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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.162

「その手があったか!」な冷凍食品とは?

2019/08/01

カレー

母校の学食で259円也のカレーライスをパクついていると、昔の記憶が次々とよみがえります。あの先輩と大喧嘩をして泣き崩れた夜。あの日、あの時、あの娘との甘酸っぱくも、ほろ苦い瞬間。ひとり赤面しながら向かう先は、一橋大学の卒業生組織、如水会が現役学生のために実施している「食品ゼミ」の教室。業界の専門家や重鎮の中に、なぜか広告会社の人間がひとり紛れ込みました。

全6回の講座の持ち時間は、なんと210分!学生も大変でしょうが、忙しい講師陣の負担もなかなかです。そこで幹事の方々と相談をして、前半をゲストスピーカーの講演に、後半をチーム対抗の演習作業にしました。

演習のお題は「業界が思わず『その手があったか!』と驚くような、画期的な冷凍食品を考えてください」。

メンターのアドバイスに耳を傾けながら、学生さんたちはみんな、七転八倒。この正解のない問いに全力で立ち向かってくれました。

校舎

「ファンキー卵」チームのアイデアは「食べる湿布」。運動し慣れている体育会の学生はアイシングや栄養補給をする習慣があります。しかし「たまにスポーツをする人」は、実はカラダへのダメージがよっぽど大きいだろうにもかかわらず、面倒くさいのか、ほとんど何もしません。

一方、科学的に分析すると、カラダの内側と外側、両方からの手当てが大切だと分かりました。そこで「細長い冷やし枕」のような容器を開発。中にアミノ酸等を補充するドリンクを入れて凍らせ、それをテーピングのように患部に巻いて、アイシング。体温で解けた液体で栄養補給する、という商品案を考えてくれました。

食品と言えば体の内側に「だけ」効くという常識に挑戦した発想でした。

図1

「wish」チームの提案は、おしゃれに食べ歩ける「サラダ・アイスバー」でした。

忙しい大学生は、バイトに行く前の小腹満たしにコンビニの焼き鳥や揚げ物を食べます。しかし、どうにも「がっついている」感じが、特に女性には悩ましいそうです。

そこで果実がたっぷり入ったアイスと同じ工程でつくる、野菜がふんだんに摂れる、塩味のアイスバーを開発しよう、それならドレッシングで手を汚すことなく、しかも見た目もかわいらしくできるだろう、という案でした。

しょっぱいお菓子はあるのに、アイスは甘いものしかない、そんな常識を覆そうという試みでした。

図2

チーム「みかんのスジは食べる型女子」は、外国人が日本旅行の締めくくりに楽しむ「冷凍食品のガチャガチャ」を提案しました。

そこで当たるのは、たとえば大阪「たこやき」、栃木「ぎょうざ」、宮城「ずんだ」のような、一口で楽しめる全国47都道府県の名物だそうです。

2~3時間で自然解凍するので、たとえばLCC利用者が機内で軽食代わりにつまむことができます。メーカーにとっても、餃子一個、たこ焼き一個を通常よりはるかに高く販売できます。

冷凍食品はスーパーやコンビニで売るものという流通の常識を疑った企画でした。

図3

最終的に、これらを冷凍食品会社の役員方にプレゼンしてもらいました。もちろん現実的にはツッコミどころ満載ですが、イキイキと提案する学生さんを見ていて、ぼくは大きく二つのポイントに感心しました。

ひとつは、正解を求めず、果敢に「その手があったか!」に挑戦した姿勢です。

たぶん学生時代に接する問題の多くには正解があり、皆さん、そんなお題を解く思考法に慣れています。しかし今回、わずか6回のセッションを通じて学んだ「正解のない問題を解く方法論」をしっかり使いこなしていたことに驚きました。

もうひとつは、生々しく「誰かの、悩み」に向かいあって企画が考えられていた点です。

単純な話、「こんなメニューをつくったら、売れるんじゃないですか?」的な(ターゲット無視の)提案はありませんでした。これって、食品会社のプロも陥りがちな落とし穴です。全チーム、生々しいホンネを出発点にしていたので企画に「ウソ」がありませんでした。それが素晴らしかったです。

教室

一応その場では優勝チームも決めましたが、個人的には各チームとも甲乙つけがたい出来だったと思います。

何より学生さんからの「後から振り返ると、アイデアを求めて行ったり来たりを繰り返すプロセスが決して無駄になっていないことに気が付きました。その時は追い込まれた気がして苦しかったですけど(笑)」という感想を聴けたことがとても、とてもうれしかったです。
 

どうぞ、召し上がれ!

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