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編集思考で未来を切りひらけNo.1

NewsPicks佐々木紀彦氏から若手ビジネスパーソンへ 決断センスを磨く「編集思考」とは

2019/10/17

東洋経済オンラインやNewsPicksの編集長を歴任し、現在は電通との合弁会社であるNewsPicks StudiosのCEOとして動画を中心としたコンテンツ制作を指揮する佐々木紀彦氏。経済誌の記者からキャリアを始めた同氏が、編集者、経営者、映像クリエーターと、仕事の幅を広げる中で培ったスキルが「編集思考」です。

このスキルを体系化した『編集思考』が10月4日に刊行されましたが、その著者佐々木氏は、その背景には特に20代から30代の若手ビジネスパーソンに対する思いがあると話します。NewsPicksアカデミアのプロフェッサー(講師)としての顔も持ち、同氏をよく知る電通のクリエーティブストラテジスト、工藤拓真氏がその真意に迫ります。

NewsPicks佐々木紀彦氏(右)と電通ソリューション開発センター工藤拓真氏
NewsPicks佐々木紀彦氏(右)と電通ソリューション開発センター工藤拓真氏


「編集思考」は狭義の編集を超えた、普遍的なビジネススキル

工藤:新著の中で、編集思考は「選ぶ」「つなげる」「届ける」「深める」という四つの機能の集合だと定義しています。編集というと、一般的には雑誌や書籍をつくる人たちが持つ特殊なスキルだと思われがちですが、ここではどういったことを意味しているのですか?

電通 工藤拓真

佐々木:従来的な編集者は、どうしても「選ぶ」と「つなげる」のところに注力しがちです。私も記者、編集者を長らくやってきたのでよく分かりますが、特にオールドメディアと呼ばれる業界の人たちは「届ける」のところで失敗してきていると思います。

たとえば新聞社が、ウェブでコンテンツをどう届けるかについて、キュレーションアプリやポータルサイト以外のチャネルをもっと早く検討していたら、もしかしたらビジネスの主導権を握れていたかもしれない。テレビは地上波の普及率が非常に高いので、これまでは「届ける」を考える必要が薄かったですが、TVerのような取り組みや、SNSやYouTubeの活用にももっと早く着手した方がよかったですよね。

工藤:広告会社の立場としては、「深める」ことの重要性が高まっているように感じます。打ち上げ花火のような一過性の施策がうまく機能する局面は限定的です。さまざまな事業で「売って終わり」の関係から、「売るが始まり」にビジネスモデルが変化していく中で、広告やプロモーションという領域を超え、生活者との関係を深めるアプローチを模索する試みが増えています。

佐々木:まさにこれからの時代は、一発ドカンと売れるだけじゃだめだと思います。サブスクリプションモデルのように、ユーザーとの関係を結婚のように長く続くものとして捉えていくべきでしょうね。

実際に、NewsPicksでもやっとYouTubeに力を入れ始めたんですが、チャンネル登録者数が増えると、そこを経由した課金も増えるんですね。私自身も「届ける」「深める」はまだ勉強中な部分もありますが、ユーザーさんに毎月1500円払い続けてもらうための深い関係性やコミュニティーをどうつくるのかとか、5年間かけて試行錯誤したことを皆さんにもシェアしたくて、すべてこの本に載せてあります。

佐々木紀彦氏

工藤:そういった意味では、この四つの機能は狭義の編集では捉えられない概念ですよね。いろいろな職域を横串にした、ビジネススキルの一つのパッケージともいえそうです。

佐々木:そうなんです。実は編集思考を一番駆使しているのは起業家や経営者や事業創出のプロなんじゃないかと思っています。人やアイデアをうまく選んで、つなげて、一つのプロダクトとして顧客に届けて、深める。全部やっているんです。経営のあらゆる場面で編集思考が応用できると思います。

ソニーの盛田昭夫さんも、ウォークマンをつくったときに「既にあるものをくっつけただけ、それがイノベーションなんだ」と言っていますし、阪急の創始者、小林一三さんもその良い例です。彼は初めて鉄道の各拠点の駅に百貨店をつくり、さらにその沿線に家を置いて住宅ビジネスもつなげ、さらに住宅ローンを開発して金融までやって一大グループをつくり上げました。偉大なイノベーターというのは、異業種をパッと見て、編集して、うまく届けていく人なんだということは、普遍的な話なんです。

工藤:最近では広告会社が、「選ぶ」段階から、経営者や事業主の方々とご一緒する機会も増えてきました。そういう意味でも、広告クリエーターやマーケターといった職種の人たちこそ、編集思考の四つのポイントを駆使する必要がありそうですね。


意思決定のセンスを磨き、リーダーになれ

工藤:経営者でなくともこのスキルセットは非常に重要ですよね。佐々木さんがよく名前を挙げるコルクの佐渡島庸平さん、東宝の川村元気さんといった方たちも編集思考のプロですよね。

佐々木:彼らのように、どうつないで、どうプロモートするかという、これまでの編集を抽象化したスキルとして使える人のニーズは高まっています。編集者のスキルを構造として捉えて、ビジネス上の意思決定に応用することができれば、業界を選ばずに活躍できるようになるはずです。意思決定というと大げさに聞こえるかもしれませんが、一つ一つの仕事で大なり小なりみんなが意思決定をしています。

工藤:ビジネスの意思決定に応用する、というのはたしかにその通りですね。編集思考の四つの機能は、プロジェクトを進めるときに、まずアイデアを出すためのフレームワークにもなります。選ぶ・つなげる・届ける・深めるというのは、小さな決断のタイミングを表してもいますよね。この流れに沿っていくことが、実は決断の連続にもなります。

もう一つ大事だなと思うのは、この決断は締め切りや公開日まで何度でもやり直せるタイプの決断なんです。会議の場などではまず、やり直せる前提で決断してみる。たとえば編集思考を一つのフレームワークにして、アイデアという名の決断を自分でしていく習慣ができると良いですよね。

佐々木:そうですね。特に大企業の会議などのような場面だと、一言一言に重みや責任が出ると思い込んでいるせいか、そういった取っ掛かりのアイデアさえなかなか出ないことも多いですよね。

アイデア出しはセンスだとか直感だとか言われていますが、じつは体系化できるものですし、会議の発言でも何でもいいので決断の回数を増やしていくことで精度が上がっていきます。ささいなことですが、何かイノベーティブなことをやりたいと思っているんだったら、毎日のランチで何を食べるかまで意識的に決断してほしいです。あえて毎日同じにするというのも決断ですし、とにかく自分で何かを決めることを習慣化するのが重要です。

工藤:「小さな決断」を、仕事に日常に、ふんだんに取り入れてみる。良い企画やアイデアを出したいと思っている人にとっては、大切なことですね。佐々木さんはいつからそうした習慣を持っているのですか?

佐々木:ひとつのきっかけになったのは20代の終わりから30歳まで留学したことです。海外の本当にすごい人たちを見てきて、負けているなと。意思決定にも関係しますが、海外のエリートはたいてい20代でリーダーをやらされているんです。

大小はどうあれ、山の一合目と十合目では景色が違います。だから低い山でもいいので、まずは頂上から物事を見るのは大事だと思います。私も帰国してから、33歳くらいで東洋経済オンラインの編集長に手を挙げました。数人だけの編集部でしたが、そこでリーダーをやったことで視界が変わったんです。その経験もあって、若い人たちへのメッセージの一つは「いくら名だたる大企業にいても、下っ端の仕事をやって30代を終わったらだめだよ」ということですね。

佐々木紀彦氏

工藤:その山も、今は自分でつくりやすい時代ですよね。それこそNewsPicksと電通のコラボレーションもそうですし、プロジェクトの形が柔軟になってきています。20代でも自ら提案してリーダーになれる可能性は少なくないと思います。


編集思考を一つの型に、自ら意思決定ができる人材になること、そしてリーダーになることの重要性を説く佐々木氏。若手ビジネスパーソンへ向けたメッセージとして、もう一つ伝えたいこととは?(後編につづく

 

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