PR効果測定とデータ・ドリブンPRとは
2019/10/17
PR活動の目的として、企業価値ともなるレピュテーションや認知度、ブランド力の向上を掲げている企業は多いと思います。効果的なPR活動を行うには、新商品発売や事業提携などさまざまな企業活動においても、これらの目的から逆算し、PR活動計画を戦略的に構築していく必要があります。
PR活動の戦略立案には、まず社会環境や市場の調査を行います。そして、その状況に合わせてPR戦略を立案・実行し、効果を測定し、活動自体の継続可否を判断し、必要に応じて修正を加えるというサイクルを何度も回していきます。PR戦略は経営の根幹でもあるため、その影響は常に測定する必要があり、効果測定が不可欠です。
そこで、本連載では、データ・ドリブンPR(調査から得たデータに基づくPR)における効果測定について、さまざまな観点から論じていきたいと思います。
PR活動における効果測定の現状と課題
電通パブリックリレーションズの研究組織である企業広報戦略研究所の調査によると(図1)、効果測定は直近の2018年のデータ(n=518社)で84.7%と多くの企業で実施されていますが、その指標を見ると、「新聞や雑誌で報道された件数、分量」「自社ウェブサイトのアクセス数」などをはじめ、実に多くの項目にわたります。
この多様さからも、各企業とも最適な効果測定を求めて苦戦している様子がうかがえます。それではなぜ、多くの企業が苦戦しているのでしょうか。
その要因として大きく、三つのことが考えられます(図2)。
一つには、「PR効果の定義が不明確」ということが挙げられます。効果測定というとメディアに露出した結果を指標としている、またその結果を広告費に換算しているケースが主流を占めています。しかし、PR活動の成果に関する世界の潮流は、情報をどれだけ露出したのかというアウトプットから、例えば商品・サービスの問い合わせ数や売り上げ、採用説明会への参加者数など、露出した情報がどのような効果を生むのかというアウトカムに変わってきています。
しかし、アウトカムは、さまざまな要素が絡んだ結果であり、PR活動の成果のみを抽出することが非常に難しいという現状があります。
二つ目の課題は、「PR活動に活用するメディアの多様化」。従来のパブリシティーやアナリストリポートなどのアーンドメディアや広告などのペイドメディア中心から、ウェブサイトなどのオウンドメディア、普及したソーシャルメディアや口コミなどのシェアードメディアへと、企業が対応を迫られるメディアは広がりを見せています。
各メディアへ対応するリソースを割くことが難しいことに加え、特性の異なる各メディアの成果を、アウトプットに限ったとしても統一的に評価することに苦労している企業が多いのが現状です。
三つ目の課題は「継続的な定点観測の必要性」が挙げられます。単年の数値では、施策の効果を検証することが難しく、実施前後での変化や経年での活動状況を捉えようと思うと、毎年、一定程度の予算を確保する必要があります。これも多くの企業にとって難しいことではないでしょうか。
効果測定の“効果”と重要性
しかし、だからといって、効果測定を「後回しにしてもよい」、さらには「やらなくてもよい」と考えるのはリスクがあります。むしろ効果測定は、PR活動を行っていく中で、次のような非常に重要な効果を生むことが期待できます。
一つ目にPR活動の“PDCAを円滑に回す”という効果があります(図3)。
効果測定は、PDCAのCに当たりますが、このプロセスがなければ経営目標に対して、PR活動が想定した効果を生んでいるのか把握できないことになります。例えば、「どの程度露出したのか」というアウトプットはもちろん、「記者はどう感じたのか」「記事や番組などを見たステークホルダーはどう感じたのか」などが不明だと、どのようなレピュテーションが形成されたのかも分かりません。
その結果、現状の戦略について判断ができず、レピュテーションの維持・向上が図れない、ひいては企業価値そのものを低下させてしまうことにもなりかねないのです。
二つ目に“PR活動の基盤をつくる”という効果もあります。基盤とは「PR活動を担う人材の育成」と「社内協力体制の構築」です(図4)。
PR活動で効果を得るためには、活動を担う人材の育成は欠かせません。目標や担当者個人の成長ステップを踏まえた活動を行い、その結果を効果測定で捉えた上で、次のステップや個人の課題改善につなげる。携わる人がスキルを高めるサイクルをつくり上げることで、組織としても向上することができます。
さらに、良質な情報発信の素材として欠かせない、“社内協力体制の構築”も重要です。情報発信に協力してもらった後、その情報をどのように活用したのか、その結果を協力者や部門にフィードバックすることで、継続的な協力体制を構築することができます。
継続的にPR活動へリソースを投資し、PR機能の強化と基盤構築を行い、成果を上げていくためには、効果を測定し、説明責任を果たしていく必要があるのです。
効果測定では何を測定するのか~PR効果測定の現場
本稿の最後に、PR活動の状況を把握するために、PR活動の効果測定の課題である「継続的な定点観測の必要性」「PR活動に活用するメディアの多様化」に対応するために、実際にどのような調査手法があるのかに触れておきたいと思います。
・Reach-Point調査
ニュースメディアとソーシャルメディアの露出量をリーチ可能数で測定。PR施策によるメディアごとのリーチの大きさやヤマ、時系列変化が分かり、多様な施策の統一的な評価や効果検証、PR活動のKPIとして活用されます。
・ニュースメディア調査
報道結果をメディア別にリーチ数、件数などで定量的に分析する報道状況分析、各メディアの報道内容の論調を定性的に比較分析する論調分析、記事を書く記者の認識や知識、考えをヒアリングによって把握するメディアヒアリングなど、さまざまな角度からメディアの状況把握に役立ちます。
・ソーシャルリスニング
ソーシャルメディアや口コミなどシェアードメディアの訴求力は、年々高まっています。特に、Twitterで生活者が発する端的なつぶやきは、生活者の本音が出やすく、その反応、メッセージの波及状況を把握するツールとして最適です。これを分析する調査手法が、ソーシャルリスニングです。多大なサンプル数をスピーディーに確保できるというメリットもあります。
・ターゲット調査
主にウェブ調査で、年代、職業など属性や特定の行動や反応をする人など限定した対象にフォーカスし、ソーシャルリスニングでは取り切れない反応を把握します。
・魅力度ブランディング調査
電通パブリックリレーションズの研究組織である企業広報戦略研究所が2016年から行っている調査です。生活者が企業に感じる魅力を、人的、財務的、商品的の3魅力分野18領域で表す調査手法が企業魅力度調査です。150社の調査結果との比較から、自社のPR活動の強みや弱みを把握することで、戦略や体制の見直しに活用することができます。
調査事例
・企業広報力調査
企業広報戦略研究所が2014年から行っている調査です。企業広報に求められる活動を、八つのカテゴリー、80項目に分類した「広報オクトパスモデル」に基づいて、日本で上場する企業の広報担当責任者を対象に2年に1度調査を実施。業界平均と比較し、自社の広報力の強みと弱みを分析します。
調査事例
目的の明確化によるギャップ把握
ここまで、PR活動の効果測定の現状と課題、そして具体的手法について紹介してきました。しかし、PR活動における最も重要なことは、効果測定そのものではなく、「何のためにPR活動を行っているのか」という目的の明確化です。そして、その目的に合わせた施策の立案・実行にあるのは言うまでもありません。
PRによるレピュテーション向上の目的は、売り上げ貢献や採用活動支援など、企業によって異なると思いますが、考えうる全ての施策を実施するのは、予算、人員のリソースの都合上、現実的ではありません。
そのため、都度効果を検証しながら、どのように目標とのギャップを埋めていくのか、何を優先するのか、施策と社会ニーズなどの整合性が取れているのかなど確認し、計画や施策の修正、継続可否の判断などを行っていかなければなりません。
このPDCAサイクルを回し、効果的なPR活動を行っていくために、特に、現状把握であるCに当たる効果測定が重要なのです。
PR活動の目的や各施策の機能が明瞭であれば、おのずと測定項目や数値目標も明瞭になります。効果測定を企画、実施する際には、PR活動の目的にしっかりと立ち戻り、活動の礎となる“効果的”な効果測定を行っていただく参考として、本稿がお役に立てれば幸いです。