人はどうしてもネガティブな気持ちになりますが、Fitbitなら楽しみながら体力増進を図れるのも魅力です。

千川原:乳がんを経験された方々のコミュニティーから、ご連絡を頂いたこともありました。「私たちの間でFitbitを使った歩数競争がはやっています」って。やはり大病を経験された方は孤独なんですよね。乳がんの術後は活動量を上げなければならないと分かっていても、一人ではなかなかモチベーションが上がりません。「コミュニティーに入り、Fitbitのチャレンジに参加したら、みんなで楽しみながら歩数を伸ばせました」と聞いて、とてもうれしかったですね。

小島:新しい歩数チャレンジを企画する際、共通体験を持つ人でコミュニティーをつくるのは面白いかもしれません。同じ体験を持つ方々が、点の状態で散らばっている。それをFitbitでつなぐことができたら新たな価値が生まれますよね。

3月18~24日、電通社内でも局対抗の歩数チャレンジを実施していましたが、なんと1位はクリエーティブ系の部署。クリエーターは屋内で作業するイメージがありますが、そんな部署がトップだったんです。他の社員も、刺激を受けたと思います。

ポスター
電通 局対抗歩数チャレンジの結果発表

千川原:Fitbit導入企業の中でも、電通は企業対抗型の歩数対決イベントを実施したり、特にユニークな使い方を提案してくれますね。皆さん自身が表現者でもあるので、新しい可能性を発見していただける。それこそが、私たちがBDSとご一緒している最大の効能だと思います。

小島:フィットビットも電通の健康経営も、「楽しく健康づくりをしよう」という点では共通しています。そもそもウチの社員は、楽しくないと興味を示しません(笑)。その楽しさをどう掘り起こすか、それを他の導入企業に波及させていくことで、社会全体の「健康リテラシー」が自然に上がっていく状態をつくる。それがBDSの責務だと思っています。

小島氏

自分のデータが、他の誰かのためになる

千川原:日本企業は健康経営を難しく捉えていて、少しデータドリブンになっているのかな。データを取って分析することだけがFitbitの目的ではありません。それでは着けている方も、実験用のモルモットのような気持ちになってしまいます。最も大事なのは、エンゲージメント。こうしたメッセージを、BDSから強烈にアピールしてほしいですね。

小島:当社にも、「データを会社に取られるのが嫌だ」という社員はいます。でも、その先を見てほしい。自分のデータを会社に提供することが、他の社員のためになる。誰かのために役立っているという意識があれば、新しいコミュニティー、エンゲージメントが生まれると思います。これこそがこれからの健康にとって必要な健康リテラシーではないでしょうか。

千川原:おっしゃる通りです。フィットビットには、世界中のユーザーからメールが届きます。一例を挙げると、糖尿病と診断された方が後にFitbitを購入し運動を続ける中でA1C(血糖コントロール指標の一つ)の値の良好な減少が見られました。ある時、Fitbitが著しい安静時心拍数の低下を検出します。病院へ行くと閉冠動脈硬化症と診断され緊急手術を受けられたそうです。Fitbitが気付きを与え的確な行動へと導いたケースです。この体験談を共有するだけでも、似たような病状の方にとってすごく参考になりますよね。

小島:健康経営に携わる部署も「データを漏らしません」「他の目的では使いません」というアラートは発しますが、「データを提供してくれてありがとう」とは言いません。これからはそういった発信をすることで、意識変革をもたらしたいですね。それが、BDSの考える「愛せる未来」にもつながると思います。

千川原:電通全体がテストケースとして3000人の社員にFitbitを使っていただいています。小さな気付きから大きな感動まで、3000人それぞれの中に散らばっている。それを共有していきたいですね。

小島:私たちプロジェクトチームが気付きや感動をうまくくみ取り、「電通Fitbitサクセスストーリー」をつくって、それを元に、企業を軸とした未来の健康を一緒に考えていけるといいと思います。本日はありがとうございました。

電通ビジネスデザインスクエア WEBサイト
http://www.dentsu-bds.com/