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「Commerce Marketing Conference―顧客体験(CX)がブランドの価値を変える」
が開催。Vol.1

2019/09/17

    7月29日、電通ホールで「Commerce Marketing Conference―顧客体験(CX)がブランドの価値を変える」が開催された。(※)カンファレンスでは、オンラインとオフラインが融合していく、コマースの未来が国内外の事例をもとに紹介された。この連載では、6部構成の本カンファレンスのポイントを紹介していく。

    ※当日には電通、D2C、サイバー・コミュニケーションズの電通グループ3社による、日本において初となる「物販系ECプラットフォーム広告費」の推計が発表され、2018年に1123億円(前年比120.6%)に達し、さらに2019年には1441億円(同128.3%)にまで成長する見通しであることが報告された。

     


    第1部「小売業のデジタル化の戦略」

    【講演者】

    小林 敏郎 氏
    株式会社ローソン
    マーケティング戦略本部データ戦略部 シニアマネジャー
    相澤 利彦 氏
    TSUNAGU・パートナーズ株式会社
    金 均 氏
    (元am/pmジャパン代表取締役社長)
    電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント

     

    写真左から、電通〇〇の××氏(←プログラムにお名前記載がな空欄)TSUNAGU・パートナーズの相澤利彦氏、ローソンの小林敏郎氏。
    写真左から、電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタントの金氏、TSUNAGU・パートナーズの相澤利彦氏、ローソンの小林敏郎氏。

    第1部は元am/pmジャパン代表取締役社長で現在はTSUNAGU・パートナーズの相澤 利彦氏とローソン マーケティング戦略本部データ戦略部シニアマネジャーの小林敏郎氏が登壇。am/pm時代には「分析社長」と呼ばれていたほどデータを利活用してきた相澤氏が、ローソンで長年、顧客データの利活用に取り組んでいる小林氏とともに、データを起点とした小売業のデジタル化戦略について議論を交わした。

    電通デジタル 客員エグゼクティブコンサツタント 金氏。
    電通デジタル 客員エグゼクティブコンサツタント 金氏。

    まず、相澤氏からリテールテックの進化が進む中国の状況について解説があった。「ネットモールのイメージが強い中国のアリババだが、現在は中国最大の売り上げを誇る自動車ディーラーにもなっている。中国においてはそれだけ、オンラインとオフラインが融合しているということだ」

    なぜ、アリババが高価な自動車を販売できるのだろうか。その理由について相澤氏は「アリババグループはネットモールだけでなく、リアル店舗も構え、両方の接点で個客データを取得している。そこで得たマイクロデータを基に個客を理解したプロモーションが奏功している」と解説した。

    相澤氏によると中国以外でも、またメーカーにおいてもマイクロデータを基にしたプロモーションは始まっているという。例えば米P&Gの「パンテーン」は、気象データとユーザーの髪質データを活用し、湿度が高いと髪が広がるユーザーに対し、そういった気象条件の日には、それに対応した商品のリコメンドをしている。狭いロケーションの気象データを活用し、かつ顧客のプロファイル情報に基づいて、異なるマーケティングメッセージを配信したことで売り上げ24%増加を達成したとのこと。

    こうした状況を踏まえ、相澤氏は「従来型のマスマーケティングは終焉を迎えつつある。過去にないレベルのデータが取得できるようになり、マーケティング、戦略、オペレーション、商品開発に生かせるようになっているのが今の状況」と語った。

    TSUNAGU・パートナーズの相澤利彦氏からは中国をはじめとする海外の最新のデータ利活用の取り組みが紹介された。
    TSUNAGU・パートナーズの相澤利彦氏からは中国をはじめとする海外の最新のデータ利活用の取り組みが紹介された。

    一方のローソンの小林氏からは自社におけるデータ利活用の取り組みが紹介された。ローソンのデータ利活用の歴史はローソンのシステム化の歴史と密接に関わっていると言い、「POSデータを取得するようになったのが1988年、個人を識別できるようなカードの導入が2002年から。さらに昨年から今年にかけて、自動釣銭機がついたレジを随時導入しているのだが、そこではレジの客層キーがなくなった。Pontaカードを提示してもらえば、店員がデータ客層キーを押さなくても、顧客を理解できるようになっているから」と続けた。現在、ローソンでは売り上げの5割程度の顧客の属性が、レジで客層キーを押さずとも、Pontaカードのデータから分かるようになっているという。

    また、客層キーを押すことで登録されるのは、あくまで性年齢別の区分にすぎない。ローソンではそこから一歩進み、ライフステージ、さらには価値観で顧客を分析している。具体的には2017年から顧客の価値観に合わせた九つのセグメントを導入。そのセグメントとは、直感買いワーカー、脱メタボワーカー、食欲旺盛ワーカー、ご褒美女子、時短効率ママ、家庭的手料理ママ、節約パパ・ママ、保守堅実シニア、上質プレシニアの九つ。

    この9セグメントをもとにした商品開発も進んでいる。例えばセグメント別に好きなメニューを聞いたところ、複数のセグメントで「からあげ弁当」という回答が出てきた。しかし、セグメントによって好きなからあげ弁当は異なる。そこでさらに、どんなからあげ弁当が良いのかを質問。すると食欲旺盛ワーカーからは、大盛り、具たっぷりといったキーワードが上がってきた。一方で、性年代的には近しい脱メタボワーカーからは、国産、野菜たっぷりといったキーワードが出てきた。これまで30~40代の男性向けのからあげ弁当といえば、ボリュームをうたうものが企画されがちだった。しかし、価値観セグメントをしたことで、脱メタボワーカーに支持される、新しいからあげ弁当の大ヒットにつながった。

    今回のカンファレンスではメーカーに所属する参加者が多いことから、小林氏からはメーカーとの共創についての考えも示された。具体的には、ローソンが保有するデータをメーカーとともに活用できるのではないかとの提案だ。

    ローソンでは、約200億件の売上データを内包したプラットフォームを保有しており、すでに約70社のメーカーとはすでにそのデータをシェアしているという。パネルディスカッションでは小林氏から実際に、このデータプラットフォームを活用したデモンストレーションも行われた。

    ローソンの小林敏郎氏は、データプラットフォーム利活用のデモを行った。
    ローソンの小林敏郎氏は、データプラットフォーム利活用のデモを行った。

    このプラットフォーム内に入る購買データは期間と店舗と顧客と商品の四つ。さらに、先の九つのセグメント別のデータ分析も可能だ。デモでは、ビール各社の購入者像を価値観セグメントでマッピング。膨大な購買データ×価値観セグメントで、主要ビールメーカー各社のブランドが、どのセグメントのユーザーから支持されているかが分かり、自社のポジショニングが明示されるというもの。

    今年から、このプラットフォームで会員に対してアンケートを行う機能も実装。これはロイヤリティマーケティングとの共同企画で、その商品を買った顧客にアンケートを依頼することが可能だという。通常、コンビニでは火曜日に新商品が発売になるが、その週の土曜日にはアンケート結果が分かるようになっている。

    小林氏は「年間100~200本この調査を行いたい」と話し、さらに「メーカーの人たちと同じデータを基に会話ができると、意思決定のスピードが速くなるし、考えるために使える時間が増えることになると思う」と続け、「今後はメーカーの人にも活用してもらいたい」との意向を示した。

    次回は、「EC活用の新視点」と題された第2部の模様を紹介する。