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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.23

クリエーティビティは、天賦の才能ではない

2014/01/23

三田の「つるの屋」は某党幹事長も学生時代から通い続けている、慶應義塾大学関係者ならだれでも知っている居酒屋だそうです。今年も縁あって1年間毎週金曜にメディア・コミュニケーション研究所で講座を担当したのですが、懇親会の会場は決まってこの店でした。アカデミックなキャンパスから徒歩数分。地下に潜ると予想外に大きな空間が広がります。壁には慶應カラーのペナントがずらり。椅子席にいらっしゃるのは人生の先輩方。学生と陣取るのは座敷です。枝豆、ゲソの磯辺揚げ、ニラもやし炒めでビールをガブガブ。「恋の失敗談」を披露し合っては大笑い。「やっぱ鍋には熱燗でしょう」という学生の生意気にもつきあってグビグビ。料理はすべて気取らない味つけでボリュームたっぷり。箸が進むほど、グラスが開くごとに若返る…幻を見ました。(翌朝、厳しい現実を知るわけですが)学生諸君、また一緒に行こう!
 

問題「やっぱ鍋には熱燗でしょう」と生意気を言った学生は誰でしょう?

 

さて。担当した広告特殊講義Ⅰ・Ⅱのシラバス(講義計画)には「広告業界(電通)で働いていて実感することは『クリエーティビティは、天賦の才能ではない』ということです。すでに大学生レベルでもある程度の能力差はあるのでしょうが、それ以上に正しく努力することが必要です。」と書きました。「山田くん、ずいぶんエラソーですね」というご指摘は平に平に受け止めつつ、とはいえ「クリエーティビティなんて自分には関係ない」と思って欲しくなくて、こう書きました。

 

前回まで12回に分けてお話しした「ぐるぐる思考」はコンセプト(アイデア)づくりの方法論です。感じるモードで材料を集め、散らかすモードでありとあらゆる可能性をリアルに検討し尽くし、発見!モードで目標・課題と論理的に整合する言葉「コンセプト(アイデア)」を手に入れ、「磨くモード」でプロフェッショナルの技を駆使して全体を再構成する流れでした。

そしてこのプロセスは1周で終わりません。磨くモードで具体策を世の中に送り出すと、その過程で様々な経験を再び「感じる」ことになります。この経験が自動的に次のコンセプト(アイデア)の材料となるわけです。こうしてぐるぐるぐるぐる、永遠のスパイラルが始まります。

たとえば「新しい自動車と生活者の関係」についてぐるぐる思考をした場合。もちろんその「自動車」についても思考のスパイラルは続きますが、同時に「クスリ」であれ「飲料」であれ「公共サービス」であれ、「自動車」によって身に付けた経験が新しいカテゴリーのコンセプト(アイデア)を開発する材料として大いに役立ちます。

今期、慶應で考えた課題の一つに「もっとネクタイを買ってもらうためにはどうしたら良いだろう?」というのがありました。ほとんどの人が一生懸命「どうやってネクタイを売るか?」に悩む中、佐藤さんという学生さんだけが「ネクタイの寿命」というコンセプト(アイデア)から「どうやってネクタイを捨ててもらうか?」というアプローチをしていました。「みんなそれなりの本数を持っているから買わないのだ。ネクタイの寿命に気がついてクローゼットを整理してもらえれば自ずとチャンスが生まれる」というわけです。なるほどこの「寿命を考えさせる」というアプローチは効きそうです。そして他の商品カテゴリーでも使えるかもしれません。実際「テニスラケットのガットは寿命が3ヶ月」なんて言われていますが、あれも技術革新で丈夫に、切れなくなったガットの買い替え需要を促すために誰かが生み出したアイデアなのでしょう。
 

ラケットに張ってあるネット状のものが「ガット」です。

 

このようにいったんぐるぐる思考が回り出すと様々な分野について自然にコンセプト(アイデア)を考えるようになる、いわば「発想体質」のようなものが身につきます。もちろん個々の経験や技術によって手にするコンセプト(アイデア)の品質に違いはあるでしょう。しかし「才能がない」と諦める必要はないのです。


90分の講義を1年で28回。のべ42時間を学生さんとご一緒しました。彼らが数年の後に世界のあちこちで大胆なコンセプト(アイデア)を開発し、「あ!その手があったか」と嫉妬しちゃうようなイノベーションを起こしてくれることが楽しみで仕方ありません。

次回は群馬県にある玉子焼き屋さんのお話をする予定です。
どうぞ召し上がれ!

正解は彼。迫本さんでした。
(ちなみに左から2番目はコピーライターの岩田さんです)