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LGBT調査2018No.4

LGBTへの企業の向き合い

2019/07/31

ダイバーシティ&インクルージョン領域(各人の多様な個性を尊重し、全ての人の社会参加を目指す考え方)の研究を行っている電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)では、2019年1月に、LGBTを含む性的少数者=セクシュアルマイノリティーに関する大規模調査「LGBT調査2018」(実質的にはLTBTQ+調査)※1の結果を発表しました。

今回の報告では、LGBTへの理解促進の上で非常に重要な役割を持つ「企業」の取り組みについて考察していきます。LGBT層の人に対する人権意識の高揚に伴って多岐にわたる企業活動も大きな影響を受けてきました。各企業の顧客を対象とする社外向けマーケティング活動と社員向けの社内施策の両方にとって、LGBT対応は喫緊の課題となったのです。

※1 LGBTQ+の定義について
DDLの「LGBT調査」では、これまで便宜上、LGBTなどのセクシュアルマイノリティーに該当する人を「LGBT層」と呼んでいました。
これは「セクシュアリティーマップ」(セクシュアリティーを身体の性、心の性、好きになる相手の性に分けたもの)でストレート:生まれた時に割り当てられた身体の性と性自認が一致しており、異性愛者である人以外)の方々と規定しています。
従って、この「LGBT層」の中には、「クエスチョニング(Q):自分の性自認や性的指向を決められない・決まっていない人」やその他も含まれています。

 

自治体の動き、企業の動き

2015年10月の渋谷区・世田谷区の同性パートナーシップ条例・制度に対して、かなり初期にアクションを起したのは生命保険業界であったように思います。それまで死亡生命保険の受取人は婚姻関係にある者か子どもに限定されていましたが、この条例を境に、どのような制度変更が必要か非常に早いスピードで検討されました。

同時に、企業内で働く多くの社員の中にもLGBTの人がいるという認識が広がっていきました。

またオリンピック憲章では、性別・性的指向についての差別が禁止されています。組織委員会が定める調達コードにおいて、入札参加企業にはLGBTへの差別禁止が条件付けられています。

こうした流れの中、2020年のホストシティー東京でも「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」が2018年10月に可決施行され、LGBTへの差別が禁止されました。

多くの企業がLGBT対応をどのようにすればいいのかという明確なガイドラインを模索している中、work with Pride(wwP)というLGBT従業者支援の施策を考えるカンファレンスが2012年、企業向けの勉強会・情報共有会という形でスタートしました。

2016年には「PRIDE指標」という形で五つの指標(P:ポリシー=行動宣言、R:リプリゼンテイション=当事者コミュニティー、I:インスピレーション=啓発活動、D:ディベロップメント=人事制度・プログラム、E:エンゲージメント/エンパワーメント=社会貢献・渉外活動)が定められ、企業活動の実態を評価し表彰する制度も始まりました。そして2018年には153の企業・団体がエントリーし、それぞれがゴールド(130社)、シルバー(18社)、ブロンズ(5社)の各賞を受賞しています。

企業の社内向け施策の効果

「LGBT調査2018」では前回の2015に続き、企業とLGBTの関係について「あなたはLGBTをサポートする企業で働きたいですか?」という質問をしています。ストレート層の68.7%がそう思う(待遇や職種に関わらず働いてみたい=21.6%、同条件なら働いてみたい47.1%)と答えており、2015年の64.0%(同12.7%、51.3%)から4.7ポイントアップしています。

さらに「待遇や職種に関わらず働きたい」というトップボックスについては、21.6%と1.7倍になっています。これは取りも直さず、「LGBTにやさしい企業は全ての社員にもやさしく、個性を尊重して働きやすい環境である」という意見の表れであり、この3年間でその観点を重視する傾向が強まったためであると考えられます。

国内の多くの大学では既にLGBTサークルが立ち上がっており、さまざまな活動を行っています。LGBT学生向けの説明会を行う企業や、就活を支援するNPOが企業とのマッチングを行うイベントを実施するといった例が出てきています。

面接官がLGBTに関する知識を持って面接に臨み、SOGIハラ(ソジハラ:Sexual Orientation Gender Identity…性的指向・性自認に関するハラスメント)を行わないようマニュアルで勉強する企業も珍しくありません。

日本の労働人口が減少し、人手不足倒産のリスクが高まる時代の中で、企業がLGBTフレンドリーな姿勢を示すことは、優秀な人材が集まりやすいこと、社員の離職が減ること、社員の会社に対するエンゲージメントが高まること、パフォーマンスが上がること、などの多くの可能性を生み出します。


企業のマーケティング活動における効果

企業の顧客に向けたマーケティング活動においても、LGBTに取り組む企業にはアドバンテージがあるように見受けられます。

「あなたはLGBTをサポートする企業の商品・サービスを積極的に利用しますか?」の質問に対し、ストレート層の54.1%が賛成(価格や内容に関わらず積極的に利用する10.0%、価格や内容が他社と同等であれば積極的に利用する44.1%)しています。2015年の52.7%(同8.7%、44.0%)と比較しても1.4ポイントアップです。

コモデティー化が進む競争市場において、LGBTにフレンドリーであることで獲得できる企業へのグッドウィルは非常に有効な施策であることが分かります。特にLGBT当事者層だけでなく、多様性を尊重する企業への好感はストレート層の顧客にも多く見られ、LGBTを支援するキャンペーン結果として、ストレート層客の来店人数増加、売り上げ増加という事例が確認されています。


企業の取り組み段階

カミングアウトした相手として「職場の上司」は2.6%、職場の同僚へも4.5%と、職場でのカミングアウトは進んでいません。一方、「誰にもカミングアウトしていない」が65.1%に上り、圧倒的にカミングアウト自体が進んでないことが分かります。

また、「あなたが勤めている企業では性の多様性に関してのサポート制度がありますか?」という問いに対する当事者の回答は、「ある」は16.3%(十分なサポート制度がある5.5%、十分ではないがサポート制度がある10.8%)にとどまっており、制度の対応が進んでいるとは言えない現状があります。

仮にサポート制度があったとしても、それを利用することがアウティング(強制的なセクシュアリティー公開)にならないような運用が確保されていること、さらにはそれを知った上司や同僚が差別的な言動をとらないこと、がセットで実現されなければ意味があるとはいえません。まさに「制度と風土」が両輪で改善されていくことが、いよいよ必要なフェーズに入ってきていると思います。


その先の企業発信へ

企業の活動を直接アピールしていく場として、また社内の当事者でない社員を巻き込んでいく仕組みとしては、国内最大のダイバーシティ・イベント「東京レインボープライド」への出展は格好の場といえるでしょう。

今年は4月28、29日に東京・代々木公園でプライドフェスティバルが開催され、過去最大の20万人が参加しました。協賛出展企業数は278社に上り、過去3年間を見ても増加傾向にあります。非常に多くのメディア取材・露出もあり、盛り上がりを見せました。

欧米ではこのLGBTイシューに関し、企業自体がクリエーティビティーあふれるアイデアで、タイムリーなキャンペーンを実施している事例が見受けられます。

例えば、ブラジルではゲイへの差別的表現として「あのコーラはファンタだ」という言葉があったそうですが、これに対しブラジルコカ・コーラ社はレインボープライドのタイミングに合わせて本当に中身がファンタのコーラ缶を出荷しました。そのメッセージは「このコーラはファンタだけど、それがなに?」というものでした。

その結果、この表現は一夜にしてLGBTを応援する言葉に生まれ変わりました。このキャンペーンに多くの肯定的バズが生まれ、多大なPR効果が生み出されました。今後の企業発信の手法として大きな示唆を与えるものといえるでしょう。

電通ダイバーシティ・ラボが提供するソリューションについて

このような社会状況や企業動向に対応するため、DDLではさまざまなソリューションを準備しています。

社内向け、顧客向けには、共通して知っておくべきLGBTに関する基礎知識や国内外の動きについて、幅広いネットワークと世論把握も踏まえた調査結果などを活用したレクチャーを行っています。

自社の社員対象のコンテンツとしては、企業ポリシーの制定、社内制度変更、研修、ワークショップ、アライコミュニティー※2の組成と活動推進、LGBTイベントなどへの出展、採用活動における企画・コンサルティングなどがあります。

顧客向けの活動では、商品・サービス開発、接客マニュアルやロールプレイ、広告コミュニケーションの企画制作、PR活動などのコンサルティングを行っています。

目前に迫った東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のテーマは「Unity in Diversity」※3。このことからも、LGBTに関する話題が多く報道され、社会の関心もより高まっていくことが予想されます。

そして既に動き出している大きなテーマ「SDGs」では、その17の目標のうちの多くにジェンダーなどの人権関連テーマが掲げられています。企業はその社会的責任を果たす上でも、社員のエンゲージメントを高める上でも、LGBTについて真剣に取り組んでいかなければならないステージに入っているといえます。

※2アライコミュニティー:LGBTでは無いけれどLGBTの人たちの活動を支持し、支援している人たちの集まり
※3 Unity in  Diversity:「みんなの輝き、つなげていこう」という多様性と調和を表す広報メッセージ
 

<事前スクリーニング調査概要>
・調査対象:20~59歳の個人60,000人・調査対象エリア:全国
・調査時期:2018年10月26日(金)~29日(月)
・調査方法:インターネット調査
 
<電通LGBT調査2018概要>
・調査対象:20~59歳の個人6,229人(LGBT層該当者589人/ストレート層該当者5,640人)
・調査対象エリア:全国
・調査時期:2018年10月26日(金)~29日(月)
・調査方法:インターネット調査