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電通ビジネスデザインスクエアのこんな未来どうでしょう。No.2

夢中になって、「手さぐり」でやる。それが、あたらしい未来を創る。

2019/08/23

機能的かつファッショナブルなメガネを手頃な価格で販売するJINS。ブルーライトをカットするメガネ「JINS SCREEN」や、メガネ型ウエアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」など、業界の常識を覆すような製品で注目を集めています。そんなJINSを一代で築き上げたのが、ジンズホールディングス代表取締役CEOの田中仁氏です。

電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)のメンバーが、パートナー企業と行っている未来創造の現場を紹介する本連載。2008年から足掛け10年以上にわたってJINSを担当し、現在もジンズホールディングスのさまざまな事業戦略、アクションのサポートをする、BDSジェネラル・マネージャーの山原新悟が、田中CEOと語り合いました。

田中氏と山原氏
ジンズホールディングス田中仁氏(左)と電通BDS山原新悟氏

ビジョンを描いて、一気に仕掛けたことで、あたらしい常識が生まれた。

山原:僕が田中社長に初めてお会いしたのは、今から11年前の2008年のことでした。その時、社長が「JINSは日本一のメガネ屋になりますから」とおっしゃったことが忘れられません。オフィスにも活気があって、とても熱量の高い会社だなと思ったことを覚えています。

その翌年の2009年に、「メガネをかけるすべての人に、よく見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する」というビジョン/事業戦略を策定され、そして軽量メガネ「Airframe」を発売されたんですよね。

田中:懐かしいですね。いやしかし、発売前のAirframeに対する反応は、実はあまりよくなかったのですよ。社員にも見せて回ったのですが、ほとんどの人はピンと来ていない様子でした。本気で「いい」と言ってくれた人は2割ぐらい。8割ぐらいの人から、明らかにいいと思っていないリアクションを返されました(笑)。

それでも強い気持ちでいられたのは、策定したビジョン通りのよいものをつくったという自信があったから。商品の魅力をきちんと伝えられていないだけだ、伝えることに力を入れなければいけないと思いました。それがきっかけで、山原さんとのプロジェクトが加速度的に動き出したのを覚えています。

山原:テレビCMのみならず、原宿店の大胆な改装やブランド名の刷新を行うなど、2009年は、一気に“仕掛けた”年でしたよね。

田中:実は2008年頃から、CM、ブランド名、新製品、新業態など、いろいろなアイデアが頭のなかに浮かんでいました。けれどもリスクを考えるとどうしても恐怖心のようなものが出てきてしまい、やり切れる自信を持ちきれなかったのです。しかし、「なんのために会社が存在しているのか」「自分自身がなんのために働いているのか」を考えたらビジョンが見えてきて、そして肝が据わりました。

「これで失敗したら商才がないと思って退場しよう」。そう腹を括ったら、それまでできなかったことをやる覚悟が生まれました。そして、この時の成功で、「勝負はこうすればいい」という肌感覚を掴めた気がするのですよね。それが大きかったと思います。

田中氏

山原: Airframeが大ヒットした後、JINS PC(現JINS SCREEN)が社会的に大きな注目を集めました。慶應義塾大学坪田教授のご協力を得るなど、サイエンスを突き詰めて生まれた、画期的な商品でした。

田中:「メガネは、本当に目が悪い人のためだけのものなのだろうか?」という疑問を持ったことがきっかけでした。メガネは700年間、形も役割もほとんど変わっていません。しかし、サイエンスを用いて機能性を追求すれば、新しい価値を生み出せるのではないか、そう考えて、製品開発に当たるようになりました。

山原:そしてその頃、新しいブランドのタグラインを策定したい、というお題をいただきました。我々の言葉で言うと“Visioneering”(※)と言う手法を使っているのですが、「Create New Standard」という言葉をご提案したんですよね。そうしたら、それを社長がホワイトボードに大きく書いて、社員の方に、「これ、どう思う?」って質問されて。

するとある社員の方が、「我々の価値はそういうことだと思うけど、もっとJINSっぽいことばにしたい」とおっしゃったんです。それでコピーライターのサン・アドの岩崎さんとご相談して生まれたのが「あたらしい、あたりまえを。」というタグラインでした。

田中:すべてが「あたらしい、あたりまえ」につながっていく。ただ変化を起こすのではなくて、それを日常にしていくということ。私たちの事業と向かいたい未来にフィットした言葉を開発していただき、それを共通言語にして社員が走れたのではないかなと思います。

※ Visioneering
企業の存在意義や目指すべき北極星を再定義するアクション。VISIONとENGINEERINGの造語が意味しているように、単に言葉の規定に留まらず、VISIONが及ぼす影響や競争優位性なども分析しながら創り出していく。本当に価値のあるものとして永続させるために、社員の方々などステークホルダーを巻き込みながら策定するプロセスを重視する。
 

JINS MEMEとThink Labから始まる、集中を超えた“夢中”とは

山原:その後、メガネ型のウエアラブルデバイスであるJINS MEMEの開発、そしてJINS MEMEが元となって、2017年12月、集中をテーマにした会員制ワークスペース「Think Lab」をオープンされました。

think Labカフェスペース
Think Labのカフェスペース

田中:JINS MEMEは、瞬き、視線移動、姿勢などを読み取り、それらのデータから集中の度合いなどを可視化できます。東北大学の川島隆太教授から「目から脳の情報を読み取り、活用するウエアラブルがあれば新しい」とアドバイスされ、開発に至りました。

山原:JINS MEMEの開発とさまざまなパートナーとの機能拡充、それがThink Labのオープンにつながったんですね。

田中:JINS MEMEを持って当社の社員が営業に回ったら、お客さまから「こういうメガネをつくっているぐらいだから、JINSの方は、みなさん、ものすごく集中して仕事をしているんでしょうね」と言われてしまったのですよ。

ところが実際に調査をしてみたら、ほとんど集中できていなかった(笑)。そこで、「集中できる場ってなんだろう?」という研究を始め、ある程度の要素や形が見えてきて、「思い切って集中に特化したワークスペースをつくってしまおう」とThink Labを立ち上げました。誰にも邪魔されず、かつ五感を刺激される環境が用意されていて、創造的なアイデアが生まれやすい場になっていると思います。

山原:我々も、Think Labが今後、さらに事業として発展していくお手伝いをしています。そこで感じるのは、今増えてきている他のシェアオフィスやワーキングスペースとは全く違う魅力があるということですね。JINS MEMEで測定した集中のデータを元にして開発されていて、さらに空間という意味でもとても洗練されている。見学に来られた糸井重里さんが、「集中という言葉では表現しきれない、ここは夢中になれる場だ」とおっしゃっていたそうですね。

田中:開業以来、多くの方にお越しいただいています。単に集中できる場所、というより、むしろ深くリラックスして没頭できる場なのかもしれません。

夢中になって、手さぐりで創ることが、イノベーションの源泉

山原:昨年来、Think Labに加えて、JINSの未来を創るさまざまな事業アクションや、インナー向け施策などをお手伝いさせていただいています。その中で改めて感じていることなのですが、田中社長は、今の延長線上にある未来ではなく、とても非連続で、大きな未来を構想されていると思います。そこにはどういう思いがあるのでしょうか?

山原氏

田中:私は、どんな商材でも、どんなサービスでも、必ず進化させられると思っています。やはり、好きなことを信じてやり切る人が未来をつくるのではないでしょうか。私自身も、常に好きなことを好きなように追求しています。ほとんどの失敗は諦めることで生まれますからね。努力は夢中に勝てません。そして、夢中になって、肩に力を入れず、手さぐりでどんどん創り上げていくこと。それがイノベーションを起こす源泉だと思っています。

山原:我々ビジネスデザインに関わっている者全員が肝に銘じたいお言葉です。起業を志す多くの方の勇気にもつながるのではないでしょうか。田中社長は個人でも、群馬の起業家を支援する群馬イノベーションアワード、群馬イノベーションスクールを支援されています。群馬から、また田中社長のような思いを持った起業家が次々と生まれてくると、とても素晴らしいなと思います。我々も同じ思いで、引き続き、夢中になって取り組ませて頂きたいと思っています。

それでは最後に、我々電通ビジネスデザインスクエアに期待いただいていることをお聞かせください。

田中:我々には、なんとなく、こういうことをしたいな、という漠然とした思いがあるのですね。そこを、明確に輪郭をつけてどんどん絵にしていってくれるのです。これは、誰もができることではないと思っています。これからも、一緒に美しい絵を描いていってください。ぜひ、よろしくお願いします。

電通ビジネスデザインスクエア WEBサイト
http://www.dentsu-bds.com/